キムチのつぶやき

 わたしは、キムチ。日本の人たちはとてもわたしを好いてくれているのですが、ときには「にんにく臭い」とか、「たたずまいが凶暴だ」とか、「口の中がやけどする」とかいって嫌うものもいるようです。でも、わたしほど、栄養価のバランスと保存性とおかずとしての自立性を兼ね備えたものはいないのよ。わたしは、漬け物の、いや、おかずの女王なの。王様はもちろんご飯様。あの方って、とってもすてき。色白の細面もいいし、寡黙でいながらたくましいし、ほのかな甘みとねばりがあって。いままで、おうどんさんとか、お鍋さんとか、饅頭さんとか、いろんな方から求婚されましたけど、やっぱりご飯さんと結婚してよかったわ。わたしたち、最高のカップルなの。でも、わたしのご飯様は見境なく浮気するっていう欠点もありますけど。それって、愛情の深さですよね、でも。そんなおやさしい、みんなに平等に愛情を分け与えるご飯様の寛容さにつけ込むやからもいることは事実よね。
 九州方面では、メンタイコが真っ赤な顔して「キムチなんか、オレの敵じゃないとね。バーロ。なんばいうとるとね。」とか叫んでいます。また、京都方面では、ふやけた丸顔の千枚漬けが「そないいうても、歴史どすえ。やっぱり京のお人は、さっぱりしたお漬け物好きどすやろ。キムチって、なんや品がのうてわたしらすかん」とかおっとりと主張しています。奈良方面では、酒臭い息をまき散らした奈良漬けが「ぬあにー。キムチが女王だって。冗談でっしゃろ」などと呂律の回らぬ口調でつぶやいています。山形方面の各種漬け物たちは「おらだずはずっとこれでやってきたんだっす。人民に愛されるっつう点では、キムチの比でねっす。わだすらの見栄えはたすかにキムチほど派手じゃねえげど、問題は、すぐない量でどんだげママ(ご飯)が進むが、だべ」とか吼えています。
 でも、わたし、気にしない。長い目で見れば、結局はわたしの魅力にみんなまいっちゃうことは知っているもの。朝鮮半島出身のわたしですが、今じゃ大和中で売られているでしょう。でも、最近スーパーでいやあなもの見ちゃったの。「キムチの素」。漬け物にまぶしただけでわたしになれるなんて冗談じゃないわ。どんなに厚化粧したって、しょせんは偽物。わたしの愛情が本当に欲しかったら、ちゃんと一から作ってみて。そして、わたしの最愛の夫のご飯様と一緒に味わってみて。わたしとどうすれば会えるって。わたしに会いたければ、わたしを作るためのレシピを見てね。ちゃんということを守ったら、恥ずかしくて真っ赤になってるかもしれませんけど、わたしはあなたの胸元に飛び込んで行くわ。