めんこい通信2013年10月30日号

 夜も昼もエアコン付けっぱなしで徹底してだらけた日々を過ごした夏の異常な暑さがもう思い出せないほど涼しくなった今日このごろですが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
 どうも世の中はますますおかしな方向へ向かっているように見えます。
「批判されてもうつむいて固まって黙っているだけ・・・解決策や再発防止策をまったく示さない技術者、科学者、経営者・・・技術そのものではなく、人間力として、原子力を持っちゃいけない社会だと確信した」(福島原発事故時の下村内閣官房審議官のノート/船橋洋一著『カウントダウン・メルトダウン』からの孫引き)人も当時の内閣にはいたというのに、汚染水漏洩問題の解決策も廃炉や廃棄物の最終処分の方針もたてられる状況にないというのに、原発の輸出もするもんね、フクシマは完全コントロールされてるからオリンピックぜーんぜん大丈夫だもんねなどとうそぶく、テレビなどで見れば見るほど理念とか哲学とかの知的方面からほど遠い感じのアベソーリ。片や選出されたときの公約なんかすっかり忘れ「遺伝子組み換え作物で消費者の健康や環境に被害が出ても、因果関係が証明されない限り、司法が種子の販売や植栽停止をさせることは不可とする」(モンサント保護法)などという恐ろしい法律も作ってしまったオバマはん。みずほ銀行がやくざに金を貸していたなどというニュースもありましたが、これだってたまたまばれてしまったから問題になっただけじゃないのと思えるほど巨大企業の闇は深く、国家の枠を超えて大きなものが小さいものを飲み込み加速度的に膨れ上がる巨大企業の信じがたいモラルの欠如。
『(株)貧困大国アメリカ』(堤未果)では、今やアメリカは教育、農業、公共サービス、政治、マスコミなどなどが超巨大企業によって支配されつつあるという恐るべき現状が紹介されています。TPP交渉というのが進行しているようですが、企業によって支配されているアメリカにこちとらの会話がみんな盗聴されていたら交渉にもならない。『ショック・ ドクトリン』(ナオミ・クライン)や『昨日までの世界』『文明崩壊』(ジャレド・ダイアモンド)などと併せて読むと、今後ますます進行するであろう、ごく少数の富者と大多数の貧者から成る格差拡大社会が近い将来必ず大崩壊にいたるのではないか、人間の社会はいったいこれからどうなるんだろうと不安になります。
 一介の、確実にあと50年は生きられない、ほぼジョブレスミュージシャンのワダスにはもちろん解決などとても覚束ない手に余る問題だらけですが、少なくとも世界で何が進行しているのかの一部だけでも知ろうとすることはでき、知る人間が増えれば多少なりともある種のブレーキになるのではないか、などと考えつつ、えっ、夕飯はサバ缶の鍋(小泉武夫流)だって? と配偶者に確認する日々なのでありました。

===これまでの出来事===

■7月19日(金)/伊藤真浄さん通夜/法雲寺、京都
 七聲会のメンバーだった伊藤真浄さんのお通夜が住職寺であり縁切り寺としても有名な法雲寺でありました。高層マンションとビルに囲まれたこじんまりとしたお寺です。七聲会メンバーを中心として詠われる聲明が、夕暮れの近づく周辺を包み込み美しく響いていました。家を出るときに金額をどうするか悩んだ香典を手渡そうとすると「お断りしています」との返答。時折見かけた七聲会の人たちと目で挨拶し、焼香をすませてそそくさと帰宅の途につきました。飲み食いもおしゃべりもない、実に淡々としたお通夜でありました。

■7月20日(土)/久田舜一郎さん『感謝の集い』『古希を祝う会』/Q2、神戸
 能の大倉流小鼓方の久田さんの70歳を祝う大宴会。久田さん本人から「あのお、カレーを作って、演奏もして下さい」と依頼されました。
 分量が直前まで判明せずどたばたしましたが、CAPの井ノ岡さんや合気道場の人たちに手伝ったもらってなんとか60人分ほど作りました。カレーの他に、名古屋の村瀬真理子さんが何品もある本格的イタリア料理を手際よく作り上げました。
 伝統芸能の重鎮のお祝いといえば、ま、普通はゴージャスなホテルの宴会場が一般的なのでしょうが、久田さんは単なる細長いスペースとはいえ東西のガラス越しに海の見えるQ2が気に入ったようです。参加者は120名ほど。久田さんのご家族を始め、個人的におつきあいのある人々でぎっしりでした。久しぶりにお会いする見知った人たちも多かった。怨霊研究者の大森亮尚さん、音楽音響学の中山一郎さん、神戸夙川学院大学の吉島さんと「ステーション」編集長の淑子夫人、塚村真美さん、大野裕子さん、サックスの山本公成さん、能プロデューサーの千葉さん、近所の内田はるみさん、明日香村の柏井貴理子さんなどなど。宴会の合間に久田さんとワダスのにわかデュオやら、CAPの下田展久バンド、角さんの即興舞踊、榊原明子さんのピアノ弾き語りなど、こちらも盛りだくさん。
 艶やかな新地のママなどもいたワダスのテーブルで、神戸新聞読者室長だという武田良彦さんと知り合いになりました。なんと山形出身で、タブラーをやっていた荒井俊也さんの同級生ということが判明しました。まったく、世界は狭いものです。

■7月26日(金)/のじぎく会/神戸大学医学部
 献体申し込みに伴う面談でした。のじぎく会というのは献体登録をしている人たちの団体です。

■7月26日(金)ア・ラ・メール/Q2、神戸
■7月27日(土)/短足麻雀/中川家、神戸
■8月5日(月)/タクトフェスト(大阪国際児童青少年アートフェスティバル)/阿倍野区民センター、大阪/ウロツテノヤ子:バリ・ガムラン、中尾幸介:タブラー、HIROS:バーンスリー他
「シショー、コヤノからだけど、どない?」バリ芸能の小林江美さんから電話。コヤノというのはバリ舞踊家の小谷野哲郎さん。その小谷野氏の企画でアジアの芸能を紹介する日に出演してほしいという。ガッコが夏休みに入るとまったく何もする事のない日々が続くのでもちろん承諾しました。
 で、猛烈に暑い真夏の当日の午前11時、若いのに堅実な演奏のタブラー青年、中尾孝介君と、音響、照明の調整が終わった小ホールの舞台に座り客席を見ると、ゆるい階段状の200人ほど入る客席に誰もいない。冷房のせいもあってか寒々とした風景が広がるのでした。
「どうしよう」孝介君にいう。孝介君は最前列に座った同居人のアイコさんを見て答えた。「どうしましょうか」
 このやりとりを聞いていたアイコさんが拍手した。
「ま、始めるか」
 演奏開始後、ぽつりぽつりと人が入ってきて最終的には10人ほどになっていました。うーん、まったくすごい状況。ずっと以前、がら空きの東京渋谷オーチャードホールで共演したサックスの坂田明さんの名言を思い出しました。
「向かうところ客なし」
 この催しに参加したのはわれわれの他に、小林江美さんも臨時に加わった小谷野さんのバンド「ウロツテノヤ子」、Hana&Joss、珍しいカンボジア舞踊グループでした。小谷野氏を始め、大西由希子、西田由理、西岡美緒、佐々木宏美、ローフィットなどと久しぶりの再会でした。
 で、近くの鶏屋で打ち上げ。ワダスは最終電車に間に合いましたが、梅田まで同じ地下鉄に乗った大西さんは結局最終電車に乗り遅れ、駅で一晩過ごしたとのこと。

■8月28日(水)/クリシュナ・ジャヤンティー/朝日ホール、神戸/村上幸子:オリッスィー舞踊、ルクミニ・ナオコ:バラタナーティアム、桜井ひさみ:ガザル、逆瀬川健治:タブラー、土肥真生:ギター、HIROS:バーンスリー
 姫路に住むバラタナーティアム舞踊家ルクミニ・ナオコさんの企画でした。ホールを無料で使える抽選に当たったということで、500人収容の朝日ホールが会場。
 クリシュナ・ジャンヤティーというのは、ヒンドゥー教で人気のあるクリシュナ神の誕生日を祝うお祭りです。インドの芸能はクリシュナ信仰にちなむものが多いこともあり、インド国内でも芸能祭が開かれています。今回の出し物、特に古典舞踊のテーマはクリシュナにちなむものが多いので趣旨に適っているとはいえますが、ガザルは主にイスラーム教徒中心に聴かれたり歌われる恋歌なので、必ずしもヒンドゥー教一色というわけではありません。ま、インドの芸能をより広く知ってもらうためにヒンドゥー神の誕生日を利用したともいえます。
 出演者はすべて日本人。ヒンドゥー教徒ではない。そのわれわれが、インドの伝統衣装に身を包み、クリシュナ神のイメージで飾られた舞台で舞踊や音楽を披露し生誕を祝う。インド芸能を一般に知ってもらう機会があること自体は喜ばしいことではありますが、ふと客観的に見るとこれってソートー怪しく映るかもしれないと思ったのでした。なにしろ祝っているのは外国の神様の誕生日です。なので、たとえばイギリス人たちがロンドンで羽織袴や着物姿で天照大神の誕生日を祝うために日本舞踊や琴尺八を披露するの図、てな感じになるかな。なんか怪しいですよね。
 公演そのものは、踊りあり笛あり歌ありでお客さんたちは楽しめたのではないかと思います。桜井さんのガザルもとてもよかった。イスタンブールのクラブにでも行って聴いているような気がしました。
 ワダスと一緒にタブラーを演奏したのは逆瀬川建治さんでした。彼と会うのも演奏するのも実に久しぶり。彼はインド音楽演奏家の老舗。かつて演奏していた知り合いが多くリタイアするなかでまだしっかりと頑張っていることに頭が下がります。堅実で安定感のある演奏で、ワダスも気持ちよく笛を吹く事ができました。
 終演後、受付に出ると、インド舞踊の草分けである大谷紀美子さんから「クリシュナだねえ」とお声をかけていただきました。他に森すみれさん、小磯学さんと娘のマホちゃん、「あしゅん」のサキさん、昔福山のお寺でお世話になった壇上さんなどと久しぶりにお会いしました。
 
■8月30日(金)/ア・ラ・メール/Q2、神戸
■9月17日(火)、18日(水)/中川家温泉小旅行/潮彩きらら祥吉、赤穂/JR大回り周遊
 昼も夜もエアコンつけっぱなしでひたすらだらだらとした日々を送っていてちと退屈したので配偶者に温泉にでも行こかと提案。だらだら生活をなによりも好む配偶者もそんなに喜ぶ風でもなく承諾したので、適当に近いところの赤穂温泉一泊旅行に出かけました。
 ネットで適当に選んで予約した潮彩きらら祥吉は、内外装、サービスとも超豪華というわけではありません。でも瀬戸内海を見下ろす露天風呂はなかなかでした。フナムシの驚異的速度の垂直壁面登攀などに感心しつつ海岸沿いの遊歩道を散歩してから温泉につかり夕食。予約してあった伊勢エビの刺身の値段と釣り合わないあまりの小振りさに失望しながらも、だらだら生活とは違った、ちょっと豪華な夕食でした。
 翌朝、朝風呂のあと10時のチェックアウトと同時に旅館のバスで赤穂城へ。天守閣のあった小高い石垣の上から眺めると、忠臣蔵で名高い赤穂という土地が周囲を山に囲まれて意外に狭いことが分かる。吉良上野介のどんないじめにあって刃傷沙汰になったのかは知らないけど、浅野内匠頭という人はこんな狭くて小さな土地の殿様だったんだなあ、などと感慨を申し述べつつ、大石神社へ。中国の兵馬俑のような四十七士のコンクリート像が暑い夏の陽を浴びて並んでいた。
 時間があるのともうちょっと旅行気分を味わいたいという理由で大回りで帰ることにしました。姫路駅で駅員にルートを告げ、そういうことが可能か訊ねると「お勧めするという訳にはいかないですが、可能ですよ。ただし、途中で検札が来たら正規料金を払ってください」とのこと。姫路駅で播但線に乗り換えました。真北に向かう2両編成の竹田行き電車です。生野銀山などのある山間を抜け、竹田でさらに乗り換え和田山駅へ。車窓からの景色が変化し、旅行気分がわいてきました。ここでまた山陰本線に乗り換え、またまた福知山でいったん降り、福知山線と宝塚線で尼崎へ。このルートは時間がかかりました。古内あたりで日が暮れ、尼崎に着いた頃はすっかり夜でした。尼崎から三宮を経てわが家に着いたのが8時過ぎ。赤穂駅からそのまま三宮へ戻ると1時間ちょっとですが、7時間くらいの大回りでした。ちょっとくたびれました。旅行気分はまあまあ味わったのはいいのですが、この大回りの難点は途中下車できないことです。帰宅してからインターネットを見ると、大回りというのはそれなりに流行っているらしい。ま、世の中にはわれわれのように時間を持て余している人がいるということですね。

■9月20日(金)/HIROSカレー出張調理/野中家、京都八瀬/参加:野中夫妻+大西由希子+薮久美子
 バリ舞踊の大西さんから「HIROSカレー食べたい。京都の野中家で出張調理タノム」とのメール。野中家は京都市内とはいえ交通の不便な山間地の八瀬です。当然、その日は野中宅に宿泊でした。
 迎えにきていただいた国際会館駅近くのJAで買い物をして、野中到着と同時に調理開始。カレーの他に刺身サラダとナムルを作りました。テーブルに料理が並べられた頃、大西さんから誘われた薮さんが到着。薮さんというのは作曲家野村誠さんの配偶者です。一番若い藪さんの話がなかなかに面白く、ディナーのほぼ主役でした。驚いたのは、藪さんが東京で小鼓を習っていたこと、そして、なんと師匠が仙波清彦さんだったことです。エイジアン・ファンタジーなどで一時はよく一緒に飲んだ仙波さんとは久しくお会いしていませんが、思わぬところで話題になったのでした。

■9月24日(火)/佛教大学講義-1/佛教大学、京都
 後期からジュギョーをすることになった佛教大学へ初めて行きました。わがお坊さんバンド七聲会のメンバーはほぼ全員この大学の卒業生なので、なんとなく親しみがあります。
 北大路から西へ歩き大徳寺経由で紫野のキャンパスへ。数階建ての建物が密集したこじんまりとした大学です。講師控え室で、教室や図書館の場所や利用法、チョーク入れの場所(佛大では教室の黒板用のチョークが常備されず、教師が授業のたびに持ち込む)、連絡ボックス、教室の音響・映像機器の使い方と必要なケーブル類の受け渡し、出勤簿の捺印方法などなどを教えてもらい、教室へ。教室は4階の小さな部屋です。受講生登録は14名。大谷大学の130名とは大違いです。というわけで、後期は月曜日に大谷大学でジュギョーした後、山科の先輩宅に1泊し、火曜日に佛大でジュギョーという、前期と同じリズムになります。
 関係ありませんが佛大への途中ということで大徳寺へたびたび行くようになりました。で、門前の土産物屋で大徳寺納豆を購入するのがルーティーン化しそうです。豆豉に似たかなりしょっぱい大徳寺納豆にはまっているのです。

■9月27日(金)/ア・ラ・メール芋煮会/CAP CLUB Q2、神戸/HIROS:芋煮調理
 今シーズン初めての芋煮会です。当初は数名の参加予定だったものが最終的に24人になり、用意してあった里芋が足りなくなったため芋の少ない芋煮になってしまいました。久田さん『感謝の集い』で知り合った山形出身の武田良彦さん(神戸新聞読者室長)、六甲ミーツ・アートの高見沢さん、臺丸さん、一葉さんなども見えました。

■9月28日(土)/短足麻雀
■10月3日(木)/くらいんのつぼ/CAP CLUB Q2、神戸/久田舜一郎:小鼓、石上和也:ラップトップ、山本公成:アルトサックス、中島直樹:コントラバス、福西哲唯:ラップトップ、奈良裕之:太鼓、HIROS:バーンスリー、辛恩珠+越久豊子+小谷ちず+水野永子+ミナル+レナート・レオン+角正之:ダンス/入場料:2000円/連絡先:SUMISHダンスワークラボ090-3622-1625、078-222-1003(CAP)/飛び入りライブ:Breath
 スミ語を駆使する角さんの企画。Q2スペースのほぼ全域で即興の音楽と舞踊が繰り広げられ、周囲を取り囲んだ観客が見たり聴いたりするというもの。角さんによれば視聴覚対象の拡散が狙いだという。けっこう平均年齢の高いミュージシャンたちがかなり怪しい。観客が楽しんだかどうかは分かりませんが、やっているわれわれは久しぶりにアクト・コウベ的混沌を楽しみました。
 この日はオーストラリアを本拠とするBreathというバンドが前座のように演奏。コントラバスのバール・フィリップスの友人であるオーストラリア女性尺八奏者アン・ノーマンがたまたま日本に来ていて神戸での公演場所を探していたので、急遽演奏してもらったというわけです。かつて神戸に住み尺八を習ったというアンと、讃岐出身のディドゥリドー奏者のサンシ、恐るべきテクニックで口パーカッション(Beatboxerというらしい)を披露したレオというトリオの演奏はとてもよかった。

■10月11日(金)/Ann女史夫妻京都案内/二条陣屋、知恩院他
 2008年の七聲会UKツアー時以来「わたし、あなたがたの追っかけなのよ」というアンさんが、2009年に引き続き、夫の生化学者イアンと京都へ来られるというので京都案内をしました。毎週ガッコに通っているとはいえ、京都はワダスもまったく不案内です。アンが計画した二条陣屋および二条城の見物にただただくっついて歩くだけでした。二人とも1942年生まれの71歳ですが、よく歩く。
 二条陣屋は、江戸時代の大名が泊まる宿屋で、警護の武士が隠れる仕掛けや防火の工夫、能舞台まである大きな屋敷。60代の、どこか地方公務員を思い起させるオッサンの早口でいくぶん自嘲気味の説明をしどろもどろに通訳していると、アンが英文パンフレットを指差して「それ、みんなここに書いてあることばかりよ」という。帰国後のメールに「二条陣屋はよかった」とあったので彼らはこの見学に満足したようです。50分の見学でけっこうくたびれましたが、アンは「次は二条城よ」と観光意欲に衰えを見せない。二条城もワダスは初めてでそれなりに楽しめましたが、なにしろずっと歩きづめ。ふだんはほとんど運動しないのでかなりきつい。
 近くのパスタ屋で生ビールとパスタのランチ。イアンは「あー、生き返った」と続けざまに生ビールを2杯飲む。
 地下鉄で東山へ行き、駅から歩いて知恩院へ。七聲会の南忠信さんがわれわれを待っていました。狩野信政の見事な襖絵のある将軍の間でお茶をごちそうになって周囲を見回していると、南さんがごつい一眼レフカメラをバッグから取り出して「じゃあ記念写真」とわれわれを撮影。知恩院の奥深い静かな一室とお坊さんの構えるカメラの構図に思わず笑いをこらえたのでありました。
 改修工事中の御影堂を眺めつつ円山公園へ行き、蕎麦屋でコーヒーを飲んで二人のこれまでの人生について根掘り葉掘り訊ねました。と、南さんから電話。
「6時半に東大路新橋西入ルの<ゆやま>というところを予約してます。そこで」。
 アンとイアンが来京することを七聲会のメンバーに伝えていたので、前回そうだっように歓迎宴会を提案していたのでしたが、みんなの都合がつかず結局、南さんお一人とわれわれの宴会になりました。京会席風の料理と日本酒がなかなかで、南さんの仏教観などを拝聴したアンたちも大満足してました。南さんにはいつもごちそうになり恐縮しています。
 ほろ酔い状態でタクシーに乗り、彼らを五条の旅館に送り届けて京都駅から帰宅しました。

■10月13日(日)/India Mela/ハーバーランド、神戸/高根忠司:タブラー、Mukesh Khemaney:カホン、HIROS:バーンスリー
 カホンを演奏する大阪弁バリバリのインド人ムケーシュが主催者に知らせたわれわれバンドの名前がWe are the world。なんという命名。ということで、メリケンパーク会場の仮設テントの控え室入り口にもそう書かれていたり、スタッフにはいちいち「ウィーアーザワールドさんの出番は3時から・・・」などといわれるはめになりました。
 今年で3回目となるインディア・メーラーでした。インド食品関係のブースは、呼び込みの声や人々の話し声で熱気がありましたが、大音響の特設ステージ前の客席は空席が目立ちました。海沿いからバーンスリーやタブラーの音が聞こえたので行ってみると、池田さん、タブラーの上坂君、バイオリンの脇田君が練習していました。彼らは村上幸子さんグループのオリッスィー舞踊の伴奏楽団です。テント控え室にも知り合いのインド音楽関係者だらけ。シタールの南沢さん、パカーワジの金子さん、タブラーのチントゥとバナーラスからだというシタール奏者のサンニャル、ドゥルパドの鈴木なおちゃん、シタールの石濱君など。舞台からは、シタールの岩下洋平君、バーンスリーのグミ君、タブラーのバヤン君たちの演奏が聞こえてくる。
 ドゥルパドのなおちゃんが終わると、われわれは即座に舞台に上がりセッティング。マイクチェックやらなんやらを5分ですませてすぐ演奏開始でした。出し物は前回同様、最上川舟唄とベンガルの舟歌。途中、猛烈な風が舞台を襲い、背後のテント地がめくり上がり仮設のパイプがむき出しになりました。バーンスリーの音は風に吹き消されたのでワダスは二人のパーカッションの応酬を聴くだけ。バーンスリーに風は大敵なんです。
 
■10月13日(日)17:00~/HIROSさんと象さんのゆうぐれコンサート/えとふたまわりてん(東野健一24年目展)/CAP STUDIO Y3、神戸/
 メリケンパークの演奏を終えてすぐにタクシーでY3へ。普段はものすごくヒマだというのにこの日に限ってダブル・ヘッダーの演奏でした。そういうのんを、貧乏人の飯重ねいうんや、と宝地院住職だったの故中川浩安上人から教わった事があります。貧乏人に限って同じ日に食事の招待が重なるという意味です。
 このコンサートは、インドの紙芝居ポトを始めて24年目を迎えた東野健一さんの個展の出し物の一つとして依頼されたものでした。象さんというのは、ガムランを始めとしてさまざまな打楽器を演奏する岩本象一さんです。彼に最初に会ったのはジョクジャカルタでした。彼は当時現地の芸術大学に留学していたのです。実家は神戸ですが、今住んでいるのは岡山です。場所はY3の3階にあるオープンスペース。
 プログラムは、最上川舟唄、ラーガ・バイラヴィーのアーラープ、インドネシアの2曲、ベンガルの民謡。
 象君の意表をついた提案で最後に秋田民謡のドンパン節をやることにしました。普通の秋田の歌詞に続けて次のように歌うということにしました。
 ポトはインドの紙芝居 くるくる紙で話する サンタル族の物語 神様だらけでにぎやかだ
 東野健一いい男 神戸生まれのいい男 話よし絵もよし姿よし なんだかんだとふた周り
 ドンパン節というのは一節が短く明るい民謡ですが、いくらでも歌詞を付け加えることができます。最後は聴衆も踊りだして盛り上がった事はいうまでもありません。象君のご両親や高濱さんのお母さんも見えてました。 
 
■10月17日(木)/十三夜の宴/岡本寺、奈良/久田舜一郎:大倉流小鼓、HIROS:バーンスリー
 7月に久田さんの『古希を祝う会』で久しぶりにお会いした明日香村、岡本寺の柏井貴理子さんが、久田さんとワダスのにわかセッションを見て「今度の十三夜にぜひ」ということで演奏しました。岡本寺で演奏するのは3回目です。98年の最初の時は薩摩琵琶の金寄英泰さん、バラタナーティアのダヤ・トミコさんと一緒でした。そして2002年には、佐久間新+ウィヤンタリのジャワ舞踊と。そのときには久田さんも飛び入り参加したので、久田HIROSコンビは2回目ということになります。
 小鼓とバーンスリーでセッションというのは悩ましい。能の囃子方の久田さんに小鼓をタブラーのようにやっていただくことはほぼ不可能だし、バーンスリーを能管のように吹くのもほぼ不可能なので、無理に接点を考えることにあまり意味がない。どうするか。当日お手伝いに来ていた高木孟さんによれば、互いを意識せずにただ単にそれぞれが別のことをやった最後の「セッション」がよかったということなので、なあーんも打ち合わせもせずにやるのがベストということかもしれません。
 それにしても小鼓とかけ声のもつ存在感は大きいものです。バーンスリーの音は場の空気を柔らかく包み込むような感じですが、小鼓は一打で空気をぎゅっと凝縮させる。
 たくさんの種類の精進料理と日本酒がおいしかったなあ。ただ、熱を出して臥せっているというご住職の快英ちゃんのお顔を見れず残念でした。
 帰りは広田夫妻の年代物ゴルフで神戸まで送ってもらいらくちんでありました。

===この間に読んだ本===

『昨日までの世界』上下(ジャレド・ダイアモンド/倉骨彰訳、日本経済新聞社、2013)
『修行論』(内田樹、光文社新書、2013)
『日本音楽の性格』(吉川英史、音楽之友社、1979)
『ミレニアム1』『ミレニアム2』『ミレニアム3』各上下全6冊/再読(スティーグ・ラーソン/ヘレンハルメ美穂+岩澤雅利、ハヤカワ文庫、2011)
『脳のなかの天使』(V.S.ラマチャンドラン/山下篤子訳、角川書店、2013)
『アフリカ 苦悩する大陸』(ロバート・ゲスト/伊藤真訳、東洋経済新聞社、2008)
『カウントダウン・メルトダウン』上下(船橋洋一、文藝春秋、2012)
『神の起源』上下(J.T.ブラナン/棚橋志行訳、ソフトバンク文庫、2013)
『代替医療解剖』(サイモン・シン+エツァート・エルンスト/青木薫訳、新潮文庫、2013)
『永遠の〇』(百田尚樹、講談社文庫、2009)
『やわらかな生命』(福岡伸一、文藝春秋、2013)
『小さなおうち』(中島京子、文藝春秋、2010)
『色彩を持たない田崎つくると、彼の巡礼の年』(村上春樹、文芸春秋、2013)
『(株)貧困大国アメリカ』(堤未果、岩波新書、2013)
『明治の音』(内藤高、中公新書、2005)
『下町ロケット』(池井戸潤、小学館、2010)

===これからの出来事===

■11月1日(金)/十夜法要/百万遍知恩寺、京都/室優哉:タブラー、HIROS:バーンスリー
 昨年に引き続き百万遍の法要で演奏します。その日は境内で古書市も開かれるので、お時間のおありの方はぜひいらして下さい。

■11月16日(土)/CAP音楽祭「CAP音泉」/CAP CLUB Q2、神戸/出演/上坂朋也+大橋一慶+中尾幸介+藤澤バヤン+松本晃祐+室優哉:タブラー、祝丸:和太鼓、ふいごっち(金子鉄心+藤沢祥衣):アコーデオンなど、Q2ペリカンズ(シモダノブヒサ+宮本玲+丁友美子+岩本象一)、石上和也:ノイズ、小島剛:コンピュータ、児嶋佐織:テルミン、Haco:声、HIROS:企画・構成
詳しくは
http://www.cap-kobe.com/club_q2/2013/10/04114425.html#more
 CAPの下田さんが「なあーんかやりたいよねえ」と我が家を訪ねてきてなんとなくまとまったコンサートです。関西の30代前後のタブラー奏者6人を接着剤とした異種格闘技的ほんわか音楽祭。5時から10時までの5時間、Q2は怪しげな音の湯気がゆらめきます。

■12月13日(金)/短足忘年会/鴻華園、神戸/出席予定:植松奎二+渡辺信子、榎忠、岡田淳+由起子、幸田庄二、杉岡真紀子、曽我了二、塚脇淳、中川博志+久代、橋本健治+例子、林英雄、原田治朗、東仲一矩
 短足友の会というのは70年代から続く仲良し会。若いころはいろいろ一緒に遊びました。で、この会のキーパーソンの一人である磯本治昭さんが数年前に亡くなっていたことが最近になって判明したので彼の追悼も兼ねた忘年会をやることにしました。会のメンバーとはごくたまに集まるのですが、その度に磯本さんの消息が話題になっていたのです。大森一樹の映画「暗くなるまで待てない!」(1975)ではスタッフとして関係するほど映画の好きな、文字を別々の色のサインペンで書いた友の会の案内状がなつかしい、小市民的人生設計などということには無縁な人でした。震災後、仮設住宅に住んでいた磯本さんがいきなり我が家を訪ねてきてビールを飲んでいったのがわれわれの会った最後だったような気がします。数年前ということは亡くなったときの彼はまだ50代だったはずです。