SHOMYO

 声明(しょうみょう)というのは、仏教の声による音楽である。仏教では棒読みのいわゆる「お経」と、独特の楽譜に基づいて歌われるものがある。その歌われる「お経」の方を声明と呼んでいる。本来は特別な儀式のときに寺院で歌われるが、近年は公共空間での公演や海外公演も一般化してきた。海外ではShomyoという言葉も定着している。
「声明のワークショップをしてほしい」。
 08年の英国公演ツアーでブライトンの主催者から依頼があったとき、最初は冗談かと思った。  これまで何回か公演ツアーを行ったので、仏教に関心のある人が欧米にも多いことは知っていた。また公演に足を運んでくれた人たちも少なくなかった。しかし、ワークショップとなると話が違う。参加者はお坊さんたちが唱えるお経を実際に声に出して歌うことになる。そんな人はいるんだろうか。いたのである。
 古いキリスト教会の会場に集まったのは30名ほど。やや年配の人が多かったが、参加者はごく普通の人たちだった。このときは「散華」という曲を歌えるようにするのが目標。歌詞、つまりお経の一部をローマ字になおし、譜面も用意した。真剣な表情の参加者が、お坊さんの後について一節ずつ歌う。与えられた2時間はあっという間に過ぎた。
 参加者の一人の老婦人がわたしに声をかけ、バッグから何かを取り出した。 「とてもよかった。わたしは04年にもあなたたちの公演を見たのよ。そのときお坊さんたちが撒いた華も、ほら、ちゃんともっている」
 英国に限らず、これまで出向いたヨーロッパの人たちの声明への関心は、想像以上に高いことが分かった体験だったが、日本ではどうなんだろう。ワークショップに人は集まるだろうか。

神戸新聞(夕刊)2010年7月1日(木)掲載