めんこい通信2024年5月28日号
◉世界耳栓時代
街に出るとヘッドフォンとかイヤフォンをつけている人たちが目につきます。電車内ではほぼ全員がスマホ画面を眺め、ワイヤレス・ヘッドフォンをつけて何かを聞いている姿もよく見かけます。ワダスも実は、一人で散歩するときや電車で移動する際はワイヤレス・イヤフォンをつけて音楽を聴いているのですが、これって考えてみると他者とのコミュニケーションを自ら遮断している、つまり耳に栓をしているような感じなわけですよね。ワダスが20代の頃はまだ、たまたま隣り合った乗客と話したり知り合いになったりすることがあったのですが、今やそういうことはほとんどなくなりました。
で、こういう現象はどの世界にもあるような気がしてきたのでした。パレスチナを攻撃し続けるネタニヤフとか、ウクライナ侵攻をやめられないプーチンとか、聞く力を持つと自慢しつつ国賓待遇のアメリカ訪問でバイデンらに褒められて嬉しそうなキシダとか、裏金なんかまったく知らないと平然と答えるジミントーのセンセー方とか、「絶対に有罪だ」と信じ込む袴田事件や大川原加工機問題を扱った警官、検察官、裁判官の一部とか、剥き出しの差別感情を吐露する某女性議員とか、能登半島地震の復旧復興に熱心でないように見えるハセ知事とかジミントー議員とか、なんと言われようが万博は絶対にやるもんねのヨシムラ知事とか、利用率低迷(国家公務員利用率5.7%)なのにやはりなんと言われようとマイナカードを健康保険証代わりにするというコーノ大臣とか、ほとんどインチキに近い「健康」食品やらサプリメントを売りたいメーカーやら、そうした商品がインチキであろうがなかろうがゼニになるからという理由でテレビやインターネットでCMを垂れ流す人々とか、商品の紅麹サプリで死亡事故が発生したのにしばらくダンマリを決め込んでいたコバヤシセイヤクとか、ワダスから見ればみーんな他者の言うことなんかまったく聞かず耳栓をつけているとしか思えないのでした。もっとも、この耳栓現象というのは今に始まったことではなくてずっと昔からそうであったようにも思えますけど。
こんなふうに、世界耳栓時代だからというわけではないのですが、中川家もちゃんとそれに適応しています。就寝時、タブルベッドの隣の久代さんは寝たり起きたりしつつiPadに繋いだイヤフォンで時事問題を聞き、ワダスは、アマゾンのファイヤー・タブレットに繋いだイヤフォンでYouTubeの音楽やいまだ理解の及ばない量子力学とか宇宙解説とか日本の歴史とかを聞いてやがて眠りに落ちるという生活が続いています。ということで、中川家は他人が見たらちょっと異様な光景かもしれない就寝時耳栓家族なのでした。皆さんはそんなことないですかねえ。
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===これまでの出来事===
◉3月2日(土)/CAPSTUDYパーティー/神戸市立海外移住と文化の交流センター、神戸
12月から始まった講座CAPSTUDYの打ち上げパーティー。講師の岡登志子さん、藤本由紀夫さん他、担当の築山さん、河村さんや参加者の一部が集い、あだちようこさんの料理やワイン、ビールでおしゃべり会なのでした。ダンスの岡さんが山形へ行ってきたなどという話で盛り上がったのでした。講座は好評だったので10月からさらに継続したいと下田さん。会場は東遊園地 Urban Picnicと海外移住と文化の交流センター sumicoです。ワダスも再びUrban Picnicで6回シリーズで喋ることになったのでした。
◉3月9日(土)19:00~/インド音楽講座ZOOMインタビュー中継/中川家
◉3月19日(水)短足麻雀/中川家/参加:植松奎二、塚脇惇、東仲一矩
◉3月20日(水)/高濱浩子個展「めぶきのまつり」井上想ライブ/島田ギャラリー、神戸
かつてのCAPHOUSEの仲間が集合。塚脇さん、渡辺ちほさん、本位田さん、主役の高濱浩子さん、的場+ジョー一家、所さん、下田さん、ヤンジャさん、井ノ岡さんなど、懐かしい面々と再会したのでした。カトマンズでドゥルパド・スタイルの声楽教室をやっている井上想君が完全なソロで約一時間演奏。ラーガは、午前中ということもありコーマル・リシャブ・アーサーワリー。なかなかに成長していました。その井上君が昼過ぎに来宅し、師匠の故ラマーカーント・グンデーチャーのセクハラ問題、ドゥルパドのテキストと外国人、カトマンズで一緒に教室をやっているヴィシャール青年、東京のお母さんのことなど、3時間ほどおしゃべりでした。
◉3月24日(日)/動態即興「愚者の秤/ぐしゃのはかり」シリーズ/源光寺 、尼崎/角正之+8:ダンス、川辺ゆか+北村千絵+HIROS:ヴォイス/その後、中島康治宅
このシリーズはずっと角さんのスタジオ「風の舞塾」で続いてきましたが、今回は場所をお寺に変え違った雰囲気でのパフォーマンスでした。公開パフォーマンスではないので無観客は変わりません。参加者は8名。終わった後、お寺に付属するかつての幼稚園舎の2階で茶菓子「反省会」でした。お布施のもらいものらしい焼酎の瓶を見たワダスはお寺の奥様にねだって飲ませていただき、結構ないい気分になりました。みんなと阪神武庫川駅で分かれて後、近所に住む元アクト・コウベのメンバーで写真家の中島康治さん宅をいきなり訪れ、コーヒーをご馳走に。中島さんにはご迷惑だったかもしれませんが、このような「いきなり」訪問はなかなかに愉快です。
◉3月25日(月)/フーフの会麻雀 /中川家
◉3月28日(木)/江見家饅頭宴会/江見家、神戸
岩淵君から「江見家で饅頭作って食べるんですが来ませんか」と誘われ、御影の江見宅へ。配偶者の杉山知子さんとはあちこちで会うのですが、普段は滅多に会わない江見洋一さんと久しぶりに会いました。岩淵拓郎君と一緒にやってきたのは宮浦たかこさん。江見家のゴージャスなリビング・キッチンで江見さんと岩淵君が粉をこねたり具材を詰めたりするのを眺めつつ、ワインやら日本酒をいただいたのでした。出来上がった饅頭もなかなかに美味しく大満足なのでした。札幌出身という宮浦さんと、ワダスが学生時代を過ごした札幌のこととか、須賀敦子の話ができて楽しかった。後から参加してきた北欧家具を扱っているという市村謙次さんも須賀敦子の文章が好きということで、久々に須賀談義になったのでした。須賀敦子好きは結構いるもんですね。
◉3月29日(金)/映画「オッペンハイマー」/ミント・シネマ
ミント・シネマの株主優待制度(義妹が株主)が3月いっぱいということもあり、話題の映画「オッペンハイマー」を見てきました。被爆国に対する配慮がない、というような意見もありましたが、オッペンハイマーという人物に焦点を当てた映画なので、ま、あんなもんかという印象です。原爆開発に関してはいろんな本を読んでいたので、説明なしの登場人物もある程度想像ついたし、話の流れもそれほど複雑ではなかった。核分裂反応によって莫大なエネルギーが解放されることは理論的にはわかっていても実験が成功しそれが実際にそうだったとわかった時の科学者たちの複雑な思いが、オッペンハイマー個人を通してそれなりに描かれていてなかなかでした。願望としては、強烈な兵器ができたという意識でしか物事を見ない軍人や政治家の現実的冷酷さや、原爆投下によってどれほどの地獄絵図が現れたかがもう少し強調されていればよかったのではないかと思います。
◉4月4日(木)/ナマステ楽団+HIROS/トルコ料理サクルエブ、芦屋川/川辺ゆか:歌、末森英機:ギター、歌、ディネーシュ・チャンドラ・ディヨンディ:タブラー、藤澤バヤン:舞台設営、音響、タブラー、山本恭子:コルネット、HIROS:バーンスリー
ナマステ楽団というのはタブラーのディネーシュとギター弾き語りの末森さんのバンドです。本来は彼らだけのライブの予定でしたが、ライブをお世話した川辺ゆかさんの要望でワダスも演奏することになったのでした。ディネーシュは、札幌すすきので長く路上ライブを続けたインド人で、東京下北沢の自宅に泊めてもらったこともありました。タブラーを習った初めての先生がディネーシュだったというバヤン君には、ワダスのバーンスリーのキーに合うタブラーを持ってきてもらったり、舞台設営から音響設備まで全部まかなってもらったりで大助かりでした。ライブは、末森さんの弾き語りとタブラーに、ワダスのバーンスリーと臨時に参加した山本恭子さんがコルネットでチャチャを入れるみたいなもの、そしてゆかさんのチベットとかトルコの歌、シェネルのトルコ民謡、休憩を挟んでワダスの秋田長持唄、ディネーシュの伴奏でラーガ・キールワーニー、最後にバティヤーリーでした。
会場のサクルエブは前にも演奏したことがあったのですが、つい最近、オーナーのシェネルはかつてのレストランを聴覚障害者の運営する人たちに手渡し、新しい食堂をその隣に設営準備中とかで、まだキッチンも入っていない狭い空間でのライブになったのでした。
近所に住む同志社女子大の椎名亮輔夫妻とか、出張チャイショップをやっているというホロホロなど知り合いも含め、狭い空間がぎちぎちの満員状態でした。
◉4月5日(金)/インド音楽講座ZOOMインタビュー中継/中川家
◉4月6日(土)/シャヒナー&アンニコル+andmo’ライブビッグアップル、神戸/シャヒナー&アンニコル:フィンランドを中心とした北欧民謡、andmo’(児島佐織:テルミン+菊池誠:ギター、テルミン)
ワダスのCAPSTUDY講座に参加してもらったテルミンの児島佐織さんのお誘いで久しぶりにビッグアップルのライブ鑑賞。CAPの下田さん、金子飛鳥さんの神戸ライブを主催した安田さん、ワダスを含め聴衆は60を越えたおっさん8名でした。久しぶりに聞いた児島さんのテルミンは当然ですけど昔よりもずっと成長していてなかなかでした。また北欧民謡のシャヒナー&アンニコルも新鮮。
◉4月13日(土)16:30~/インド音楽講座 ラーガの旋律/Musehouse、神戸
宇治に住む整骨院経営者の安田さん、豊中で介護士をやっている山中さんという男性二人の参加でした。終わった後は、近所のカレー屋、堀江座でカレー打ち上げ。
◉4月21日(日)/動態即興「愚者の秤/ぐしゃのはかり」シリーズ/風の舞塾(TonPlacer) 、神戸/パフォーマンス:角正之:ダンス、川辺ゆか+HIROS:ヴォイス
◉4月29日(月)/フーフの会麻雀//木村家
◉5月7日(火)/『HINDUSTANI MUSIC THIRTEENTH TO TWENTIETH CENTURIES』ざっと翻訳完了
ほぼ2年前から736ページの分厚いヒンドゥスターニー音楽の歴史論文集をちょこっとずつ訳していて、それがついに終わりました。もちろん推敲、校正、用語統一などまだまだ作業は残っていますが、とりあえず終わって一安心です。2年かけてじっくり読んでみると、知っているようでいて知らないことがあまりに多いことに気づかされるのでした。著者の多くは欧米の研究者なので客観的に書かれており、インドヨイショのバイアスのないところが取り組み始めた理由です。出版可能な状態までにはまだかなり時間がかかりそうです。もっとも、こんなマニアックな本を出版してくれるところなんてないかもしれませんが。
5月9日(木)~15日(水)/山形温泉旅行
コロナ発生の2022年以来、ほとんど神戸から出ない生活でしたので、久しぶりになかなか充実した旅行でした。今回の目標は、秘湯で温泉、そば、ラーメン摂食、叔父一家訪問。まず仙台空港へ飛び、そこでレンタカーを借りて(6日間で35,090円)福島市、滑川温泉、米沢、山形、小滝、中山町、仙台空港と移動した距離は449キロ、消費したガソリンが18リッター。借りた車はヤリス・クロスというハイブリット車です。1リッター約25キロという燃費の良さでした。
◉5月16日(木)「フィシスの波紋」/元町映画館、神戸
開いていた席に座ったら隣に高濱さん。後ろに下田さん。高濱さんとプロデューサーの河合早苗さんの話をしていたら、それを聞いていた右隣の女性が「早苗ちゃんはいとこなの」と話しかけられ、なんと携帯電話番号メモまでいただくことに。静かな映像と、少ない語りの背景に流れるフレッド・フリスの音楽が心地よかった。上映後、映画館の入り口で下田さん、高濱さんが、松田素子さんともう一人の女性と立ち話。彼らは近くの喫茶店に行ったらしいが、ワダスは配偶者が三宮で待っているので参加せず。
◉5月17日(金)/「愚者の秤(ぐしゃのはかり)」打ち合わせ/中川家
角さん来宅。19日の源光寺でのパフォーマンスについての打ち合わせ。
◉5月19日(日)/動態即興「愚者の秤/ぐしゃのはかり」シリーズ/源光寺 、尼崎/角正之+6:ダンス、川辺ゆか+北村千絵+HIROS:ヴォイス
いつものメンバーの他に、近所に住む中島康治さんと京都からヨスヒロ(川崎義博さん)が観にきました。会場がお寺だったこともあり、勝手にワダスが名付けた「前世、現世、来世」の3部構成のパフォーマンスでした。途中、声がかすれてしまった。かすれると音程が微妙に狂うのよね。
終わった後は、近くの喫茶店の2階でワイワイ反省会でした。
◉5月20日(月)/CAPSTUDY打ち合わせ/中川家
下田展久元CAP代表が来宅し、秋から始まるCAPSTUDY「芸術鑑賞のための講座の実験#2」の内容打ち合わせでした。場所は神戸市役所南側の「東遊園地 Urban Picnicで、ワダスは「アジアの音楽」を担当することになっています。
◉5月24日(金)+25日(土)/HIROSライブ/Calo Bookshop & Cafe、大阪/藤澤ばやん:タブラー、音響、HIROS:バーンスリー
「Caloの20年を支えてくれたチキンカレー。そのレシピを授けてくださった、インド音楽研究者でバーンスリー奏者のHIROSさんへの感謝の気持ちを込めた、HIROSさんのライブとカレーの会です。音楽とカレーでゆったりお過ごしください」(ライブの告知から)というように、この店のカレーレシピはワダスが洒落で売っていたスパイスセットのものでした。
オーナーの石川さんとは十津川村の盆踊りで知り合い、ワダスが合宿用の大量カレーを作っていたことが、今回のライブにつながったのでした。場所は5階建てビル最上階の書店兼カフェのそれほど広くない空間。24日は、十津川合宿で一緒だった三木学さん、箏奏者の今西紅雪さん、25日はかつてマルガサリでガムランを演奏していて後に美術家に転じた田淵ひかりさんとピアニストの年下ご主人の西村彰洋さん(実は2020年にタマゴこと中川真さんの依頼で作った曲の試演をしてもらった)とその息子、ワダスのラーガ講座によく参加していただいている京都の安田さん、岩淵君の同居人の宮浦さんなど、見知った人たちとも会えてよかった。
===この間に読んだ本===
(*読んで損はない、**けっこういけてる、***とてもよい)
◉『大本営発表』**(辻田真佐憲、幻冬舎新書、2016)
デタラメ広報の見本のように言われる大本営発表が、なぜ、どのようにデタラメになっていったのかを分析したもの。国対国の戦争では、その主体である軍は作戦の計画、調整、実行を全体として視野に入れ、遂行しなければならないにもかかわらず、当時の陸軍と海軍は自らの権威や権益を優先して対立したまま戦争を始めてしまった。開戦当初の「勝った勝った」のときは比較的事実に近い広報を行っていたが、勝敗の分かれ目になったミッドウェー海戦あたりから、それぞれ陸海軍人役人たちが責任回避に走り「国民の戦意喪失」の恐れて「過大戦果と過少損失」報道が進行していく。戦争末期にはそれが慣れっこになり、ほとんど空想と願望だけの発表になり、それをマスコミは唯々諾々とそのまま受け入れ報道するようになる。これを読むと、特定の人間の意思決定によって方向性が定まるのではなく、決定に関わる関係者の相互忖度によって責任がぼやかされ、突き進んでしまうという特徴は、今の日本社会と共通する気がする。日本という国は共同体的「社会」を持つことができないということなのか。この「赤信号、みんなで渡れば怖くない」式発想は、裏金やら原発やらセクハラやら震災対策やら他もろもろの非合理的、非現実的なこの国の現象に共通する気がする。
◉『17歳のための世界と日本の見方』**松岡正剛、春秋社、2006)
古今東西の歴史的出来事や人物を読み解く方法として「編集」という視点を持ち込むという方法は納得できる。大学での講義をまとめて加筆した本書は、10代後半の学生にも分かるように書かれていて読みやすい。なるほどと思う点は少なくないとはいえ、世界や日本の複雑さは彼のように膨大な知識によっても「編集」は難しいので、多くの見方の一つと思いつつ読んだのでした。それなりにすっきりと整理されてわかりやすいだけに一つの見方としては評価できる。しかし、なんとなくばさっと感が否めない。育った環境の異なる膨大な数の人間が作り出す膨大な種類の物語を関係づけて人間全体の営みを読み解くのは不可能に近いのでこの種の本が多い理由がある。学生のころ彼の作った雑誌『遊』をよく読んでいたけど、本書を読んで当時から彼が何を言おうとしていたのかが薄々と分かるようになった。今考えると、当時のワダスは理解した気分でいながらほとんど何も理解していなくて、ファッション的な消費をしていただけだったことに気がついたのでした。
◉『とてつもない失敗の世界史』**(トム・フィリップス/禰宜田亜希訳、河出書房新社、2019)
タイトルから世界トリビア集のような内容かと思ったら、人類の失敗の歴史を紹介したなかなかにまともで面白い本でした。ものすごく長い距離を航海して住み着いたイースター島の住民は後先を考えず木を切り倒し島から逃れるべき船すら作れなくなってしまった話や、今や地球周囲の宇宙空間がデブリで満ち、地球から脱出が不可能となるのではないかと警鐘を鳴らしている話など印象的。失敗例の数々が面白い。生物を移動させてとんでもないことになった、統治に向いていない専制君主を選んでしまった、暴力では何も解決しないとわかっているのに戦争を始めてしまった、植民地政策はヘマばかりだった、外交に失敗して国まで失ってしまった、ガソリンに鉛を混ぜたりフロンガスを作った科学者が意図せずして地球を二度汚染してしまったなどなど。人類の歴史は失敗の歴史だという著者の主張は説得力がある。著者のユーモア混じりの文章はよくこなれた翻訳のせいもあって楽しめました。
◉『いちばんわかりやすいインド神話』(天竺奇譚、実業之日本社、2019)
タイトル通りわかりやすいかといえばなんともいえないが、ヒンドゥー教の神々の全容がなんとなく理解できた。インドに住んだりヒンドゥー教関係の本もそれなりに読んでいて断片的にはそれなりに知っていたつもりだったが、実は知らないことが実に多いということに気がついたのでした。
◉◉『ジャズで踊って』**(瀬川昌久、草思社文庫、2023)
副題の「舶来音楽芸能史」の通り、主に大正時代から第二次大戦直前までのジャズを中心とした芸能の歴史。ジャズといってもいわゆるモダン・ジャズでなく、デキシーランドやスイングが中心。日米開戦年の昭和16年に敵性音楽として規制される直前まで、日本の都市エンタテインメントの主流の一部がダンスを中心としたジャズであったことをワダスは単に知らなかった。戦後、進駐軍経由でジャズが入ってきたとずっと思い込んでいたのです。実際は戦前ですら、アメリカ帰りのミュージシャンやダンサーが本場で流行していたエンタテインメントを持ち込み、日本的に模倣したスタイルで大活躍していたとのこと。それぞれに著者の短いコメントのついたジャズバンド、ミュージシャン、ダンサー、楽劇団などなど、詳細で豊富なデータは、日本の芸能史を知る上で貴重なものです。インド「関係者」としては、昭和13年に「印度舞踊の試み」などという出し物が日劇ダンシングチームの大オーケストラ付きで演じられた、という記述に、おっ、と思ったのでした。
◉『南方熊楠と猫とイスラーム』(嶋本隆光、京都大学学術出版会、2023)
明治時代の始まりの1年前に生まれた南方熊楠のイメージがかなり覆される一冊。熊楠というと、いわゆる南方マンダラといった宗教観というか世界観を持ち、植物学、粘菌、民俗学などの研究者として、世俗とかけ離れた在野の大学者として独特の存在感を放ってきたが、彼の膨大な日記、論文に通底する体系のなさ、それぞれの主張の根拠にはかなり一方的なイギリス的バイアスがかかっているということが明らかにされる。猫とイスラームという特定のトピックについてややディテールに過ぎるような感じがするけど、読んでみると、熊楠という人が中沢新一や荒俣宏がいうようなすごい人だったのではなく、単なるヒッピー風の酒好きではた迷惑なディレッタントだったような気がしてくる。
◉『アメリカ実験音楽は民族音楽だった』**(柿沼敏江、フィルムアート社、2005)
CAP STUDYで対談した下田さんから借りた本。副題「9人の魂の冒険者たち」。アメリカの「実験音楽」家たちの作品やその背景にある思考を紹介している。読んでいるうちに紹介された曲を聴きたくなりタブレット端末を立ち上げてYouTubeを開いた。驚いたことにほとんどの曲が聴ける。ハリー・パーチ、ルー・ハリソン、ジョン・ケージは名前と作品はうっすらと知っていたが、他の音楽家たちの名前はこの本で初めて知った。タイトルの『アメリカ実験音楽は民族音楽だった』にはなんとなく納得したが、ここに紹介されている人たちを含め作曲家はほとんどが「白人」であることを考えると「民族音楽」と言えるかどうかは微妙な気がする。音楽を聞いてちょっと気になったのはヘンリー・カウウェルとシルベストレ・レブエルタスでした。
◉『創造論者vs.無神論者 宗教と科学の百年戦争』**(岡本亮輔、講談社選書メチエ、2023)
アメリカではいまだに進化論を否定する人々が4割いるという。進化論を教えて州の法律に違反したとして訴えられた有名なスコープス裁判や、進化論を教科書で取り上げないのはけしからんと訴えたトピカ裁判などを解説し、そこから科学と宗教一般の対立と議論が紹介される。また、キリスト教やイスラム教など既存の伝統的宗教に根ざした社会的習慣に異議を唱えて、でっち上げの新しい宗教を立ち上げて対抗しようとした運動、例えばサッカーのマラドーナを神にいただいたマラドーナ教、スターウォーズのキャラを宗教にまで引き上げたジェダイ教、またまたヘヴィメタ教、空飛ぶスパゲッティー・モンスターなるものを崇拝するスパモン教などのパロディー宗教の話も面白い。ワダスは外国なんかで「宗教はなんですか?」と聞かれた時「特定の神様は信じないけどこの世を支配する大いなる存在はあるかもしれないという意味で「アグノーシスだ」と答えるようにしていますが、大いなる存在とは神概念ではないかと言われれば答えに窮してしまう。この問題はけっこう深い
◉『南海トラフ地震の真実』**(小沢慧一、東京新聞、2023)
「30年以内に南海トラフ地震発生確率は70から80パーセント」と地震調査委員会が発表したのが2018年。「死者・行方不明者32万人」という被害想定も公表された。70から80パーセントというのは相当に不気味な数字です。30年以内ということは、明日かもしれないし、来年かもしれないし、最も遅ければ2048年かもしれない。2048年にはわれわれは98歳になっていて、たぶん、この世にはいない。新聞記者の著者はこうした数字の根拠の怪しさを丹念な取材で明らかにしていく。公表された数字は「時間予測モデル」によって導き出されたものという。このモデルはたった一つの江戸時代からのいい加減なデータを根拠に出され、ほとんどの地震学者が疑念を抱いたが、防災担当行政や御用学者の予算獲得願望によってねじ伏せられ、発表されたらしい。問題なのは、こうした数字を根拠にハザードマップが作られ、大地震の発生確率の低い地域では安心しきって工場誘致や再開発などが進められたりすること。しかし発生確率0から0.7パーセントだった能登半島でこの正月に大地震が起きたことから分かるように、どうも地震学者たちの「予測」とか「予知」は全く当てにならないらしい。ま、いつそうなってもいいように普段から防災の備えをすることは必要ですが、バイアスのかかった「科学的」予測を無条件に信じてはいけないということか。原発事故でわれわれは学習したことを思い出そう。
◉『三体』***(劉慈欣/大森望+光吉さくら+ワン・チャイ訳、ハヤカワ文庫、2024)
散歩がてら近くの兵庫医療大学内書店に立ち寄ってふと購入してしまった本です。バラク・オバマが「ムッチャおもろい」といったとか、ネットではそこそこ話題になっていた中国発のベストセラーSF小説。タイトルにもなっている三体問題をはじめ素粒子物理学、電波天文学、宇宙論、量子力学、ひも理論、古代文明などの用語が文中に次々と現れるので、関心のない人は戸惑うかもしれないけど、普段からこの種のことに関心があるワダスには抵抗なく面白く読めたのでした。暇つぶしにお勧めします。
◉『三体0 球状閃電』***(劉慈欣/大森望+光吉さくら+ワン・チャイ訳、早川書房、2022)
『三体』を読んで同じ著者のものを続けて読む。どちらかというと本書の方が断然面白い。こちらも電磁気学、量子力学、ひも理論などから着想された場面が多数登場し物語に広がりを持たせている。訳がよくこなれているせいもあるかもしれないけど、読者を読み続けさせる著者の文章構成力がなかなか。
◉『残酷な進化論』(更科功、NHK出版新書、2019)
進化には方向性がなくたまたま適応できた機能を持つものだけが生き延びてきた、という話を、人体の各部を他の生き物と比較しながら解説したもの。面白そうな内容だけど、読んでいて想像力が刺激されることはなかったのでした。ま、受け手が年取ってきたのかな。
◉『フェルマーの最終定理』***(サイモン・シン/青木薫訳、新潮社電子版、2016)
細部を忘れているせいもあり、何度読んでも面白い。谷山-志村予想の楕円方程式とモジュラーは同じなのではないか、というあたりは具体的にてんで理解できていないけど、それを結果的に証明し最終的にフェルマーの最終定理を証明したアンドリュー・ワイルズという人の集中持続時間は半端ない。山形秘湯の露天風呂に入り、渓流の音を聞きつつ防水Kindleで読んだのでした。温泉に浸かって読書する気分は素晴らしい。
◉『インド史 南アジアの歴史と文化』**(辛島昇、角川ソフィア文庫、2021)
これも温泉の露天風呂に入って読んだのでした。南アジアの大国の歴史を物凄い勢いで縮小して紹介している好著。著者の辛島先生にお送りしたせいなのか、巻末の参考文献にワダスの訳書『インド音楽序説』が掲載されていてなんとなく嬉しかった。
◉『コルシア書店の仲間たち』***(須賀敦子、文春文庫Kindle版、1995)
これも温泉の露天風呂に入って再読了。全く、須賀敦子の文章は何度読んでも味わい深い。
◉『美しい生物学講義』(更科功、ダイヤモンド社、2019)
卑近な例え話を交えて理解しやすくしようとする態度は評価できるものの、論じている中身はハード。方向性のない進化を分子の動きにまで掘り進めていくのでなかなかに難しい。
◉『答えのない世界に立ち向かう哲学講座』*(岡本祐一朗、早川書房、2018)
自動運転車やAIが問題を起こした場合の責任は誰にあるのか? ゲノム編集時代の生命倫理とは? 科学技術専門家に問題解決を委ねていいのか? 否応なく格差を拡大せざるを得ない資本主義はこれからどうなるのか? 「世界」と「国家」「個人」との関係はどうなるのか? といった深く考えれば考えるほど答えを出すことが難しい問題に哲学の役割はどうあるのかを様々な人たちとの対談を通じて論じる。すっきりした答えを出せない課題が実に多いということに改めて気づかされる。例えば、自動運転車が人身事故を起こした場合、責任は車の使用者にあるのか、車の所有者にあるのかとか、自動車メーカーにあるのかとか、真っ直ぐ進めば壁に突き当たって使用者は死ぬが、その壁を避けると歩行中の子供たちを轢き殺すことになるなんて場合、コンピュータあるいはAIにどう判断させればいいのかみたいな。まったくこの世には悩ましい問題がいっぱいあるんですねえ。
==これからの出来事==
相変わらずヒマですが、たまにちょこっちょこっと何かがあります。
◉5月29日(水)19:00~/インド音楽講座ZOOMインタビュー中継/中川家/藤澤ばやん同時参加
◉5月31日(金)14:00-18:00/OIAS ART PROJECT “ thinking with the ears /KIITO、神戸/パフォーマンス&シンポジウム/鈴木昭男他
◉6月8日(土)16:30~/インド音楽講座 音楽と感情 インド音楽の美学、ラサについて」/Musehouse、神戸
◉6月15日(土)/ミニ同窓会/虎連坊、ヒルトンプラザウエスト、大阪梅田
◉6月18日(火)/短足麻雀/中川家
◉6月23日(日)/動態即興「愚者の秤/ぐしゃのはかり」シリーズ/風の舞塾(TonPlacer) 、神戸/パフォーマンス:角正之:ダンス、川辺ゆか+HIROS:ヴォイス
