イスタンブール声明公演

 この5月23日、わたしが関係する声明グループ<七聲会>がイスタンブールで公演をした。「ヨーロッパ文化首都2010」という一連の催しの一つである芸術祭にイスタンブール市文化社会局が招いてくれたのだ。
 会場は、4世紀に建てられたアヤ・イリニ教会。トプカピ宮殿敷地内にあるイスタンブール最古の教会で、かつてはギリシャ正教の総本山だった建物である。白い漆喰で塗られた分厚い煉瓦壁の、装飾の少ない内部は、いかにも長い歴史を感じさせた。  国民の99パーセントがイスラーム教徒といわれるトルコで、日本の仏教僧侶が声明を披露したのはおそらく初めてではないか。当日会場はほぼ満員だった。1000人を越えていたと思う。  今回の公演で驚いたのは、聴衆の飾らない反応だ。「散華」という曲のときに撒いた華(蓮の花をかたどった紙)を「幸運のシンボルなので自由に持ち帰ってください」と告げると、多くの聴衆が舞台に駆け寄ってきた。演奏後は楽屋に人びとがつぎつぎと訪れ、お坊さんたちとの記念写真をせがむ。それも若い女性が多かった。演奏内容によるものか、仏教僧侶が珍しいためか。いずれにせよ、思ってもいなかったこのような反応に悪い気はしない。お坊さんたちも嬉しそうに応じていた。
 われわれは2000年来ヨーロッパ各地で公演を重ねてきた。しかし今回のような「ノリのいい」反応は初めてで、なんとなくアジア的シンパシーを感じた。ヨーロッパ人聴衆の興味は東洋的神秘や仏教への知的好奇心にあるように思えたが、アジアとヨーロッパの境界線にいるトルコ人はわれわれの公演をどうとらえたのだろうか。とくに、記念写真をせがんだ若い女性たちに感想を聞いてみたかった。

神戸新聞(夕刊)2010年6月16日(水)掲載