カリンガ族のサガイポ

 フィリピンにカリンガ族という少数民族がいる。かつては首狩り族だったといわれている。
 彼らに竹の楽器による独特な音楽があると聞き、楽器製作と音楽を教わるためにバギオ市まで行ったことがある。
 彼らの楽器は実に単純だ。その一つであるトンガトンは一方が節でふさがった竹筒。節の部分を地面に打ちつけて音を出す。コーンという乾いた柔らかい音がする。他に、竹の反発力を利用して独特の音を出す打楽器バリンビン、竹の表皮を細くそいで弦にした素朴な弦楽器クリトン、細竹の笛サガイポ、鼻笛のトガリなど。どの楽器もナイフで簡単に作ることができる。
 彼らの音楽は、たいてい6人一組で演奏される。ひとりが1個の楽器をもつ。楽器と同様、演奏も単純だ。それぞれが、一定のテンポで同じリズムを繰り返す。ただし、隣り合った同士は音の出し始めを半拍ずらすので、6人揃うと複雑で豊かな音のテクスチャーが生まれる。  楽器作りと演奏を教えてくれたカリンガ族の青年によれば、彼らの音楽は単に楽しみのためだけではない。村人が共同でなにかを行う際、みんなの気もちが一つになっているかどうかを計る手段でもあって、音楽がぴったりと合ってはじめて、たとえば隣部落との戦争に出かけたというのだ。
 さて、音楽がぴったりと合ったので隣村に向かうとしよう。なにもなければ戦いが始まる。ところが、敵方から、笛つまりサガイポの音が聞こえてきた場合、攻撃は中止となる。なぜなら、サガイポの音は双方にとって不戦のサインとみなされているからだ。なぜ笛の音なんだろうか。ともあれ、音楽が戦いの抑止力にもなるというアイデアは悪くない。

神戸新聞(夕刊)2010年5月17日(月)掲載