めんこい通信2025年8月30日号

◉新鮮な明石鯛の刺身の上から麻婆豆腐とキムチと激辛インドカレーをぶっかけたような世界
 ほとんどジェノサイドに近いガザ、いつ終わるとも知れないウクライナ戦争はまだ続いています。ガザ地区で6万人強の死者、ウクライナ側の死傷者が40万人、ロシア側が95万人。そんな数字など全く気にせず「まだまだ続けるもんね」と決めているように見えるネタニヤフとプーチン、国際法なんて糞食らえてな感じの米軍やイスラエルによるイラン核施設爆撃、自分の望まない統計結果を出した官僚をクビにしたりとますますはちゃめちゃなトランプ、いつ終わるとも知れない中東やアフリカの一部の内戦状態、あわや印パ戦争みたいな衝突、「核兵器は安くつく」と申し述べる議員、「天皇を中心に一つにまとまる平和な国をつくる」などとソートーにあやしい言説を振りまくサンセートーの躍進した参議院選挙の結果、あらゆる物が確実に値上がりしている状況、世界的な今夏の異常な暑さなどなど、人類の世界はますます混乱してきたように見えます。もっとも、大量の情報にアクセスできる今だからこそ世界がそう見えていて、ずっと昔からそうだったのかもしれませんが。極小年金預貯金取り崩し生活の中川家の生活はそれなりに安定していますが、それほど長くはない我々の将来にじんわりとした不安感を抱かせるこの頃です。皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

◉まずは宣伝
 9月17日、酒心館で行われるダンス公演に「声楽家」として参加します。主催者は即興的現代舞踊の角正之氏。ワダスのインド古典声楽ドゥルパド風アーラープをすっかり気に入った角さんと、2023年2月以来ほぼ毎月彼のスタジオでダンサーたちとのセッションを行なってきました。他の音組としては、声による表現可能性の拡張を目指す北村千絵さんと、チベット民謡などを歌う川辺ゆかさんのお二人、ワダスのラーガ音声という海にさざなみを引き起こす役割です。角さんに言わせれば「カラダ(空体感覚)はラーガに身を浸し、耳を開放し、自我の心を捨てることの唯一な動機だと、2年以上の試みで見つけた手掛かりです」。角さんも含め、このセッションに参加してきたダンサーたちも、当初の動きからずいぶん変化してきたように思えます。というわけで、その「成果」を一般の人たちにも見てもらおうというのが今回の公演の趣旨の一つです。一つとしたのは、この公演では招聘した韓国の舞踊家とのセッションも行われるからです。スタジオでのセッションを見た元CAP代表の下田さんが「これまで見た舞踊パフォーマンスの中では一番だあ」と申し述べたのでしたが、ワダスもそう思います。この通信の読者に、ほほう、そうであるか、そんなに言うんなら行ってみようか、という人がいらっしゃったら、ぜひ足を運んでみてください。
 末尾にも掲載しましたが、公演概要は以下。
舞打楽暦17番+動態縁起/神戸酒心館ホール、神戸/出演者/(第1部)秋久なずな+越久豊子+桜井類+角正之+蔦田愛+中安正人+丹羽ゆかり+プルパ+山本清子:ダンス、川辺ゆか+北村千絵:Voice、HIROS:ラーガ音声/(第2部)Shin Eun Ji+Sung Eun Ji+Park Eun Hwa+角正之:ダンス、中川浩貴:チェロ、久田舜一郎:小鼓、川崎義博:サウンドデザイン/チケット:4500円(前売り4000円、学生3000円)/主催:ダンスキャンププロジェクト/問い合わせ:080-4166-0376(角)、sumish@kazemai.com

◉業務スーパー
 ほぼ2週間に一回、ハーバーランドにある業務スーパーへ出かけるのが定例になりました。目的は、散歩と極安食品購入。まず我が家から図書館のあるKIITOまでほぼ40分かけて散歩。晴れていて気温が高くない時はさらに40分ほどかけてハーバーランドまで歩きます。炎暑の最近では、KIITO前のバス停から2両連結バスに乗ることが多い。で、ハーバーランドに着くとまず業務スーパーの隣にあるサイゼリアでランチ。ワインと3品ほどの料理で二人で2000円前後。少年少女と老年男女の多いサイゼリアは、外食としてはおそらくもっとも安いでしょうね。ほんわりとアルコールの入った我々は隣の業務スーパーを巡回。ここは何しろ冷凍食品が安い。去年から我が家で流行しているスムージーのための冷凍マンゴ(1袋378円)、冷凍ブロッコリー(1袋168円)、りんご(5個499円)の他、ココナツミルク(1L398円)、冷凍春巻き(1パック398円)、冷凍揚げなす(1袋168円)、冷凍トルティーヤ(1パック248円)、コーヒー豆(360g798円)なんかを購入。それぞれの商品はほとんどが外国産で、化石燃料を使って運ばれてきたのよねなどと思いつつ、買い出しリュックをパンパンにしてJR神戸駅から三ノ宮、ポートライナーで帰宅というのがコースです。
 というようなどうでもいいことを書いていると、ウクライナやガザで毎日人が死んでいるというのにこんなことをしていていいのか、地球温暖化による気候変動が人類の大問題だというのにこんなことをしていていいのか、化石燃料がなければ成り立たない食生活はそれでいいのか、無意味なエネルギー消費ではないか、今ある人類の危機に立ち向かわなくていいのか、などと1ミリ秒ほど考えることもあるのですが、皆さんはどうなんですかねえ。

◉『インド音楽序説』電子版

『インド音楽序説』電子版がAmazonで売られています。一般の人にはほとんど関心のない内容ですが、これをお読みになっている方でインド音楽に関心のありそうな人がいたら「こんなの出てる」と宣伝していただければ幸いです。Amazonへ


===これまでの出来事===
   社会との接点の減少に伴い日常生活以外の「出来事」も少なくなってきました。ま、そのうちナアーンもない日々になるんだろうなあ、などと思うこの頃です。

◉6月5日(木)/沖マリさん来日
 沖マリさんは、久代さんの関学時代の同窓生でカリフォルニア在住の女性です。

◉6月15日(日)/テリー・ライリー バシェ音響彫刻コンサート/京都市立芸大堀場信吉記念ホール、京都
 関係者に知り合いも多く気になっていたコンサートですが、京都往復、入場料6000円という出費を考えるとなあ、と躊躇していたのでした。ところが、マルガサリの大井さんが「チケット買ったけど、合唱で参加することになったので不要になった。欲しい人はいませんか」というFaceBookのメッセージを見てすぐさま連絡してチケットを入手したのでした。大井さんには大感謝です。
 会場は、できたばかりの京芸キャンパスの一角にある堀場信吉記念ホール。壁面全体が白い木片で覆われたホールは、ギョッとするデザインを期待していたワダスにはフツーで芸大らしくない印象でした。「音の響きを計算しつくしてデザインされた」わりには、岡田加津子教授の主催者あいさつが響きすぎて聞き取りにかったのが残念でした。
 前半はステッキをついて現れたテリー・ライリーによるキーボード演奏。ジャズっぽい響きの曲から、シヴランジャニー、ジャウンプリーといったラーガを思わせる即興演奏は、インド古典音楽にずっと浸ってきたワダスには心地よい。音楽の中身も舞台での彼の動きも、とても90歳の人とは思えないほどしっかりしていたのでした。
 休憩を挟んで後半は、カラフルでちょっとへんちくりんな格好をしたバシェの彫刻が舞台中央に配置され、中央の椅子に座るテリーとそれを囲むように壁際に弧を描いて立つ50人の合唱隊による合唱。合唱隊にはチケットを頂いた大井さん、角スタジオのワークショップに参加している川辺ゆかさん、北村千絵さんの姿もありました。合唱と合わせて確かに音響彫刻の音は聞こえてきましたが、彫刻の演奏の様子が見えないのでずっと録音だと思っていたところ、後で聞くとホールの上階で演奏していた音だったとのこと。映像でも良いので彫刻演奏は見たかったなあ。出だしの合唱の響きはとても美しかった。そしてラーガ・マールカウンスのメロディーが現れる。昔ワダスが声楽を習っていた頃のレッスンのようでした。とはいえ、久々に充実した演奏会体験でした。
 会場には知り合いもちらほらと見えました。大野裕子さん、落合治子さん、CAPの河村さん、椎名亮輔さん、下田展久さん、中川克志さん、藤枝守さん、三原真衣夫妻、三輪眞弘さんなどなど。川崎義博さんことヨスヒロも録音機器かなんかをいじっているのでした。
 終演後、下田、大野、落合さんと京都タワー地下フードホールにあるThe Roots of all evilで宴会。実は下田さんのバンド、Q2ペリカンズでヴァイオリンを演奏した宮本玲さんがアルバイトをしていたのでした。というわけで5年ぶりの京都行はなかなかに楽しかったなあ。

◉6月22日(日)/動態即興「愚者の秤/ぐしゃのはかり」シリーズ/風の舞塾(TonPlacer) 、神戸/パフォーマンス:角正之+フォロワーズ:ダンス、川辺ゆか+北村千絵+HIROS:ヴォイス、三原真衣:鍵盤ハーモニカ

◉6月24日(火)/聖23日宴会/おうみや、三宮/大野裕子、下田展久+雅子、中川博志+久代、森信子

◉6月26日(木)/短足麻雀

◉7月23日(水)/聖23日宴会/サイゼリア、三宮/大野裕子、下田展久+雅子、中川博志+久代、森信子

◉7月27日(日)/動態即興「愚者の秤/ぐしゃのはかり」シリーズ/風の舞塾(TonPlacer) 、神戸/パフォーマンス:角正之+フォロワーズ:ダンス、川辺ゆか+北村千絵+HIROS:ヴォイス、三原真衣:鍵盤ハーモニカ

◉7月31日(木)/短足麻雀

◉8月21日(木)/短足麻雀

◉8月24日(日)/動態即興「愚者の秤/ぐしゃのはかり」シリーズ/風の舞塾(TonPlacer) 、神戸/パフォーマンス:角正之+フォロワーズ:ダンス、川辺ゆか+北村千絵+HIROS:ヴォイス、三原真衣:鍵盤ハーモニカ持参しつつ見学
この日はまずワダスのラーガ講座から。10名ほどの参加者に声を出してもらってラーガの説明をしましたが、ほとんど準備らしい準備もしていず、40分という時間的制約もあり、舌足らずになってしまったとちと反省。ラーガという概念を理解してもらうのは本当に難しい。
 さて、これまでやってきたことの中間報告みたいな形の公演がいよいよ来月に迫ってきたので、リハーサルを兼ねたパフォーマンスでした。
 終わってから、川辺ゆかさん、中安マコトさん、プルパさん、山本キヨコさんと近所の焼き鳥屋「なな亭」で打ち上げでした。

◉8月25日(月)聖23日宴会/サイゼリア、アビョーン、三宮/大野裕子、下田展久+雅子、中川博志+久代、森信子
 例によってサイゼリアで聖23日宴会でした。この日のサイゼリアも相変わらず少年少女だらけ。ここでの宴会は安上がりで好ましいのですが、メニューが限定されるので飲み会となるとちと不満が残ります。展久氏がガラケーを卒業して最新アイフォンを入手したというスマホで注文。Lineの聖23日グループもできたのでした。森ちゃんはほとんど飲まないので、5人で1.5リッターのワイン「マグナム」2本を飲みきったのでした。
 二次会でアビョーンに行くと、なんと「短足友の会」の幸田さんとマキちゃんが既に飲んでいて、さらにレッスンを終えたトンチャンこと東仲さんも加わり、賑やか二次会となったのでした。

===この間に読んだ本===
(*読んで損はない、**けっこういけてる、***とてもよい)

◉『わたしが探求について語るなら』*(西澤潤一、ポプラ社、2010)
 大きな文字、漢字には全てルビがついた小中学生向けの本。科学者として探求するということはどういうことかについて、自身の発見や発明を交えて書かれている。著者の西澤さんは、現代の通信技術の根幹である光通信、発光ダイオードなど数々の革新的発明をなした大学者。実はワダスはあるインド人留学生の連絡を介して先生とは接点があり、実に達筆のお礼の葉書をいただいたことがあった。

◉『可笑しな家』(黒崎敏、二見書房、2008)
  ほとんどが写真の眺めるだけの本。世界にはへんちくりんな家があるもんだなあと短時間に眺め終わった。

◉『smART 10代からの世界を変えるアートの見方』(エイミー・E・ハーマン/根本武訳、東京美術、2025)
 「アート」とあるので借りてみたら、要するによく観察しましょうね、みたいなものの見方を語る本でした。あっそ、レベル。

◉『戒厳』***(四方田犬彦、講談社、2022)
 著者が20代前半に韓国の大学で日本語教師として1年間過ごした回想を基にして綴られている。本人の経験や当時考えたことが時系列に沿って書かれているが、本人を含め身近な登場人物は架空のものだと思われる。なのでこれは「小説」と言える。重苦しいと思われていた朴正煕大統領時代の若者や当時の世相が生き生きと描かれている。外国に留学して考えさせられる文化や習慣や考え方の違いの発見には、我々のインド経験と重なるものもある。実に読みやすく、これまでの著者に対する印象も変わった。

◉『乳のごとき故郷』**(藤沢周平、文藝春秋、2010))
 同じ山形出身だからというわけではないけど、読んでいてしみじみとした感情が湧いてくる。東京に住むようになった作家が、ときおり帰郷してその変化に驚いたり嘆いたり、諦めたりする感じが、全部ではないがワダスにも共通する。それにしても、かなりぼんやりとした記憶しかないワダスに比べて、作家だから当たり前かもしれないけど、著者が子供時代のことをよく記憶してることに感心する。

◉『吉本隆明「食」を語る』**(吉本隆明、朝日新聞社、2005)
 宇田川悟というフランスに長く住みフランス料理に詳しい人が、吉本隆明に食べ物に関する質問をし、吉本がそれに答えるという形になっている。吉本というと戦後の日本の思想界に大きな影響を与えた人だが、この本はフツーの老人がフツーの生活を語っていて気軽に読める。魚は嫌いだとか、やっぱり味覚は母親の煮しめみたいなものに帰っていく、フランス料理は得体が知れねえ、などという話も面白い。80歳になる吉本の老齢や死に関する考え方にけっこう納得させられる。老化というのは「考えることとやることの距離感がものすごく大きい」とか、「少なくとも今の政治体制、経済体制は、社会主義と言おうが資本主義と言おうが、どちらも同じように、全部"たそがれ"じゃないかな」とか、「日本で言えば親鸞の考え方ですけど、ミシェル・フーコーの考え方、死は別物、人のもんだ、自分のものじゃないという考え方ですね・・・生まれてから死ぬまで全部を、違う系列のところから見ているのが死なんだ、死というのは別系統に属するんだと。だから連続性で老いの次に死があるんだという考え方はしないんです」とか。

◉『春の雪』**(三島由紀夫、新潮文庫、1977)

◉『奔馬』**(三島由紀夫、新潮文庫、1977)

◉『暁の寺』**(三島由紀夫、新潮文庫、1977)

◉『天人五衰』**(三島由紀夫、新潮文庫、1977)
 近くの図書館にはまともな本が少なくて最近はほとんど予約して借りていたけど、新書や人気の本はすでに誰かが借りているのでなかなか回ってこない。そこで我が家の本棚にあった古い文庫本を手にとった。この本は、三島由紀夫の遺作で、全体で『豊穣の海』という小説になっている。読むのは多分3回目だが、ぼんやりとしたイメージだけで内容はほとんど忘れていた。古い文庫本なので、全体に紙が黄ばみ、細かな文字のインクも薄れていて、ロージンにとっては読みやすいとは言えない。
 全体は、20歳で死んだ親友の輪廻転生を年齢を重ねながら見つめる観察者、本多繁邦の目を通して描かれる物語。成就できなかった恋愛の末に亡くなった学生時代の親友の生き方や彼との関わりから始まり(『春の雪』)、その親友と同じ脇の下の黒子というサインを持つ青年が、天皇への「忠義」を信じる清純無垢のテロリストとなり20歳で自死する(『奔馬』)、一転して転生のサインを持つタイの王女と出会い、輪廻転生や仏教の唯識論の謎を求めてインドを旅した後、次第に「純粋」さから遠ざかる自身を眺めつつも、やはり20歳でその王女が死に(『暁の寺』)、その後、老人になって偶然出会った青年に転生のサインを見出し強引に養子にした本多繁邦の願望と疑念の日々から、最後は尼僧となった親友の恋人に会い、それまでの人生をかけて築き上げてきた思念が崩壊する。
 三島由紀夫特有の人工的でうんざりするほどうるさいレトリックを別とすれば、全体の構成が実に綿密にできていてストーリーとしてはとても面白いし傑作だと思う。特に『春の雪』の過剰な修飾や物語の展開は印象的だし、『暁の寺』に出てくるバナーラスやアジャンターの描写は圧巻。ワダスらもバナーラスに3年住んでいたので実にリアルに感じられた。
 印象に残ったのは以下の文章。
「衰えることが病であれば、衰えることの根本原因である肉体こそ病だった。肉体の本質は滅びに在り、肉体が時間の中に置かれていることは、衰亡の証明、滅びの証明に使われていることに他ならなかった。・・・生きることは老いることであり、老いることこそ生きることだった・・・」
 それにしても、彼はなぜこの小説を書き上げて割腹自殺をしたんだろうか。青年期の「純粋」、「美」、「正義」、「聖性」とかの想念は、年齢を重ねるごとに突きつけられる現実を経るに従いすり減り、実はすべて幻想、つまり唯識論でいう阿頼耶識の働きである、人生が幻想ではないと唯一実感できるのは自死の瞬間だけだ、と考えちゃったのかなあ、というのがワダスの感想なのでした。

◉『幕末女性の生活』*(村上紀夫、創元社、2025)
 歴史はたいてい男性によって書かれた文書記録をもとに書かれているので、具体的な生活について知ることは難しい。しかし女性の書いた日記には、家族のこと、隣近所とのやりとりなどが主に書かれる場合が多いので、当時の人々の暮らしを知るのに参考になる。幕末に生きた4人の女性の日記から生き生きとした生活の様子が伺えてなかなかに面白い。

◉『危機と人類』上下再読***(ジャレド・ダイアモンド/楡井浩一訳、Kindle版、2019)
 この本は、著者が生まれたり、生活したり、親戚がいたりするアメリカ、インドネシア、オーストラリア、ドイツ、チリ、日本、フィンランドの7カ国のこれまでの危機と対処法の歴史を、個人に起こる問題と比較しながら論じたもの。著者は日本語を除いてどの国の言語にも通じている。読み物としても面白いし、考えさせられることが多い。7カ国はそれぞれ特有の危機を経験してきたが、その対処法は違ってい、また共通する点も多いという。さて、出版されたのは2019年だが、トランプ再選、プーチン、ネタニエフの暴走といった世界の混乱状態を眺めてみると、単に7カ国の問題を超えた気候変動や資源枯渇などの人類共通の問題解決がますます遠のいたように見え、絶望的に思ってしまう。

◉『14歳からの「移民」「難民」入門』**(内藤正典、河出書房新社、2025)
 シリア、トルコに留学した著者の分かりやすい「移民」「難民」解説。まさに入門。人間の移動とそれによって発生する様々な問題を、非欧米中心で見ることの重要性を説いている。あり得ないことでもないけど、仮に我々がシリアやウクライナやパレスチナのような状況に置かれた時、自分が「移民」「難民」としてどう生きていくのかを考えてみる機会になるかもしれない。

◉『一冊でわかるメキシコ史』(国本伊代、河出書房新社、2025)
 メキシコにしばらく住んでから6年経ち、記憶が薄れてきたのでふと図書館で手にとった本。紀元前から現代までの歴史をものすごくコンパクトに解説され、読むのに時間はかからない。オルメカ、マヤ、アステカなどスペイン人侵略前は記録が乏しいせいかさらっと終わる。侵略後の独立や政治権力に関する出来事は、スペイン生まれのスペイン人、メキシコ生まれのスペイン人クリオーリョ、先住民との混血のメスティーソ、先住民、奴隷と、入り組んだ人種構成によって政府と反政府の対立が延々と続き、とても覚えられないほどの人物が次々と登場してめまいがする。ヨーロッパ植民地主義がいかに非植民地の社会を分断し対立を作り出したかがよくわかる。

◉『白川静さんに学ぶ漢字の秘密まるわかり』(小山哲郎、論創社、2024)  我々が使っている漢字の成り立ちを古代中国文字から解釈した白川静と親しかった編集者が分かりやすく編集したもの。読み物ではなく辞書に近いので、通読するという本ではない。ま、家において、たまにパラパラっと眺めるにはいいかも。

◉『毒薬の手帖』*(デボラ・ブラム/五十嵐加奈子訳、青土社、2019)
 毒薬を使った殺人は古代から行われていたらしいが、犯行を証明することは難しかった。体内に残された毒物を検出し、犯罪の証明につなげることは、近代になってから著しく進歩した。この本は、アメリカで起きた毒殺事件や、その解決に情熱を燃やしたニューヨークの毒物専門医の話である。青酸化合物、ヒ素などから禁酒法時代の工業用アルコール混入酒密造、一酸化炭素など、毒殺に対する人間の知恵くらべは奥深い。

◉『ゆで卵の丸かじり』**(東海林さだお、文春文庫、2014)
◉『いかめしの丸かじり』**(東海林さだお、文春文庫、2014)
 重くて厚い本が続いていたので箸休めに借りてきた。食べ物にまつわる些細な出来事を大袈裟に表現する軽い文体はいつ読んでも楽しい。改行が多いのであっという間に読んでしまった。

◉『ダライ・ラマ』**(ジル・ヴァン・グラスドルフ/鈴木敏弘訳、河出書房新社、2004)
 574ページもあり、分厚く重い。チベットの法王ダライ・ラマ13世の死と転生者の探索、14世の発見と当時の腐敗したチベット政治、チベット支配を狙う中国や第二次大戦といった国際情勢の大きな変化に翻弄されつつ最終的にインドのダラムサラに亡命政権を樹立し現在に至る様々な出来事が、チベットの政治、仏教の動きの歴史を挟みながら、時間軸に沿って書かれてある。本書によれば、13世の死後のチベットは混乱の連続だった。転生者として選ばれた少年レティン・リンポチェが摂政となったが次第に個人的利益に走り腐敗が進行。そんな中、テンジン・ギャンツォことダライ・ラマ14世が即位する。故郷の青海省からラサに移り住んだ法王の家族。父パーラはその権力を傘に傍若無人の我欲に走るがやがて亡くなる。チベットが経済的にも社会的に混乱していた当時、中国共産党が実権を握りチベットの支配を目論む。そうした中、支配者に押し上げられたダライ・ラマ14世やその家族、為政者たちのさまざまな内外の取り組みはことごとく挫折し、結局はインドへの亡命に至り、現在まで続く。
 実はインド遊学中にダライ・ラマ14世に直接お会いしたことがあり、その時の写真が我が家にある。上ダラムサラのマクロードガンジの同じホテルに泊まっていた馬さんという台湾出身アメリカ在住のジャーナリストがインタビューするというのでくっついて行ったのだ。その辺の頑固なおっさん風のダライ・ラマは、ときおりチベット語を交えたが、ほとんどの質問にジョークまじりの英語で答えていた。印象に残っているのは馬さんの「次の15世はどうなるか」の質問に「私が最後のダライ・ラマだ」と答えたことだった。つまり彼の転生者はいないとその時は明言したのだ。ところが、今年、つまり2025年7月、90歳となったダライ・ラマは「私は転生する」と宣言した。目まぐるしく変化している国際情勢の中で彼が遷化した後のチベットはどうなるのだろうか。

◉『僕には鳥の言葉がわかる』***(鈴木俊貴、小学館、2025)
 人間特有のものと思われていた言語が鳥にもあることを実験で証明したという気鋭の動物行動学者の初めての本。学者らしくない素直な文章が分かりやすく面白い。高校生のとき双眼鏡を買って鳥を観察し始め、次第に鳥の行動にはまり、ついにはユニークな研究者になった過程は、学問とか研究がどういうものかを教えてくれる。シジュウカラの、ある二つの鳴き声の組み合わせが特定の警戒対象と特定の行動を促す信号になっていること、その組み合わせは言語と同質のものであると。今や著者は、動物言語学なる新しい分野を切り開いた研究者として世界的に知られるようになった。特定の生物を研究している研究者はその生物に似てくるとかの話も面白い。

==これからの出来事==
 相変わらずヒマですが、たまにちょこっちょこっと何かがあります。

◉9月17日18:30~/舞打楽暦17番+動態縁起/神戸酒心館ホール、神戸/出演者/(第1部)秋久なずな+越久豊子+桜井類+角正之+蔦田愛+中安正人+丹羽ゆかり+プルパ+山本清子:ダンス、川辺ゆか+北村千絵:Voice、HIROS:ラーガ音声(第2部)Shin Eun Ji+Sung Eun Ji+Park Eun Hwa+角正之:ダンス、中川浩貴:チェロ、久田舜一郎:小鼓、川崎義博:サウンドデザイン/チケット:4500円(前売り4000円、学生3000円)/主催:ダンスキャンププロジェクト/問い合わせ:080-4166-0376(角)、sumish@kazemai.com