神戸新聞を読んで2--特集にグローバルな視点

 神戸で開かれた関西財界セミナーで人口減少社会の危機が論じられたと二月五日付朝刊が報じていた。主に、不足する働き手をどう確保するかという観点からの議論だったようだ。昨今しきりに話題になっているとおり、日本の人口減少は労働力の確保ということだけではなく、さまざまな分野に影響する深刻な問題だ。
 いっぽう、私はつい先日までインドにいたせいもあり、二月三日付夕刊「未来への選択-喧噪の陰 出産に性差別」という特集記事を興味深く読んだ。
 記者が指摘するように、インドではニューデリーはもとよりムンバイ、コルカタのような大都会でも「人と乗り物がぎゅうぎゅう詰め」の過密状態である。ムンバイの中心部と郊外を結ぶ電車は、何便かやり過ごさなければ乗れないし、やっと乗れたとしてもまったく身動きできないほどの超混雑ぶりだ。そして市街地の道路は常に大渋滞である。たった十数キロ離れた友人宅へ路線バスで行くのに立ちっぱなしで三時間かかったこともあった。排気ガスによってぜんそくになる人も多いと聞く。エネルギーの膨大な浪費と都市居住環境の悪化は深刻である。
 このようにインドの大都市内に身を置くと、インドの人口の多さと、それが原因と思われる貧困や環境破壊などの問題を実感する。インドのさまざまな問題の最大の原因は人口の過剰にあると言うインド人の友人たちは多い。
 特集記事では「人口爆発」とその危機について触れると同時に「貧困や環境破壊を人口のせいにすべきでない」という主張や、インド特有の社会的事情による出生男女性比の不均衡が紹介されていて、インド社会の複雑さと悩ましさが伝わってくる。
 日本の人口減少と、インドの人口増加。当然その処方も違ってくる。日本では出産や子育て環境の整備が叫ばれ、かたやインドでは出産制限のための家族計画教育の必要性が論じられる。二つの記事、二つの国の例を通して見えてくるのは、人口問題の切実な実情が国や地域によっていかに異なるかということだ。
 人口増で困っているところから人口減で困っているところへ人が移動していけば良さそうだが、ことはそう単純ではない。とはいえ、ゆっくりとだが我々の社会にも「外」からの人の流入が一般化しつつあるように、異なる場所で同時に進行する逆ベクトルの現象はいずれいつか向きを転じ、どこかで交差するに違いない。
 日々ニュースを消費する我々読者も、こうした対照的な内容の報道を通して想像力を鍛える必要があるだろう。今回のようなグローバルな視点に立った特集記事を評価したい。(音楽プロデューサー)

神戸新聞2005年2月13日朝刊掲載原稿