めんこい通信2012年7月26日号

 いよいよ本格的な夏がやってきましたが、皆さまはいかがお過ごしでしょうか。
 我が家は二人とも例年通りTシャツにパンツという格好でだらだらと生活しています。それにしても暑い。やせ我慢で冷房をつけていませんが、いつまで耐えられるか。
 いまだに多くの被災者が苦しんでいるというのに大飯原発はいよいよ再稼働しました。ふくれあがる官邸前デモも、現場での抗議活動も、原発に否定的なたくさんのつぶやきも、大半が脱原発派という調査結果も再稼働を止めることができないのですねえ。
 大阪府市エネルギー環境戦略会議の座長である植田和弘京大教授の話が日経ビジネスに掲載されていて、それがなかなかでしたので引用します。
---関西電力と話し合ったとき、向こうは何メートルの津波に対して、どうするとか、技術論ばっかり喋るんです。それで、では事故が起こったときの体制はどうですか、と当然、こっちは聞きますよね。そしたら、驚いたことに「事故が起こらないようにします」という答えやねん。びっくりしたわ(笑)。
---http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120712/234391/?P=5
 福島であれだけ深刻な事故を経験したというのにいまだにこんな返答が聞かれるということにものすごい無力感を感じます。
 そうありたいという願望が現実の決定の根拠になるという状況が教えてくれることは、これまで経験してきたはずの戦争や公害や薬害などからわれわれが何の学習もしないということです。ひょっとしたらやばいことが起きるかもしれない、そのための対処をあらかじめ考えておこう、というのは長距離想像力のある人ならとうぜん考える。しかし、社会の方向性を決定する最高度の教育を受けたはずの人々はひたすら目の前の現実しか見ようとしない。消費税増税なんかもそうですが、明日のことなんか知るかあ、なによりも明日の100円よりも今日の10円が重要なんだあ、と考えているように見えます。
 こうした傾向は、今に始まったことではなくずうーっと昔からこうだったのではないか。子供たちの想像力や創造力を育むための教育にこれまでものすごい費用とエネルギーが注がれましたが、そう教育されて立派な社会人になったはずの大人が「理想と現実は違うのだ。大事なことは今日の10円なのだ」と叫んで恥じることがない。子供たちが学習するのはそうした大人の態度なわけで、かくして至近距離想像的現実対応の伝統は見事に守られていくということか。『ショック・ドクトリン』(ナオミ・クライン)で描かれる新自由主義やグローバリズムのおぞましさには身の毛がよだつ思いがしましたが、現代社会の個人のモジュール化という寒い状況と原発事故はリンクしているように思えます。
 われわれはものすごい量の情報に簡単にアクセスできるようになってきましたが、それと比例して個人のできることが減少し無力感のみが増大する。どうしたらいいのか。とても難しい時代だと実感します。
 こうした情けない出来事のいっぽうで、ついにヒッグス粒子が発見されたとのニュース。とはいえ、ヒッグス粒子がどういうものかを完全に理解している人は全人類のなかでもほんのわずかだとは思いますが。ともあれ、これで物質を構成しているとされる素粒子のすべてが出そろったとされています。こうした物理学上の発見は長距離想像力のなせる技ですが、いかんせん現実生活との関わりからははるかに離れていて、もはやそういうことを理解する訓練を受けた人たちにしか理解できない。
 人類の生活向上にはほとんど無益なほぼジョブレス・インド笛吹きと順調に10.6生活を維持する同居人は、世界で起きているさまざまな現象のほんの一部をただただ眺めて嘆息したり感心したりへーえと申し述べたりするしかないのでありますが、少なくとも至近距離想像的現実対応の伝統には与せずにいたいものであります。もっとも、このようなわれわれのだらけた生活態度が声の大きな至近距離想像的現実対応組を結果的に支えているわけなので、なにかしら行動をしなきゃとは思っているのでありますが。

===これまでの出来事===

 月曜日京都、火曜日瀬田のシュッキン、ときどきレッスンやらリハーサルという安定した代り映えのしない日々でありました。以下はそれ以外の出来事です。

■5月1日(火)/ドゥルバ・ゴーシュに会う/大津プリンスホテル
 ムンバイのサーランギー奏者ドゥルバ・ゴーシュに会いに大津プリンスホテルに行きました。ドゥルバは信楽のミホ・ミュージアムで開かれるコンサートのために来日したのです。昨年、彼が録音に参加したアルバムがグラミー賞を受賞したのでその記念公演というふれこみ。ミホ・ミュージアムは神慈秀明会という宗教団体が運営する美術館で、コンサートの聴衆はほぼ信者ということ。
 ムンバイから着いたばかりでほとんど寝ていないというドゥルバから、最新式調理済みインド料理パックや「プレゼントだよ」というバーンスリーを受け取りおしゃべり。ドゥルバの弟子の中川ユウジ君も加わりだらだらした時間を過ごしました。プレゼントされたバーンスリーは、ワダスがいつも購入するカンティ・バイの作。音質がとても気に入ったので最近ずっと使っています。
 
■5月5日(土)/バーンスリーと声楽-インド古典音楽/CAP Club Q2、神戸/井上想:声楽、金子テツヤ:パカーワジ、大橋一慶:タブラー、HIROS:バーンスリー
 久しぶりに帰国した井上君の演奏を聴きました。2年前の同じ場所での演奏よりもずっと自信にあふれた演奏でした。今や日本だけではなくバナーラスのパカーワジ界をしょってたつ金子さんの演奏も素晴らしかった。滞印4年となった井上君はふたたびインドへ帰りもう1年インド各地で演奏活動をするとのこと。ドゥルパドという地味なスタイルの音楽はじわりと広がっているようで、ワダスの最初の声楽のグルであるリトウィック・サンニャルに習っている鈴木なおさん、Shreeこと桂まりさんらもがんばっています。

■5月6日(日)/グンデルでいっぷく/CAP Club Q2、神戸/ギータ・クンチャナ:バリのグンデル、ハナジョス:ジャワのグンデル、大西由希子+マニックスマラ:バリ舞踊
 バリとジャワのグンデルの違いを初めて理解しました。小林江美さんの脱力した解説もよかった。二日続けてのQ2コンサートでありました。

■5月24日(木)/厳選同窓会/花くじら、福島(大阪)
 参加したのは、安藤朝広夫妻、奥山隆生夫妻、湊隆夫妻とワダス。花くじらのおでんはなかなかの美味でありました。

■5月29日(火)/オリッスィー舞踊団公演/大谷大学
 インド総領事のいかにも作家らしい挨拶の後、午前中の東大寺に続く公演でした。オリッスィー舞踊団と聞いて期待しましたが、伝統舞踊ではなく創作舞踊でした。伴奏音楽家の演奏、特にバーンスリーは良かったのですが、後半はカラオケだったのがとても残念。デイヴィッド・クビアク、リタ夫妻にものすごく久しぶりに再会しました。お誘いした龍谷のエリーこと青木恵理子さん、エミーことバリ音楽の小林江美さんとで大谷大近くの王将で軽く一杯。

■6月8日(金)/三田市フラワータウン市民センター
 三田でヨーガのグループを組織して20年という伊藤登美子さんの依頼でソロ演奏とインドの話をしました。午前11時開始だったのでいつもより早起きしバスで。
 終わった後は数十名の参加者全員(うち男はワダスともう一人60代の二人)で「がんこ・三田の里」で会食。江戸時代の大きな屋敷のたたずまいはゴージャスでした。

■6月9日(土)11:00~/厳選短足友の会麻雀/中川家、神戸/参加雀士/植松奎二、榎忠、宮垣晋作、中川久代、HIROS
 正月に箕面の植松家で行われる麻雀のポートアイランド編。友人との麻雀はいつもとても楽しい。

■6月16日(土)/厳選短足友の会麻雀/中川家、神戸/幸田庄二、曽我了二
 幸田さん、曽我さんはほぼ月一の固定メンバーです。この会では中川家は負けたことがないのであります。

■6月19日(火)/火曜サロン・「篠笛とバーンスリー~日印の竹笛が描く不思議な風景」/ギャラリー島田・アートサポートセンター神戸、神戸/台風のため中止

■6月24日(日)/南シベリアの詩-フンフルトゥ公演/伊丹アイフォニックホール
 旧知の等々力さんが3年前から準備してきた日本公演の初日でした。低音喉歌による冒頭のプログラムには度肝を抜かれました。等々力さんのちょっとはにかんだような解説も、公演内容も素晴らしかった。 エレキ馬頭琴制作の岡本康兒さん、活け石のスティーヴン・ギル、升田光信+タカシ父子、筝の今西玲子、テルミンの児島住織、CAPでガムランやってた太田君などなど、見知った顔が多かった。帰りの電車で建築家の橋本健二夫妻と一緒になりました。で、健さんは5月のワダスのコンサートにもおいでいただいたのですが、ドゥルパドのときにパカーワジ伴奏がいっさいなかったのはケシカランと申し述べられたのですが、これは彼の思い違いだと後日判明。

■6月26日(火)/Q2ペリカンズ・イブニング・コンサート/CAP CLUB Q2、神戸
 CAPの下田さんのコンサート。いつもいつも忙しい下田さんがどうしてあんなかっこいい曲を作る時間があるのか。教えていた同志社女子大の喫煙コーナーで仲良くなったという学生二人の共演者も楽しそうでした。

■7月8日(日)5:00pm~/インド古典音楽とインドカレー~聴覚と味覚によるインド的三千世堺/堺町画廊、京都/室優哉:タブラー、HIROS:バーンスリー
 当日は2時過ぎから画廊でカレーを制作。ヒーッレベルのカレーでした。ひひひ。顔見知りが多く、山科居候先の雅子さんとオトモダチ、この4月から同志社のセンセになって京都に移り住んできた中野民夫さん+2人(打楽器奏者)、生徒の奥野君などなど。室君とは初めて演奏しました。とてもシャープな音のタブラーでした。

■7月10日(火)6:30pm~/ミーナ・バヤ作品展HIROSミニライブ/カモガワラボ、京都/京都市中京区河原町丸太町日東入る スカイマンション1F/松本晃祐:タブラー、HIROS:バーンスリー
 日曜日に引き続き、リタ・クビアクの依頼で京都のカレー屋さんでちょこっとライブ。それほど広くない店内でしたが満員。デイヴィッドとリタの息子のカズ君(なんと宮大工)、大谷でときどき会う英語の先生のジュディス・クランシー、ペーパー・ワークのサラ・ブレイヤーなどなど、外国人聴衆が目立ちました。京都ならではであります。
 松本君とは久しぶりの共演でした。次はハトゥラー(タブラーのチューニング用トンカチ)を忘れないでけろ。

■7月13日(金)/維新派公演「夕顔のはなしろきゆふぐれ」/デザイン・クリエイティブセンター神戸
 デザイン・クリエイティブセンター神戸というのは、かつての生糸検査所をデザイン都市神戸の中心にしようとリノベーションされた大きな建物です。
 下田さん経由で神戸市の衣笠さんからタダのチケットをもらったので雨の中二人で出かけました。
 維新派の公演は初めて見ました。舞踏とも演劇ともいえない不思議な舞台は新鮮でしたが、次の演出が予測できるようになったとき長く感じました。内橋さんの音楽が素晴らしかった。
 公演後、その内橋さん、奥さんの華英さんとちょっといっぱい。屋台空間を泳ぐ娘のカノンちゃんの姿も見えました。華英さんとは3年前にウィーンでお会いして以来でした。

■7月14日(土)厳選短足友の会麻雀/中川家、神戸/幸田庄二、曽我了二+ゲストの松下洋平さん
 ほぼ定例の麻雀。元市川町長の松下さんがご自分で作られた米を携えて参加でした。

■7月15日(日)CAPビアガーデン/CAP CLUB Q2
 単に参加するつもりがカレーまで作ることになってしまいました。カレーはいつものように大好評。岩淵さんのフランス旅行報告や、スタンダードばかりを演奏する船上バンドのようなバンドの演奏つき。まるで大きな船のデッキにいるような雰囲気でありました。

■7月22日(日)トリニティー・アイリッシュ・ダンス公演
 植松さんにチケットをもらったので配偶者と見に行きました。なかなかによくできた舞台でしたが、後半はちょっと見飽きた感じがしました。1000近い平均年齢の高い聴衆に、エスタブリッシュされたエンタテインメントの実力を感じました。
 閉じたシャッターの続く元町高架下を通り途中「赤萬」のギョーザで8人前食べて帰宅。間もなく京都からシタールの岩下洋平君とバーンスリーの南さおりさんが来宅。南さんがワダスのDのバーンスリーを購入。指が短くて届きにくいDバーンスリーを難なく吹く南さんに驚きました。

===この間に読んだ本===

『ぼくには数字が風景に見える』(ダニエル・タメット/古屋美登里訳、講談社、2007)・・・サヴァン症候群にときどき現れる共感覚と驚くべき記憶力。
『アシモフの原子宇宙の旅』(アイザック・アシモフ/野本陽代訳、二見書房、1992)
『天災と国防』再読(寺田寅彦、講談社学術文庫、2011)
『文明としての江戸システム』(鬼頭宏、講談社学術文庫、2010)
『成熟する江戸』(吉田伸之、講談社学術文庫、2009)
『放浪の天災数学者エルデシュ』(ポール・ホフマン/平石律子訳、草思社文庫、2011)・・・一生家を持たずものすごい数の数学論文を書いたハンガリー人の話。
『ファインマンさん最後の冒険』再読(ラルフ・レイトン/大貫昌子訳、岩波書店、1991)・・・等々力さんがこれを読んでトゥバ行きを決心したと。トゥバがチューバとなっていたのが気にはなりましたが、いい本です。
『龍を見た男』(藤沢周平、青樹社、1983)
『「当事者」の時代』(佐々木俊尚、光文社新書、2012)・・・「マイノリティー憑依」という言葉が鋭い。
『アインシュタインの部屋』上下(エド・レジス/大貫昌子訳、工作舎、1990)・・・世界で最も優秀な学者を集めたプリンストン高等研究所の話。
『ショック・ドクトリン』上下(ナオミ・クライン/幾島幸子+村上由見子訳、岩波書店、2011)・・・新自由主義、グローバリズムのおぞましさが伝わってきます。すごい本です。
『シャンタラム』上中下(グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ/田口俊樹訳、新潮文庫、2011)・・・主にムンバイを舞台とした長編小説。ムンバイの裏社会やスラムの様子が描かれています。著者の実体験が元になっているというところがすごい。
『続・悩む力』(姜尚中、集英社新書、2012)

===これからの出来事===

 9月からは後期ジュギョーで毎月曜日のみレギュラーであとはてんでヒマな日々が続きます。

■8月24日(金)〜8月27日(月)/山形
 8月はレギュラー仕事がゼロで完全な夏休みです。山科居候先の奥山夫妻と久しぶりに山形へ行くことにしました。25日の鶴岡の蕎麦屋「大松庵」でのソロライブ込み。
■10月19日(金)/Acte Kobeライブ/旧グッゲンハイム邸、神戸/バール・フィリップス:コントラバス、久田舜一郎:小鼓、齋藤徹:コントラバス他
 フランス在住のコントラバス奏者かつ元アクト・コウベ・フランス代表のバールが久しぶりに来日するというので、アクト・コウベのメンバーたちとセッションしたりパーティーをすることになりました。場所は塩屋の旧グッゲンハイム邸。
■11月1日(木)/HIROSのバーンスリー/知恩寺、京都/室優哉:タブラー、HIROS:バーンスリー