1000人の音楽

 秋の10月23日、万博公園お祭り広場で1000人の演奏者による「ウドロ・ウドロ」の公演を企画している。 「ウドロ・ウドロ」は、フィリピンの現代音楽作曲家、ホセ・マセダ(1917~2004)が75年に作曲した作品。「30人から数千人までの演奏者のための音楽」と楽譜に付記されたように、大人数、かつ専門的な音楽訓練のない人が演奏することを想定して作られている。
 この曲は以前にも何度か日本で演奏されたことがある。91年、京都は仁和寺の境内で約800名が参加し、演奏されたのが最初である。わたしも参加した。
 竹や木でできた、簡単な打楽器と笛、声による濃密な音の「雲」。まるで熱帯のジャングルにいるような感覚だ。音を組織し、調整したものを「音楽」と定義すれば、それはまぎれもなく音楽であった。
 不思議な感動があった。同時に、わたしのそれまでの音楽に対する認識が揺るがされた体験でもあった。  この作品に出会うまでは、専門家に委ねられた表現行為のみが音楽だとなんとなく思っていた。クラシック音楽に限らず、日本の伝統的古典音楽、いわゆる民族音楽、ジャズ、ポップスなど、ほとんどの音楽が現代では専門家たちによって生産され、「商品」として流通している。しかし、われわれは音楽には別のあり方もあることを忘れていないだろうか。素朴な部族の音楽や民謡は専門家ではない普通の人びとが作ってきたものではなかったか。
「ウドロ・ウドロ」の再演は、音楽とは本来、誰もが作り、歌い、楽しむことのできる人間の基本的な表現行為であること、また音楽が環境と密接なつながりがあることを再認識させてくれると思う。

神戸新聞(夕刊)2010年6月1日(火)掲載