第3次讃岐うどん巡礼

 2月に敢行した「讃岐うどん+美術館ツアー」第2弾。もはや、すっかり讃岐うどんの魔力にとりつかれてしまった前回参加メンバー、橋本健二さん、植松奎二さん、宮垣晋作さんは、ついに家族や友人たちまで巻き込み始め、今回の14名という大ツアーに発展したのでありました。
 今回のコースは、「谷川」→「山越」→イサム・ノグチ庭園美術館→「山田家」。前回は、とにかく多くのうどん店を巡るという目的から、1店1玉トッピングなし、という方針でした。しかし、天ぷらトッピングを食べたかったのに、という植松篤くんの不満もあり、店数優先から集中方式に変えました。そこで、今回は「谷川」一点攻撃ということにしたのです。
「谷川」に到着したのが10:45。驚いたことに、11時の開店なのに、すでに30人ほどのお客さんが列をなしていました。前の青年カップル「大阪からです。山越、中村はさっき行ってきました。ここから長田に行く予定」、まるまる肥えた別の青年「愛媛から。前回は7店巡った」などを聞くと、讃岐うどん店巡りがどうやらブームになっている雰囲気です。
 この印象は正しいらしく、現地案内人萱原孝二さんのもってきた四国新聞の全紙特集記事「食・遊一体のおもしろさ~うどんツーリズム」(5月17日)によると、最近は県外からのうどん巡礼者が増えているそうです。記事ではまた、われわれのような県外うどん店巡礼者は容易に識別できるとして、山越の主人の談話も掲載されています。「たいていカップルかグループできて、男でも1玉(小)しか注文しない」。なかなか鋭いところを観察しているものです。まさにわれわれのことではないか。ブームの加熱度は、「あの店行った、すごかったあ」と喜んで知人に紹介することを憂慮せざるを得ない段階なのです。もっとも分かりにくいロケーションにある「山内」は、多数の客の処理のために店内を改装したのでワシはもう行かん、という萱原報告もありました。
 ともあれ、午前中1店のみ、という方針なので「谷川」では2玉食べました。期待通り、安くてうまい。比較的細めの麺はしっとりとした気品がただよい、「山内」のコシの重量感に比べてやさしく、かつ素朴。おばさんおよびお婆さんの運営、という点がこうした特徴を引き出しているのかも知れません。毎日食べてもあきないうどんのナンバーワンです。
 長い行列でしたが、なにしろ客の店内滞在時間は10分くらいなので、14名のツアーメンバーが「うんうん。うまかった」と満足して全員が出てきたのは、11時15分。1時予約のイサム・ノグチ庭園美術館へすぐに向かうにはちょっと時間がありました。そこで、「途中だし、やはりもう1店いってみたい。それにトッピングをまだ食べていない」ということになり、「山越」へ向かうことになりました。
「山越」到着が11:50。この「山越」周辺ではとんでもない現象が発生していました。約80名(彼末例子さん計数)がすでに待機状態、そして列はどんどん拡張しつつあったのです。イサム・ノグチ庭園美術館のある牟礼町までは、ここから約1時間の距離なので、予想待機および摂食時間からするとかなりぎりぎりなのです。しかし、全員がうどん目なので、だれも「止めよう」といいません。「山越」は、讃岐うどん界ではスーパースター。そのうどん質とトッピング充実度はすばらしいものがあります。谷川に比較してコシがかなり強いため重い印象でした。わたしは、ここでは2玉+天ぷらを食べました。植松家の息子たちの、トッピング満載3玉、という県外者にふさわしくない摂食行動のために、思いの外時間がかかりました。
 われわれがお腹ぱんぱんにして12:20に店を出てみると、列はさらに長くなっていました。その列には、さきほど「谷川」で一緒だった大阪青年カップルも混じっていました。「長田いってきました」。なんということだ。われわれが待っている間にかれらはすでに別の店を制覇していたのです。
「山越」出発が遅れてしまったので、牟礼町のイサム・ノグチ庭園美術館には予約時間を大幅に超過して到着でした。予約、と書きましたが、この美術館は厳しい入場制限をしています。往復はがきで予約申し込みをしなければ入れないのです。
 屋島の東裏の牟礼町は、庵治石の産地として有名で、晩年のノグチはここにアトリエを構え作品を作り続けたのでした。丸亀の豪商の屋敷を改造した自宅は、内部にはいることができないものの、簡素で美しい室内をかいま見ることができました。有名なノグチの和紙を使ったあかりや、石の作品があちこちにさりげなく配置してあります。実に美しい簡素さです。どういうわけか、インドネシアの竹の楽器アンクルンが天井からぶら下がっていました。
 ほとんどのメンバーが、うどんはもういい、魚だ、という気分だったので、美術館を後にしたわれわれは地元の黒之屋に向かいましたが、あいにく予約のみ。そこで、かねがね牟礼にいくならそこ、という目算だった「山田家」へ行き、うどん巡りの仕上げでした。「山田家」は、酒造倉を改造したかなり大規模な、オモテうどん店。ここのうどんは、いかにもオモテらしく万人向けの仕上がりでした。

サマーチャール・パトゥル第25号(1999)より