バースは温泉の総本山

 町全体が世界遺産というバースは、ヨーロッパでも数少ない温泉があります。お風呂という意味の英語Bathの語源はこの町の名前というくらいで、温泉フリークである七聲会の清水秀浩さんによれば、「浄土宗の総本山は知恩院、温泉の総本山はバース」なのです。彼は、渡英前からこの温泉の総本山での入浴を渇望していました。われわれの泊まった小さなゲストハウスには簡単なしょぼしょぼシャワーがついているところはましなほうで、3階の2部屋と2階の1部屋にはバスルームが共用でした。ツアー全行程を共にしたロンドン在住の運転手ケビンは「なんて旅館だあ、これじゃあ落ち着いてしょんべんもできん」とぼやく。こうした居住条件も加わり、温泉総本山入浴願望はみなの共通したものになりました。旅館のオヤジにもらった観光案内書には、モダンな浴場でくつろぐ男女の写真の下に「2003年テルメ・バース・スパ開業」とあり、この部分をまっさきに見つけたのは清水氏であることはいうまでもありません。Bath1
 バースに着いた翌日、一行は温泉願望を高まらせつつ、小雨のなか、建材として有名な蜂蜜色のバース・ストーンのどっしりとして落ち着いた中層建物群の街並みを「お風呂だ、お風呂だお」といいつつ歩く。それにしてもバースの街並みは実に美しい。文字や看板は1階部分だけに認められているらしく、全体に古色に支配され、雑多な無原則的BGMも、色彩の氾濫もなく、小雨のなかしっとりと落ち着いているのでした。
 もらった地図をたどっていっても、道が曲がりくねっているのでなかなか目的地にたどり着かない。そうこうしているうちに、有名なローマ時代の浴場跡に来てしまったのでした。

RomanBath車乗り入れ禁止の坂なりの石畳中心街にようやく標識を見つけたものの、いってみるとまだ工事中。旅館のオヤジは来年開業だといっていたのを思い出しましたが、なにせ町の公式案内書にはあんなに堂々と「開業2003年春」と書いてあるではないか。清水氏の落胆と失望を察するにあまりあります。せっかく総本山まできたのに、せっかく水着まで用意してきたのに風呂に浸かれないなんて、無念。こうして、イギリスで温泉に浸かるという、清水氏にとってこの旅のハイライトだったはずの悦楽を味わえずに終わったのでありました。

サマーチャール・パトゥル第30号(2003)より