カズノコのつぶやき

 わたしたちはカズノコです。以前は「黄色いダイヤ」なんてちやほやされてたので、たいていの人はわたしたちがニシンの玉子だと知っていると思います。しかし、最近はわたしたちもちょっと落ち目みたいで、カズという魚の玉子だと思っている人もいるようです。ニシンコでもよかったのに、こんな名前をつけれらちゃったのは不本意なんですけどね。でも、ニシンという親の名前も、頭が角張ったイワシだからカドイワシだ、とも呼ばれてたので、そこからいつのまにか訛ってカズノコになっちゃったみたい。じゃああんたはどう呼ばれたいのだと聞かれたら、ニシンコでもいいかな、とも思ったけど。このニシンという名前だって、日本海で捕れたから「西の海の魚」の東北訛り、ニシンウミからだ、とか、妊娠魚だからニシンになったとか、アイヌ語のヌーシィからきたと、かなりいい加減なので、ま、どうでももいいかという気分。
 わたしたちが不満なのは、たまらなく大好きな白子君たちと出会う前に、人間が母親の腹をかっさばいてわたしたちを引きずり出し、ムッチャしょっぱい塩水に漬けられちゃったことがまず一つ。親たちも塩漬けにされたり、ミイラみたいに乾燥させられちゃったり、粉砕されて畑の肥やしにさせられたりして、泣きたくなるほど哀しいんですけど。わたしたちは、いわば水子。いや、水子以前かな。当たり前であれば、白子さんたちとのふるえるほどの楽しい出会いのあと、白子さんをわたしたちの中に取り入れて新しいニシンに変わり、自立して自由にベーリング海峡あたりを泳ぎ回るのがただしい運命だったのに。
 ベーリング海峡といえば、わたしたちの親は、昔は北海道の漁師たちに御殿を建てさせるほど日本のまわりの海にいたけど、このごろ海も生ぬるいし、変な臭いだらけなのでカナダ沖に居を構えたのよね。ここまでくれば日本人も追っかけてこないだろう、っていう断固とした両親たちの判断でしたけど、甘かったみたい。ぐちね、これって。
 で、不満のもう一つ。塩漬けにされちゃったことはカルマとしてあきらめざるを得ないんです。だって、わたしたちって、おいしくて歯触りもいいんですから。でも、あれだけ日本の人たちが貴重品としてわたしたちを扱っていたのに、最近は、やれキャビアだ、メンタイコだ、トビコだと他の魚のたまごばかりちやほやして、まるでお正月にしか用がないような扱いになってきたことなんです。チョウザメとかタラとか、わたしたちの親のニシンよりずっと下等な魚のたまごでしょう、あれって。トビコだって、本当は海の中を自由に泳ぎ回るのが魚のただしい姿なのに、羽根なんかはやして海鳥に媚びを売るトビウオのたまごでしょ。ま、さすがにトビコはそのへんがよく分かっていて、キャビアよりも控えめですけど。なによりも許せないのはキャビアよね、やっぱり。あんな生臭くて塩辛くてちょっとぬるっとしたキャビアのどこがいいのよ、とわたしたちはいいたい。チョウザメってチョー、ブスだし、関係ないけど。
 ごく最近、わたしたちは、神戸の中川のところにいってらっしゃい、と岡山の林さんに言い含められて、トラックにゆられてはるばるやってきたんですけど、この中川がもうひどい! じっくり塩を抜いてだし汁につけ込み、鰹節かなんかをハラハラっとかけて、ちゃんとしたおかずの一品として食べて欲しいのに、こいつらはキムチに入れやがった。あんな凶暴な雰囲気の中で何日もつけ込まれたら、わたしたちもうぼろぼろになっちゃうんだぜ、てめえ。「うーん、おいしくなると思ったんだけど、ずいぶんちっちゃくなっちゃって本来のプチプチ感がなくなったなあ」だって。もう、冗談じゃねえ、とオレはいいたいよ、ウン。それに、岡山からの仲間は、まだビニール袋に入れられたままだげど、キムチ投入以来、ずっとそのままで放っておかれてんだよな。いつになったら成仏させてくれんだか、このままだと死んでも死に切れねえよ、まったく。なんとかせえよ、中川!!!

 ところで、実はわたしのホームページがあるのよ。中川はそのページを参考にした見たい。ぶつぶついったけど、キャビアでもまだ自前のホームページはもっていないじゃないですかね。ザマミロ。