めんこい通信2010年11月6日

 ええ、バーンスリーのHIROSです。
 この通信はBCCでお送りしています。皆さまの生活向上にはまず役に立たないと確信していますが、ふとお時間のあいたときにでもご一読下されば幸いです。
 激烈な熱波の夏なんて本当にあったのかと思いたくなるような寒い秋です。海上保安庁ビデオ流出ジケンなどなんとなく世間は騒がしいですが、皆さま、いかがお過ごしでしょうか。

まずは宣伝

■「ふたつの竹の笛、尺八とバーンスリー」
 とき/11月13日(土)19:00-21:00
 ところ/CAP CLUB Q2、神戸
 ゲスト: 石川利光(尺八)/田中りこ: タブラー、石尾真穂: タンブーラー、HIROS: バーンスリー
 主催・問い合わせ/C.A.P. 
   http://www.cap-kobe.com/club_q2/2010/10/20163809.html
 料金/前売予約¥2,000(会員前売¥1,600)当日¥2,500
 ポートターミナルのCAP CLUB Q2での「日本とインドの音楽4回シリーズ」の第3回目です。前回の福原左和子さんとのセッションはなかなかに素晴らしいものでしたが、今回もかなり面白いと思います。石川さんは知る人ぞ知る古典尺八の達人です。彼の奏でる本曲は、われわれを深い世界に連れて行ってくれること間違いありません。
 尺八とバーンスリーは竹でできた笛という意味では兄弟みたいなもんですが、離れた場所で別々に育ったため、長い間たがいに顔すら分からなかった。でも、一緒に遊んでいるうちに、ああ、あんたはこうだったなあ、などとなるのであります。まだまだ座席に余裕がありますので、みなさんぜひぜひおいで下さい。
 次回以降のラインナップ
 第4回目・・・12月18日(土)19:00-2100
 ゲスト: 森美和子(もりみわこ、篠笛)


生まれて初めての手術


 前回は、親友のボーマン君に別れ話をもちかけたけど、あちらは聞く耳をもたなかったというような話でありました。で、今回のトピックは、白内障手術と入れ歯です。手術は生まれて初めてでした。
 朝の9時、付添人の配偶者とともに市民病院北棟9階へ行き、忙しそうにしている若い女性看護士に来意を告げた。
「あのお、白内障の手術できました。どうしたらいいですか」
「あっ、はい。お名前は? 分かりました。では、奥の入院室に行って待っていてください。時間が来たらお呼びしますので」
 白内障の手術は日帰りだが、どういう理由か、入院という形式になっている。4人部屋に入ると、すでに先客がなんとはなしにベッドに横になっていた。デザインといい生地といい、どう見てもぱっとしない白いパジャマに着替えた。
 ワダスの向かいは、かねて2階の診察待ち合い所で知り合った金井さん。毎日のウォーキングと晩酌は欠かさないという元気な74歳のオジサンである。息子がロンドンに住んでいるとき胃ガンが見つかったが手術して今は元気に上海で仕事している、とか、二三年前に前立腺ガンと診断され、薬物療法を取るか、摘出か、摘出だとあっちはたたなくなるがどうする、と聞かれて、もうあっちはあまり用がないので摘出を選んだ、とか、ウォーキングでは常に2台の万歩計をつけその日の歩数と月間累計を確認するのだ、とか。ネホリハホリ質問するとうれしそうに応える。でも、ワダス個人への質問はまったくないので、きっと金井さんはワダスが何者かは知らない。
「あんたの手術は11時だって? 今日は一番早くここに来たけど、僕のは最期で11時半過ぎだといわれた。どうなってるんだろう」
 カーテンで仕切った隣りのベッドに、度の強い眼鏡の片目に眼帯をつけた40代くらいの長髪細身中年男がぼやっと横たわっていた。金井さんの会話を聞いていたんだろう。外の景色を見に窓に近づいたワダスに言った。
「白内障はあっという間に終わりますよ。僕のはちょっとややこしいんだけど」
 もう一方の窓側のベッドに「姫路の方で営業をやっている」というサラリーマン風中年男がいた。42歳だという。白内障になるのは老人ばかりだと思っていたがそうでもないようだ。今日は右目で1週間前に左目も手術したのだという。
 と、こんな風にあれこれと書いているときりがない。一気に手術の場面に移ります。
 小さな音量でショパンのピアノ曲が流れる手術室には、担当医と女性看護士が待っていた。
「ここに横になってください。はい、それでいいです。あ、ちょっと体を上にずらして。そう。左手の指で心電図を取ります。ではこれから始めます。20分くらいで終わりますよ」
 ほぼ顔面全部をマスクで覆った医師が告げた。看護士が左手の人差し指の先端にクリップを挟む。
「・・・をかけますよ」
 ・・・が何かは聞き取れなかったが、ワダスの顔全体をなにかで覆ったようだ。きっと右目の部分だけ穴の開いた布だろう。ついで目の真上の機械のスイッチが入る。オレンジ色の強烈な光が飛び込んできた。小さな台形のような二つの光源の輪郭がおぼろげに分かる。ときおり医師の手がその光源を横切る。いよいよだ。ワダスはもうショパンも聞こえないほど緊張し、文字通り手に汗を握っていた。
「麻酔をしますね」
 医師がこういうと、まぶしい光とともに液体がサラサラと眼球に降り注いできた。
「すぐに終わりますからね」
 この言葉と同時にぼんやりとした影が近づき、なにか異物が眼球の表面に接触した感覚があった。その異物の作る影が動くのは分かるが、痛みはない。時間の進み方がぐっと遅くなったように感じる。しばらくして、降り注ぐ液体の流量が増えた。と、眼球の側面から異物が差し込まれ、鈍く重い痛みが眼底に響いた。
「うっ」
 ワダスの、うっ、の訴えを無視し医師がさらにぐりぐりと作業を進める。
「もうちょっとですからね」
 やれやれ、もう終わるのかと油断していると、さらに眼球を深く刺してくるようだ。ええっ、まだなのか。手のひらはじっとり湿ってきた。きっと心電図では緊張図形が現れているに違いない。3うっの後、医師が言った。
「今からレンズを入れます」
 あ、そうですか。ということはもう1うっくらいあるのか。と、液体の降り注ぎが止んだ。そして突然、二つあった光源の輪郭がパチンと一つにまとまりくっきりした台形が現れた。きっとレンズが所定の位置に装着された瞬間だったに違いない。
「はあい、終わりました。20分くらいしかかからなかったでしょう」
 やれやれ。生まれて初めての手術はこうして終わった。車いすに乗せられたワダスは再び9階のベッドに戻った。配偶者が「どうだった」と聞く。「うーん、あっという間とも言えるし、長い時間だったともいえるかなあ。あんなに気持ちよいことなら何度でもやってみたい、とは決して思えない体験だった」と応えつつ、しばらくベッドに横になった。金井さんにお呼びがかかり、やはり車いすに乗せられて出て行った。 
 一時代前の経験者の橋本健治さんは「・・・がコワイ」と列挙していたけど、ものすごい体験をしたという感じではなかった。今年両目の手術をした88歳の義父の「あー、痛いこともないし、大したことあれへん。あっという間や」というのとも違うが、未経験の他人にはこういう風にしか言えないのかもしれない。
 術後にずきずきした痛みがやってきたが、しばらくしておそるおそる右目を開けてみた。それまであった曇りが完全に消えていた。嘘みたいだ。痛みはその後数時間続いたが次の日はもうなんともなかった。面倒なのは、1日4回、3種類の目薬をさすことだ。ともあれ、こうしてワダスの白内障退治は終わった。手切れ金は、しめて5万数千円。低収入の中川家には痛い出費だがしかたがない。
 手術の翌日、眼科診察の待合所に金井さんがいた。
「まだ、痛むんだよ。手術に時間がかかったせいかなあ。レンズが密着しなかったんだと思う。何度も何度も出したり入れたりしてたから」
 その話を聞いているとワダスの名前が呼ばれた。金井さんがいった。
「あれえ、僕の方が先にきてるんだけどなあ。どうなってるんだろう」
 で、1月経った今は、かつて右目が曇っていた状態が思い出せないほど、世界は明瞭さを回復した。ただ、右目の度数が変わってしまったので、これまで使っていたメガネが合わず、頭を動かすとちょっとくらくらする。1ヶ月で安定するというので、今度はメガネのレンズを換えなければならない。また出費だ。
 と、さらに出費に追い打ちをかける事態が発生した。眼の手術に前後して左上の差し歯がぐらつき始めたのだ。
 近所のかかりつけ脱力系歯科医は、ぐらぐらした差し歯をぐいっと抜いたあと、こう宣告した。
「困りましたね。土台になってる歯が虫歯になっているのでいくら差しても固定しない。本当は抜いてしまった方がいいんですがねえ。入れ歯にしましょうか」
 1本だけの部分入れ歯代金として、しめて1万1千円請求されてしまった。
 というわけで、ワダスは、ロクジュー代突入とほぼ同時に身体各部漸次機能不全進行時代に突入したといえます。右眼と歯の一部の次はどこなのか、それはいつなのか。他人に起こることは自分にも起こる、という言葉をかみしめるこのごろなのでありました。

これまでの出来事

■9月17日(金)/国際霊長類学会総会/ホテル平安の森京都、京都/七聲会:聲明、HIROS:企画コーディネイト
 世界中から集まった霊長類学者およそ500名の大宴会場で七聲会10人の聲明が響き渡りました。依頼主で国際霊長類学会会長の山極さんからは「絶賛する声がいくつも寄せられています」とメールが届きました。

■9月18日(土)/「インドと日本の音楽」2/CAP CLUB Q2、神戸/ゲスト:福原左和子(筝)/田中りこ:タブラー、石尾真穂:タンブーラー、HIROS:バーンスリー
 期待通り、福原さんの筝は素晴らしかった。セッションも、2度リハーサルをしたので大きな破綻もなくまずまずでした。アンコールは「春の海」。

■9月19日(日)17:45~/プルバヤン・チャタジー・コンサート/知恩寺、京都/プルバヤン・チャタジー:シタール、アヌブラタ・チャタジー:タブラー、石尾真穂:タンブーラー
 聞きしに勝るものすごいスピードの演奏に、インド人演奏家の底力を見せつけられました。ただ、タイムドメインのスピーカーの能力が小さすぎ、音割れが気になりました。インド音楽に先行した聲明は実によかった。河合さん、橋本さん、池上さんなど、七聲会のメンバーが大半だったせいもあると思います。
 会場では久しぶりに会う人が多かった。江戸の小日向さん、酒井翔君は10年ぶりくらいでした。
 近くのインド料理屋で打ち上げ後、なんとなくだらだらと西賀茂にある藤林君の自宅へなだれ込み、朝の4時までおしゃべり。30代前半の藤林君以外はすべて20代という面々とロクジューのワダスという不思議な組み合わせでした。

■9月30日(木)/ジョゼ・ユミ来宅宴会/中川家、神戸
 ブラジル人のジョゼとユミとの出会いは83年のインド。以来、何度か日本でも会ってましたが、今回は10年ぶりくらいでした。旧友と会っておしゃべりするのはシアワセです。

■10月6日(水)ミュージックカフェ「1000人で音楽をする?!」/京阪なにわ橋駅「アートエリアB1」
 「1000人で音楽をする日。」の関連イベントでした。91年の「ウドロ・ウドロ」日本初演の主催者の一人である中川真さんの話、後半は、真さん、小島剛さんとワダスとの鼎談。

■10月9日(土)/「1000人で音楽をする日。」ワークショップ/大庄南公民館、尼崎
夜/短足友の会宴会/東仲別宅、三田/植松奎二、植松信子、岡田淳、幸田庄二、塚脇淳、中川久代、中村節、HIROS、東仲一矩他
 武庫之荘に住む中島康治さんの依頼で地元公民館のワークショップでした。ものすごい雨でした。静かに説明を聞けない小学生たちのうるさいこと。
 終わってすぐに電車で新三田へ。フラメンコ・ダンサーの東仲一矩氏の贅沢な別宅でだらだら宴会。ほとんど寝ずに朝帰りでした。

■10月16日(土)13:00~14:30/連続講座「世界の民族音楽を学ぶ」/佛教大学四条センター、京都/HIROS:レクチャー、松本晃祐:タブラー/聞き手:小野田俊蔵(仏大教授)
 比較的高齢の参加者にインド音楽の概要を解説しました。

■10月19日(火)/ジョゼ&ユミ&タダシ来宅宴会/中川家、神戸
 前の宴会で、ユミが「スイスに住む友人が来日する。チューリッヒで太極拳を教えている。連れてきていいか」といったとき、なにかピンとくるものがありました。その友人というのは、実は72年に、アフガニスタンからネパールまで一緒に旅した北村忠さんだったのでした。「神戸の友人宅へ行く」としか知らされていない北村さんは、玄関ドアでワダスを確認し「ええっ。うっそだろう」と絶句。

■10月21日(木)/NHK教育TV「にほんごであそぼ」録音/サンライズ Jst、東京六本木
 江戸滞在3時間。おそらくこれまでで最短です。おおたか静流さんの依頼で、宮沢賢治作曲の『星めぐりの歌』の録音をしてきました。11月25日か26日放映の「にほんごであそぼ」で聞けるはずです。

■10月23日(土)13:00~/「1000人で音楽をする日。」/万博公園お祭り広場、大阪/問い合わせ:千里文化財団
 この4月から準備してきたイベントの本番。好天にも恵まれ、およそ600名の演奏者が参加しました。1000人には満たなかったものの、大成功といっていいと思います。当日の模様がYouTubeに公開されていますので、興味のおありの方は見て下さい。
http://www.1000ongaku.com/?p=345

■10月24日(日)17:00~18:00/ミラクルタワーTwist&Shoutトーク、クロージング・パーティー/旧生糸検査所、神戸/ゲスト:等々力政彦、インタビュアー:HIROS
 前日の「1000人で音楽をする日。」が終わってほっとしつつ、徒歩で旧生糸検査所へ。昭和2年に建造されたかなり大きな建物です。
 CAP会員であるワダスがゲストの等々力さんに話を聞く、ということになっていたのに、等々力さんが頭からどんどん話を進めるので、まるでワダスがゲストになったような感じでした。ファインマンの好きな等々力さんのフーメイはすごい。

この間に読んだ本

 横になったり狭小個室でだらだらと読んだ本は以下。けっこう忙しかったせいか、いつもより読書量が減りました。
『はやぶさの大冒険』(山根一眞/マガジンハウス、2010)
『死刑全書』(マルタン・モネスティエ/吉田春美・大塚宏子訳、原書房、1996)
『街場のメディア論』(内田樹/光文社新書、2010)
『音楽の聴き方』(岡田暁生、中公新書、2009)
『ドローンとメロディー』(再読/ホセ・マセダ/高橋悠治編・訳、新宿書房、1989)
『歌う国民』(渡辺裕/中公新書、2010)
『食べる人類誌』(フェリペ・フェルナンデス=アルメスト/小田切勝子訳、早川書房、2010)
『アソシエイト』上下(ジョン・グリシャム/白石朗訳、新潮文庫、2010)
『幸運な宇宙』(ポール・デイヴィス/吉田三知世訳、日経BP社、2008)
『蜜のあわれ われはうたえどもやぶれかぶれ』(室生犀星、講談社文芸文庫、1993)
『創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史』(輪島裕介、光文社新書、2010)

これからの出来事(2010年11月7日~)

■11月13日(土)/「インドと日本の音楽」3/CAP CLUB Q2、神戸/ゲスト:石川利光(尺八)/田中りこ:タブラー、石尾真穂(予定):タンブーラー、HIROS:バーンスリー

■11月14日(日)/インディア・メーラー2010/メリケンパーク、神戸/ムケーシュ・ケマネー:カホン、大橋一慶:タブラー、HIROS:バーンスリー
 神戸在住の関西語丸出しインド人ムケーシュに誘われて出演することにしました。江戸で毎年やられている「ナマステ・インディア」の神戸版のようですが、詳しいことは分かりません。20分なのでベンガル民謡を演奏するつもりです。
http://www1.odn.ne.jp/indiamela/about-stage14.html

■12月18日(土)/「インドと日本の音楽」4/CAP CLUB Q2、神戸/ゲスト:森美和子(篠笛・能管他)/田中りこ:タブラー、石尾真穂:タンブーラー、HIROS:バーンスリー
 シリーズ最後のコンサートは、昨年に引き続き、篠笛や能管の演奏家、森美和子さんがゲストです。即興マインド満載の人なので面白くなると思いますよ。