めんこい通信2009年12月27日号

 この通信はBCCでお送りしています。この通信は皆様の生活向上にはほとんど役に立たないと確信していますが、ふとお時間のあいたときにでもご一読下されば幸いです。
 チキューオンダンカというのは本当かと疑いたくなるような例年にない寒波でしたが、みなさんいかがお過ごしですか。
 事業仕分けのネット中継はけっこう楽しめましたが、これから先の世の中どうなっていくのかまったく先が読めない感じですね。「聲明+インド音楽公演に助成してほしいんですけど」「えっ、ショーミョーってなんですか」「仏教音楽の・・」「なるほど、で、その事業が役に立つ理由を教えてもらえませんか」「えっ、理由ですか。んー、こんな短時間ではとても説明が・・、んー、日本の文化がムニャムニャ」「ムニャムニャでは理解できません。わたしたちはこの事業の積極的意味は不明と判断し助成予算は削減とさせていただきました」なんてことになっちゃいそうだなあ、などと思いながら中継を見ていたのでありました。
 コペンハーゲンのCOP15も終わりました。人類は共通の危機意識を共有できないということなんでありましょうかねえ。
 ともあれ、そんなこんなの情報をだらだらと消費してぼんやりとした感想などを申し述べあう久代さんとワダスの中川家は相変わらず平和で絶対的ヒマヒマ状況下にあります。もっとも、この1ヶ月の間にワダスにインド音楽を習いたいという人が3人増えましたのでレッスンの時間は増えましたが。

ひっぱりうどん

 先日「秘密のケンミンSHOW」というテレビを見ていたら、山形県内陸部で一般的な食習慣らしい「ひっぱりうどん」が紹介されていた。ワダスの生まれ育った置賜地方ではそんな食べかたはしていなかったし、番組に出演していた庄内出身のウド鈴木も知らないといっていたので、村山あたりだけの特殊な習慣なのだろう。
 名前を聞いただけではどんなものか想像つかないがものすごく簡単な料理だった。
 
 ひっぱりうどんの作り方と食べ方。
 まず、鍋で乾麺うどんをゆでる。食卓中央に移動・安置された鍋の白濁した湯の中でうごめく白いうどん。鍋を囲む摂食者それぞれがそのうどんを自分の椀に「ひっぱって」くる。「ひっぱり」というのはこの動作を指すとか。納豆の糸がひっぱるから、という説もあるらしい。ともあれ、命名が実に安易だ。
 さて、各自が手に持ったお椀にだし汁が入っているだけなら、普通の「乾麺を使った釜揚げうどん」となるわけだが、ひっぱりうどんの場合はここが決定的に違う。お椀に入っているのは、よくまぜた納豆と缶詰のサバとネギやおろしショーガと醤油である。サバの代わりにツナ缶のツナでもいい。あるいは、揚げ玉でもいいし、パルメザン・チーズでも、マヨネーズでも生卵でもいい、らしい。要はなんでもいいけど、ベースはだし汁は使わず、納豆が必ずあること。
 どうということのない食べ方だが、納豆とサバカンというところが非ゴージャス方面で意表をつく。秋田だったと思うが、味噌汁にサバカンを入れるというところがあって驚いたことがあった。これもさっそく試した。とてもうまかった。
 翌日ひっぱりうどんをさっそく試してみたことはいうまでもない。うまかった。乾麺のうどんはどんなふうにしてもうまくはならないというワダスの先入観を見事に覆す食べ方であった。本場の讃岐うどんを自力で打つようになってからは我が家では極端に出番が少なくなった乾麺のうどんもこの食べ方だと生きてくる。みなさんもぜひお試しください。
 もっとも、食後感はあまりゴージャスとはいえない。この料理を構成するすべての素材が超安価であることばかりが原因とはいえないが、ひっぱりうどんだけで夕食を完結してしまうのはソートーに悲しい。理由は、食後の食卓をほわあーんと包むそこはかとないビンボー感である。先日還暦に達した久代さんは、どうしてもビールの友がないと完結感がもてないので、ひっぱりうどんの夕食後もビールをぐびっとしつつ断続的に生ハムやらちくわやらをかじっていた。
 うどんには品のええ、薄味のだし汁が必須だっせえ、という関西の人間はきっと目をむく食べ方かも知れない。実際、番組では関西系のタレントたちは軽蔑視線だった。ところが、試食をした彼ら全員「こりゃあ、うまいわあ」といった。食った食ったうまかった感にちょっとビンボー感を加えた食卓を演出したいという場合、ぜひ試してほしい一品である。これから家で宴会するときはすべてひっぱりうどんにしようかなあ。というと、ビール飲みの久代さんが即座にいった。わたしは別の鍋方式にするもんね。
 ひっぱりうどんのそこはかとないビンボー感をわずかに緩和する食べ方もある。我が家では定番になっている豚うどんである。沸騰した湯に薄切りの豚バラ肉と生うどんを投入して醤油で食べる方法だ。ものすごく簡単だが、うどんの表面に豚の脂がからみ、とてもうまい。このやり方は池波正太郎がどこかの本で書いていたものだ。豚肉を投入するところがビンボー感の緩和になっている。豚肉以外には、野菜や豆腐を入れてはならない。これも醤油で食する。大根おろしや、しょうが、きざみネギ、唐辛子はあってもいいし、なくてもいい。

これまでの出来事

■10月17日(土)/萬備会同窓会「還暦の集い」/むつみ荘、南陽市赤湯(山形)/県立長井高校同窓会
 ワダスはこれまであらゆる同窓会を無視してきたのですが、ほぼ40年ぶりに会う同級生たちの変わり果てた姿を確認するために山形へ行ってきました。
 酒を飲みかわすほぼ還暦の人々は、人生のもっとも感受性の鋭い時期に同じ学校で時間を過ごしたというのが唯一の共通点。すでに亡くなったものもいます。自分で選択したわけではない人間関係であるとはいえ、一定期間に時空を共有した「仲間」というのはそれなりに懐かしいけど、何を話したらいいのか。あのときああした式から離れた会話も期待しましたが、それぞれが溜め込んできた時間はあまりに異なり、話題は結局、孫が、年金がなどとなってしまい、どうしても前向きにならないのでありました。

■10月26日(月)7:00pm~/秋の夜のバーンスリー 民謡とインド音楽/堺町画廊、京都/田中りこ:タブラー、HIROS:バーンスリー
 東北の民謡とインドの音楽を聴き、秋を感じながら山形の芋煮をはふはふと食べる。そして酒をくみかわす。人生の喜びとはこういうものであったかとしみじみ味わう芋煮会コンサート、というキャッチコピーどおりとの夜となりました。芋の皮を一緒にむいた高木さんと店主の伏原さん、山科宿泊でいつもお世話になっている奥山夫妻、変な楽器を作っている岡本さん、伏原さんのダンナのゴリラ博士こと山極さんや小暮さんとの話が面白かった。

■11月3日(火)/Ann Wright女史歓迎宴会/京都 /主催:七聲会
 イギリスの七聲会おっかけおばさんアン女史、彼女のオトモダチであるケンさんこと鹿児島の入部兼一郎さんと2泊3日の京都でした。彼らの旅館に近いところの1泊3500円の外人向け安宿に泊まって彼らとつきあいました。初日は宿近くのイタリア料理店で食事、次の日は3人で宇治へ。平等院や源氏物語ミュージアムなどを見学しました。とにかく日本的なものならなんでもいいらしいアン女史の旺盛な行動欲と、京都はほとんど知らないという73歳のケンさん。それぞれの感覚が微妙にずれていて不思議なコンビネーションの珍道中でありました。その日の晩は祇園の高級中華料理屋「酒菜 栩栩膳」で七聲会主催によるゴージャス歓迎宴会。アン女史は、俗界から距離をとり厳しい修行に励む厳かな僧侶たちだと思っていた七聲会のお坊さんたちの、くだけた服装や会話や食べっぷり飲みっぷりにびっくりし、かつとても楽しんだようでした。

■11月15日(日)13:00~/天理参考館(民俗博物館)デモンストレーション/天理、奈良/HIROS:バーンスリー
 久しぶりに天理へ行き、堀内夫妻、相変わらず口数の少ない毎日新聞の城島さん、雅楽の佐藤先生などに会いました。天理には立派な博物館があるんですね。民博のプロトタイプという堀内さんの説明がうなづけます。
 天理のあとは、これも久しぶりの明日香村岡本寺の宴会に乱入。階段で滑ったという快英住職の怪我あとは痛々しかったものの本人はいたってお元気で安心でした。さんざんごちそうになり最後は廣田さんの車で自宅まで送ってもらいました。

■11月21日(土)/演奏とはなし「インド音楽のレンズを通して見えてくるアジア的音楽の可能性」/CAP CLUB Q2、神戸/ゲスト:岡林立哉(ホーミー)、田中りこ:タブラー、HIROS:バーンスリー/問い合わせ:CAP
 シリーズ最後のコンサート。50人ほどの参加者はなんちゃってホーミーのワークショップに大満足のようでありました。ホーミーとタブラーの組み合わせはインド臭が強くかなりあやしいけど成立します。来年も別な形でなにかできればいいなあと考えています。
 http://www.cap-kobe.com/club_q2/

■12月5日(土)19:00~/山形からインド経由トルコへ/トルコ料理、サクリエブ/アポ:トルコ打楽器、Sefer Simsek(セファ・シムシェイク):サズ、田中りこ:タブラー、HIROS:バーンスリー
 トルコ人2名日本人2名のこのバンドのライブは9月に続いて2回目でした。アポ、りこさんと事前に打ち合わせをしていましたが、レストランの隣の塾から大音響は困るというクレームもあり、曲順や中味も変わりました。トルコ人のおおざっぱさがなかなかに好ましい。このところ練習していた江差追分、インド古典、トルコ民謡、打楽器セッションなどなど、へんてこりんな組み合わせのライブはそれなりに好評だっようで、お客さんの1人がブログで好意的な感想を書いていました。
 http://piperscaffe.org/main/?p=4617
 アルバイトウェイターのローハットの口打楽器とかも飛びたし、最後はワインを飲み続けたセファがお客さんたちと大セッション。2月27日(土)にまたライブをする予定です。

■12月9日(水)/短足友の会宴会/アリオリオ、岡本(神戸)/植松奎二+渡辺信子、榎忠、岡田淳+ゆきこ、幸田庄二、杉岡真紀子、曽我了二、塚脇淳、長野ひでゆき、中川博志+久代、西村ふさこ、橋本健治、原田治朗
 30年来のアソビ仲間の久しぶりの宴会でした。この日は朝から何も食べずに行ったためか、ビールやワインが食べ物にかなり先行して出されたためか、足腰のふらつきと嘔吐という、急激な酩酊におそわれてしまいました。こんなみっともない状態になったのは生まれて初めてでした。やっぱり年なんでしょうかねえ。「なんだか、みんな下品になってもたみたいや」(植松)のような状況でありましたが、全体にはなにかしらほのぼのとしたものに包み込まれる宴会でありました。来年は高野山で宴会やあ、とワダスが宣言したらしいのですが、その後の記憶はソートーにおぼろげです。

この間に読んだ本===

 横になったり狭小個室でだらだらと読んだ本は以下。あいかわらずラインナップはまったく統一がありません。
『ユルスナールの靴』(須賀敦子/河出書房新社、2003)、『時のかけらたち』(須賀敦子/青土社、1998)、『遠い朝の本たち』(須賀敦子/筑摩書房、1998)、『地図のない道』(須賀敦子/新潮社、1999)、『こころの旅』(須賀敦子/角川春樹事務所、2002)・・・我が家ではまだ須賀敦子ブームが続いています。どの本もしみじみとした幸福感をもたらしてくれます。
『かもめ食堂』(群ようこ/幻冬社、2006)、『機会仕掛けの神 ヘリコプター全史』(ジェイムズ・R・チャイルズ/伏見威蕃訳、早川書房、2009)。
『記憶と沈黙』(辺見庸/毎日新聞社)、『永遠の不服従のために』(辺見庸/毎日新聞社、2002)・・・辺見庸のけっこう過激で難解な言葉遣いで語られるトピックには、われわれが直視しなければならないものが数多い。
『児玉清の「あの作家に会いたい』(児玉清/PHP研究所、2009)、『法然を語る(下)』(町田宗鳳/NHK出版、2009)。
『ル・コルビュジエ 近代建築を広報した男』(暮沢剛巳/朝日新聞出版、2009)・・・ル・コルビュジエという人はけっこうエゴ丸だしの人だったみたいですねえ。
『数学があるいてきた道』(志賀浩二/PHPサイエンス・ワールド新書、2009)、『「週刊新潮」が報じたスキャンダル戦後史』(新潮文庫、2008)、『童貞放浪記』(小谷野敦/幻冬社文庫、2009)。
『日本の書物への感謝』(四方田犬彦/岩波書店、2008)・・・知っているようでほとんど知らない日本の古典。いつか読めるだろうか。日本の古典はどれもかなり面白そうです。
『進化の存在証明』(リチャード・ドーキンス/垂水雄二訳、早川書房、2009)・・・ひさびさのドーキンスでした。生物の環境適応と生存戦略はまったく驚くべきものです。また、アメリカ人の4割以上が進化論を否定しているということも驚きです。
『ケンカの作法』(辛淑玉+佐高信/角川oneテーマ21、2006)。
『日本辺境論』(内田樹/新潮新書、2009)・・・これまでの日本論を単にまとめただけと著者がいっていたけど、実に新鮮に読めました。日本はずっと辺境だった、と。必ず歌うこと、と法律で決められた「君が代」が実はイギリス人によって作曲されたなんということも初めて知りました。メディア露出の多い保守派論客たちの論拠もこの本を読めばかなり怪しいことが分かります。「人間が過剰に断定的になるのは、たいていの場合、他人の意見を受け売りしているときだから」などというのも当たっているような気がします。
『アインシュタインの望遠鏡』(エヴァリン・ゲイツ/野中香方子訳/早川書房、2009)・・・最新の宇宙探査、解析の発展は想像以上です。重力レンズを使って遠くの天体を観察するなんてまったく驚きです。暗黒物質とはいったい何か、興味が尽きません。『「渋滞」の先頭は何をしているのか?』(西成活裕/宝島社新書、2009)

これからの出来事(2010年1月1日~)

 年中ヒマなわけですが、なかでも冬はインド音楽演奏愛好家には特にヒマな時期です。
■1月17日(日)19:00~22:00/アクト・コウベ15年目のParty with Online/CAP CLUB Q2、神戸/
 フランスのコントラバス奏者バール・フィリップスの提案で、アクト・コウベのオンライン・パーティーをしようということになりました。アクト・コウベは、阪神淡路大震災を機に生まれたアーティストによる国際交流活動。ここ数年は活動が冬眠状態でしたが、久しぶりに互いにネット中継オンライン・セッションをします。

■1月23日(土)/HIROS生誕60年記念日
 なんやかんやしているうちに、ちょっと先を越されていた久代さんに追いつきワダスも60歳を迎えます。なんともはや。

■1月27日~2月13日インド
 先日、ムンバイの友人でタブラー奏者のアニーシュ・プラダーンから、彼と奥様のシュバー・ムドゥガルが主催する音楽祭の招待状が届いたので、久しぶりにインドへ行くことにしました。ワダスも演奏する音楽祭は2月5日、6日、7日の3日間、プネーで開催されます。下記にワダスのことも紹介されています。
 http://baajaagaajaa.com/artistes-2010/h-m/hiros-nakagawa/
 まずムンバイの知人、グルなどに会ったあとプネーに入り音楽祭に参加し、ついでにボーパールへ行く予定。ボーパールは、かつてバーンスリーを教えていた大声元気青年井上想君が現在修行中のドゥルパド・サンスターンのある大都市です。井上君や師匠であるグンデーチャー兄弟に会うのも楽しみです。

■2月20日(土)/短足友の会高野山合宿宴会(予定)
■2月21日(日)/第2回厳冬サマサマ/宿坊「成福院」、高野山/参加予定者/青木恵理子、小林江美、佐久間新、諏訪晃 一、中川真、林紕さ子、HIROS/ガムランを救えプロジェクトの2回目の厳冬サマサマです。
■2月27日(土)19:00~/山形からインド経由トルコへ/トルコ料理、サクリエブ/アポ:トルコ打楽器、Sefer Simsek(セファ・シムシェイク):サズ、田中りこ:タブラー、HIROS:バーンスリー