置賜郡地方の芋煮

 秋風がさわさわと頬をなでる季節になると、山形出身のわたしは、まず芋煮のイメージがうかびます。小中学生のころは、学校の行事としてのこの芋煮会は大変な楽しみでありました。河原で芋を煮て食べる、という習慣は全国的にもかなり分布しているようです。おらが村が元もとのルーツなのだ、などといった議論も世間にはあるようであります。しかし、なんといっても山形の、とくにわたしの生まれ育った置賜地方の芋煮会がその代表でないはずがないのであります。わたしがいうのですから間違いありません。
 さて、山形市周辺の芋煮会においては、醤油を媒酌人に牛肉とネギをイモの配偶者として選んだようですが、それは大変な邪道というべきものです。やはり芋煮は、味噌が取りなす芋とブタとキノコと白菜とネギの幸福な出会いこそ理想形なのです。したがって、あるべき姿を著しく逸脱して妙に有名になってしまった山形市周辺芋煮は、すみやかに置賜地方のそれに舞台を譲るべきなのです。贅沢な牛肉なんて本当にケシカラン。ところで、聞くところによりますと、今となってはどうでもよいことかもしれませんが、秋の学校行事として芋煮会が始まったのは、終戦後の在日米軍の指導によって着想されたとか。
 ところで最近になって判明したのですが、このレシピを「置賜地方の」と冠したのは間違いらしいと気がつきました。同じ置賜でも宮内、赤湯、米沢ではショーユベゴ派だったのです。ミソブタ派は庄内地方なんだそうです。ということは、ワダスの生まれた小滝は置賜地方でありながら、芋煮に冠しては庄内の飛び地ということになりそうです。どういうことなんだろう。
 できれば、ひらけた河原に石を並べて焜炉を作り、あなたの料理の繊細さをかなぐり捨てておおざっぱに材料を放り込んで作って下さい。そして、秋の冷たい風を感じながら熱い芋煮をはふはふと食してみて下さい。人生の喜びはこういうものであったか、ということを感じるはずであります。もちろん、家で作っても結構ですが。材料は一応のめやすです。野外の鍋ですから好みに応じて適当に。

●材料(5~6人前)里芋中15個、豚バラ肉500グラム、白菜1株、大根1本、ながネギ5本、こんにゃく1枚、キノコ(からまつだけ、しめじ、なめこ、はつたけ、まつたけ、まいたけetc)どさどさ、味噌、醤油、酒

■製作手順

  1. 大きな鍋に水を1/5ほど入れ、そこに一口大に切った里芋と大根を放り込み火にかける。
  2. 里芋を箸で刺してみてつき通る程度の段階で、あらっぽく切った豚バラ肉、手でちぎったこんにゃくを投入する。このとき、下味としての若干の醤油も投入する。気になる人は、煮立ってきたときアクをとってもよい。野原ではそんなことはしませんが。
  3. 豚肉に火が通ったと判断したら、ざく切りした白菜の白い部分、しばらくしておたまで溶いた味噌を投入。再び沸騰してきたら、今度はキノコ類、白菜の葉の部分、ながネギの順に時間差をおいて次々に投入していく。
  4. 最後に、最終的な塩加減調整のために再び味噌を投入してできあがり。