めんこい通信2011年5月4日号

 例年なら初夏の新緑になんとなくわくわくする季節なのに、通奏低音のような重苦しい気分が続く日々でありますが、皆様はいかがお過ごしでありましょうか。
 ムンバイのミニ音楽祭で演奏とレクチャー、プネーの音楽祭で途中停電ありのレクチャー、音楽修行の場というよりも禅の修行道場といったおもむきのボーパールのドゥルパド・サンスターン滞在、デリーから700kmほど北東の田舎町カールゴーダムでの安楽居候などなど、ほぼ1ヶ月のインド旅行から帰国したのが2月20日。さて親友のハラハリ君との旅行記録でもまとめようかといろいろ整理したり、だらだらと読書したりテレビの映画を見たりという超絶ヒマ状況的幸福に浸っていた3月11日にとんでもないことが起き、以来、にわか科学者的に福島原発事故とその周辺の情報を消費する日々が始まり、それが未だに続いています。
 みなさんもそうかも知れない重苦しい気分の原因は、復興途上の被災者のご苦労もさることながら、なんといっても福島第一原発事故です。
 かねがねワダスは原発については否定的な気分でした。なので、広瀬隆の本を読んだり、チェルノブイリの悲惨なドキュメンタリーを見たり、知り合いの映画監督、鎌仲ひとみさんの映画を上映したりと、わりと意識的に反原発方面に関心がありました。しかし、連日更新される事故および専門的な周辺情報に接していると、これまでの「なんとなく反原発」気分では知り得なかったことが次々と分かってきました。もう今では、自慢じゃないけど、ウラン235とかセシウムとかヨウ素がどうの、プルトニウムがなんやらかんやら、圧力容器の鉄板の厚みが16cmもあるだの、格納容器がどうの、冷却システムがこうこうで、炉心溶融が起きていてうわーだの、再臨界が起きているのかもなどなどの専門領域はじめ、これまでの原子力行政のあやしげな実態とか、いわゆる御用学者の不誠実だの、理解しにくい菅政権や行政の対応、これからのエネルギー政策などの環境方面すらカバーする、センモンカに近いベンキョーをするほどになったのでありました。たいてい答えられないかも知れませんけど、なんでも訊いてけろ、といいたい高揚した気分なのです。というわけで、かつての「なんとなく反原発」から積極的反原発に変わりました。
 広瀬隆の『ドイツの森番たち』を読んだり、最近配偶者ともども熱烈なファンになった小出浩章さんらのネットの情報からすると、高濃度廃棄物、つまり原発のゴミをどうするのかまったくめどが立っていないとのこと。となるとものすごく高価な「もんじゅ」やら六ヶ所村の再処理施設の存在はブラックジョークとしか思えません。
 では、なぜこんな冗談のようなことをこれまで止められなかったのか。いつかは核兵器をもちたいというのが動機だという説もありますが、それならそれで議論できます。河野太郎がいっているように、原発の有り様が、責任の所在が曖昧で後戻りできないほどもつれあった利権構造なのだとしたら、いくら原発が危ないと論理的に主張してもだめだったはずです。失うものの多い人ほど、つまり欲の多い人ほどまともな論理から離れてしまうという構造が変わらなければどうにもならない。ではどうやったら変わるのか、悩ましい問題だなあ、とぶつぶつつぶやいているのであります。

これまでの出来事

■1月22日(土)~2月20日(日)インド
 今回はムンバイ→プネー→ムンバイ→ボーパール→カールゴーダム→デリーというコースでした。各地の友人知人のおかげで全泊居候でした。ありがたいことです。この期間のいちおうシゴトもどきは、日本音楽紹介レクチャー2回、公演2回、ホームコンサート3回。わずかですがシューニューもあったので、今回のインド旅行費用は渡航費も含めほぼゼロ。
 関係ありませんが、The Oxford Encyclopedia of the Music of Indiaが出版されました。全3巻総重量6kgのインド音楽百科事典です。これを20年以上がかりで編集したのはワダスの翻訳出版のときにお世話になったピライ博士。ラーガに関して参考にされたとのことでワダスの拙訳書『インド音楽序説』も巻末の参考文献に載っていました。

■2月27日(日)~28日(月)高野山
 昨年に引き続き、ガムランを救えプロジェクトの「厳冬サマサマ」第2回目。参加者は青木恵理子、秋山浩太、岡部太郎、風間純子、小林江美、佐久間新、嶋和彦、ジャネット女史(米国)、諏訪晃一、中川真、林紕さ子、HIROSの計12名。ガムランを救えプロジェクトの活動を卒論のテーマにした阪大生の秋山浩太さんによるプレゼンを肴に、あまり寒くはなかった高野山の夜は更けるのでありました。

■3月12日(土)生涯学習音楽指導員養成講習会「民族楽器演習」/大阪音楽大学/主催:財団法人 音楽文化創造/講師:HIROS
前日の東日本大震災発生でもキャンセルになりませんでした。参加者は女性のみ9名。

■4月9日(土)花見大会/護国神社、神戸/主催:天藤建築設計事務所

■4月11日(月)大谷大学前期講義開始
 月曜日の大谷大学、火曜日の龍谷大学と毎週出かける日々が7月まで続きます。

この間に読んだ本

『神は妄想である』(リチャード・ドーキンス/垂水雄一訳、早川書房、2007)
『思想としての音楽』(片山杜秀責任編集/講談社、2010)
『アラブの音文化』(西尾哲夫・堀内正樹・水野信男編/スタイルノート、2010)
『ピアニストは指先で考える』(青柳いづみこ/中央公論新社、2010)
『後藤正治ノンフィクション集第7巻』(後藤正治/ブレーンセンター、2011)
『延長された表現型』(リチャード・ドーキンス/日高敏隆・遠藤彰・遠藤知二:訳、紀伊国屋書店、1987)再読
『巨人たちの落日』上中下(ケン・フォレット/戸田裕之訳、ソフトバンク文庫、2011)
『パチンコ裏物語』(阪井すみお/彩国社、2010)
『SWITCH STORIES』(新井敏記/新潮文庫、2011)
『鏡の荒野』(新井敏記/スイッチ・パブリッシング、2011)
『他人を見下す若者たち』(速水敏彦/講談社現代新書、2006)
『虹の解体』(リチャード・ドーキンス/福岡伸一訳、早川書房、2001)再読
『ドイツの森番たち』(広瀬隆/集英社、1994)
 インドではまったく読書せず、かつ震災以来、テレビ&ネット漬けだったせいか読書量もぐっと減っちゃいました。このごろとみに忘却力がパワフルさを増したため再読本も新鮮に読めます。経済的だし。

これからの出来事

 週2日のジュギョーとレッスン以外はこれといったゼニ仕事はありませんが、たまに絶ヒマではない日もあります。

■5月21日(土)15:00~21:00/ガムランエイド「震災から5年、そしてこれからの5年」/大淀アートセンター、大阪/主催:ガムランを救えプロジェクト/ダンス:佐久間新、バーンスリー:HIROS他
 東日本大震災への取り組みも話し合われる予定です。

■6月17日(金)19:00~/世界音楽における即興シリーズその1
<北インド古典音楽3夜連続トーク+コンサート>第1夜「ラーガ:即興の旋律」/CAP CLUB Q2、神戸/1回1000円/問い合わせ:CAP 電話078-222-1003/はなし:HIROS、聞き手:下田展久
・6月18日(土)19:00~/第2夜「ターラ:循環する拍節」
・6月19日(日)16:00~/第3夜「インド音楽のたのしみ
・6月25日(土)インド音楽~竹の笛、バーンスリー/タブラー:田中りこ、バーンスリー:HIROS/CAP CLUB Q2、神戸/当日2500円、前売り2000円

■8月26日(金)19:00~/世界音楽における即興シリーズその2-第1夜
<トルコの音楽3夜連続トーク+コンサート>/CAP CLUB Q2、神戸/1回1000円/問い合わせ:CAP 電話078-222-1003/はなし:Abdurrahman Guelbeyaz、聞き手:HIROS
・8月27日(土)19:00~/世界音楽における即興シリーズその2-第2夜
・8月28日(日)16:00~/世界音楽における即興シリーズその2-第3夜

■9月2日(金)/トルコ音楽アンサンブル学校訪問/八雲小学校、忌部小学校/松江

■9月3日(土)/第19回庭火祭「トルコ音楽」/トルコ音楽アンサンブル(Turan Vurgun: Oud+Kanun, Tolga U¨NALDI:Ney, Sefer ?IME?EK:Balam+Vocal, Abdurrahman GU¨LBEYAZ:percussion)/企画制作・招聘:天楽企画

■9月4日(日)/トルコ音楽コンサート/CAP CLUB Q2、神戸/トルコ音楽アンサンブル/詳細未定

■9月11日(日)<七聲会コンサート>“Colors of Voice, Colors of Wind”/ルールトリエンナーレ/Jahrhunderthalle Bochum、Bochum(ドイツ)/七聲会:聲明、石川利光:尺八
 去年に引き続き、七聲会は今年も海外公演があります。今度はドイツです。