めんこい通信2022年8月27日号

◉壊れる時代
  コロナ第7波で知り合いにも何人か感染者が出るほど流行しているにもかかわらず、政府はいまだに場当たり的対応しかできず、それでいて防衛費の増額が企まれ、法的根拠もなく政治バランスだけでアベ・コクソーが強行されそうで、さらに原発再稼働、増設の検討という嫌な雰囲気が漂い始め、ウクライナ戦争は膠着状態となり、地球温暖化の影響がじわじわと忍び寄り世界各地で被害が発生し、テレビやネットでは毎日どこかで政治家とトーイツキョーカイとの関わりが報じられる、そんな日々が続いていますが、皆様いかがお過ごしですか。
 旧統一教会と関わった政治家たちの理由にもならない言い訳は実にわかりやすい見苦しさで、見ていて、ま、楽しい。どうも、今の日本は目の前の利害だけが最大関心事という人だらけに見えます。
 ほぼジョブレス・ミュージシャンとしては、こうした世界で起きているらしい出来事の影響は今のところ直接はないので、テレビやネットに接しながらレベルの低い田舎芝居を楽しむ日々なのでした。
 ところで、7月8日のアベ死がある種の引き金になったかのように、我が家のいろんなものが続けて壊れ、修理が必要になったり新しく購入せざるを得なる状況に突入したのでした。祟りのような気がする。

 第1弾--デスクアームライトの頭もげ。麻雀の時の照明も必要だということですぐにIKEAのアウトレットコーナーで2台購入。

 第2弾--電気ケトルが流し台から落下し電熱部カバー損傷。

 第3弾--舞台で使っていたBluetoothスピーカーのピン接続部がごそっと剥がれ落ちる。

 第4弾--電気温水器交換に関しては下記7月20日を参照してください。これが最も多額でした。

 第5弾--温水器の交換を決心した日、ヒンジ部分が壊れたせいか、シャワートイレのスイッチを押しても反応しなくなったので便座を交換。

 第6弾--iMacのHDDをSSDに交換。iMacの反応がものすごく遅くなり、なんの作業もできなくなっていた。

 第7弾--KEENサンダル・ベローン事件。

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===これまでの出来事===

◉5月26日(木)/景絵-見えない私が見る世界/神戸アイセンター

 昔「チケットあや」というミニコミ誌を不定期に発行していた古内綾子さんから「近くでセアまりさんの展覧会があるんですけど、いかがですか」というメールが入ったのでした。ヒマなワダスとしては、お誘いを断るわけにはいかない。というわけでものすごく久しぶりにアヤさんに会いに行ったのでした。場所はポートアイランドにある真新しくピッカピカの眼疾患専門病院の神戸アイセンターの受付に近い一角。  10点ほどあったセアまりさんの作品は、額縁の表面と奥がガラスの立体的な分厚い平面。奥のガラスにはぼんやりとした模様や不明確な線画、手前のガラスにも似たような模様があり、中にある照明によってとても不思議な雰囲気を出しているのでした。こうした映像は実際に彼女の「見えている」感じを表しているとのこと。というのはセアまりさんは50歳のころほとんど全盲になり、一般には「シャルル・ボネ症候群」という極めて稀な病気の持ち主なのでした。視覚情報を補うために脳が独自に像が作る、いわゆる幻視という症状で、普通の人には見えないが自分だけに「見えている」ものを味わって欲しいとこうした作品が生まれたとのこと。とても大人しい盲導犬を伴ったご本人は屈託なく若々しい。彼女はこうした作品ばかりでなく絵本を出版したり、フリーダイビングもやっていて実に活動的なのです。聞けばワダスと同い年とのこと。まったく、世の中にはいろんな人がいらっしゃるものです。

◉6月4日(土)/HIROSライブ/Musehouse、神戸/藤澤バヤン:タブラー、HIROS:バーンスリー
 去年の11月3日に続いてのライブでした。お客さんのほとんどは女性でしたが、思いがけない男性もいらっしゃいました。なんと同じマンションに住む長江昭一さん。建築家ですが、ケーナを吹き続けるミュージシャンマインドな人。他にも男性がいました。サーランギーの中川ユージ君でした。たまたま神戸に来ていたのでした。
 この日演奏したのはラーガ・キールヴァーニー。バヤン君との演奏も久しぶりでした。


◉6月8日(水)/短足麻雀/植松奎二、塚脇淳
 うーむ、久代さんはそれなりに頑張ったもののワダスはまったくつきから見放され大敗でした。スーパーヅカン。この日はシーフードカレー。

◉6月12日(日)/駒井家招待宴会

 クレジットカードのポイントが思いの外溜まっていたのでしゃぶしゃぶ用米沢牛を入手し、西明石の駒井夫婦と大ご馳走大会なのでした。ま、たまに牛肉もいいんでないかい。

◉6月14日(火)/大塚野菜配達/「森のムラブリ」元町映画館
 朝方、沖縄の島へ旅行に行くという大学の同窓生大塚さんが、空港へ行くついでに野菜を届けてくれたのでした。野菜、とくにに玉ねぎが値上がりしているのでありがたい。
 その日は街に出て「森のムラブリ」を見に行きました。タイとラオスの国境地帯のジャングルでいまだに狩猟採集生活を続けるムラブリ族の生活を描いたドキュメンタリー。特にドラマチックな展開はなく、淡々と彼らの生活が描かれるのですが、彼らの生活に興味を持ち話者人口が数百人という言葉を駆使した伊藤雄馬という日本人青年の絶妙の距離の取り方、彼らに対する接し方が面白い。ムラブリの少年が、それで会話ができるということは知らずに音楽が聞けるからという理由でスマホを持っていたのが印象的。忘れ難い印象の映画でした。

◉6月20日(月)/夫婦対抗麻雀/木村家 

◉7月8日(金)/安倍元総理銃撃/大和西大寺駅
 レンジフードの下でぼんやりとタバコを吸っていたら、ネットニュースにアベが拳銃のようなもので撃たれた、という記事が出て、ほほう、と思ってテレビをつけると、どのチャンネルも生々しい映像を繰り返し流し、ざわざわとした雰囲気が伝わってきたのでした。その後メディアはこの事件一辺倒になり、背景にはいろいろな事情があるらしいことはこれをお読みになっている方々もご存知のとおりです。ワダスら夫婦は普段からアベの顔を見るのが嫌で、その死に何かしらの哀悼のようなものを感じることはなかったのでした。この事件も関係したのか、2日後の参議院選挙では自民党が圧勝し、あっ、もうこの国はだめなんだとぶつぶつ呟くしかないのでした。
 で、ソファに横になって本を読もうとライトをつけようと角度を調整しようとしたら、突然ライトの首がもげてしまったのでした。どうも、これが我が家のモノ崩壊の前兆だったようです。

7月9日(土)/じっくりとラーガを歌ってみる#2 /Musehouse、神戸
  この日は、先月バーンスリーで演奏したラーガ・キールワーニーを歌ってみるというワークショップでした。参加者は、毎回懲りずに参加していただいているしのぶさんと池上純子さんのお二人でした。例によって「とり好」で二次会でした。

◉7月17日(日)/ワヤン「ビマの鬼退治」/エルモ西淀川/ダラン:梅田英春、ガムラン:ギータ・クンチャナ
 ギータ・クンチャナを主宰する飲み友達、エミーこと小林江美さんのお誘いで久しぶりに大阪まで足を運びました。梅田さんのダランが絶妙でもう一度聞きたいという願望もあったのでした。
 期待通り、巧妙にユーモア溢れるダランの語りは面白く、またギータ・クンチャナの伴奏も楽しみました。この日の出し物はインドの「マハー・バーラタ」の一部でしたが、インドでは味わうことができない独特の雰囲気でとても良かった。
 会場には、ハナジョスのローフィット、佐々木宏実さん夫妻、かつてのダルマブダヤの西田有里さんと夫のナナンさんなど、見知った人々と久しぶりに再会できました。
 受付でエミーに大阪音大の井口淳子さんを紹介されました。お名前はかねがね知っていましたが直接お会いするのは初めてでした。そのとき、なくてもともとでワダスのCD処分の話をしたら「受け入れ大丈夫ですよ」との話になり、我が家の片付けが一気に進むことになりました。帰宅後、さっそく寄贈するCDのリストを汗まみれになりながら数日かけて行ったのでした。というわけで、インド音楽を中心にした民族音楽関係のCD400枚余は大阪音大に引き取ってもらうことになりました。実は神戸大学にも同じ申し出をし断られていたのです。
 公演後、シワアセな気分で阪神福駅まで歩いたのですが、なんとなく歩きにくい。そのはずです。左のサンダルの接地面のソールがベロっと剥がれていたのです。ソールが完全に剥がれるのを防ぐため、膝を痛める老人のようにすり足で自宅まで帰ったのでした。そのまま処分も考えましたが、10年以上履いている愛着のあるKEENのサンダルなので、ダイエー横の修理屋で糊付けしてもらい、いまだに毎日履いています。修理の間、別のKEENのサンダルを履いていました。ところがこれもくるぶしの固定紐が外れしまい、長距離歩行は無理になりました。

◉7月18日(月)/夫婦対抗麻雀/中川宅

◉7月20日(水)/電気温水器交換

 古くなって壊れると階下への水漏れの恐れが高まる、とかねがね脅かされていた電気温水器をついに交換することにしました。水漏れ事故がしばしばあることは、我々がここに引っ越して以来ずっと言われていたのです。聞いてはいましたが、我々のところは大丈夫だろうと鷹を括っていました。しかし88年製造というすでに骨董的代物。「いま、古いものを取り換えるために各戸に問い合わせをしています。10戸まとまれば1万円安くします」と業者が申し述べた数日後「10戸まとまりました」の連絡。「安くする」に抵抗は難しく、ついに交換を決心したのでした。しかし、25万円。ほとんどシューニューのない中川家には大出費ですが、交換の潮時かなという判断。この日、高さが2mほどあるごつい温水器がソファの背中の収容スペースに収まりました。

◉7月18日(月)夫婦対抗麻雀/中川宅
 同じマンションに住む木村夫妻との月例麻雀です。

◉7月26日(火)/定期健康診断/健康ライフプラザ、兵庫
 数年前に受けたきり神戸市からの健康診断の案内は無視してきたのですが、ヒマだし、タダだし、ま、いいか、という気分で兵庫駅前の健康ライフプラザで診断を受けました。
 水だけ飲んで早朝8時に行くとすでに受診者が列をなしていました。受診服に着替えるとすぐに開始です。女性係員の誘導でまるで流れ作業のように遅滞なく診断が進む。
 途中の医師の問診では不機嫌そうな中年医師が数年前のデータを見つつ申し述べる。
「あなたは立派な糖尿病ですよ。前回は病院へ行きましたか」「ええ、行ったように思います」「なんと言われた」「覚えていない」「治療はしたのか」「いえ、生活習慣を変えろとは言われましたが」。
  医師は恫喝めいた声色と表情で畳み掛けるように申し述べる。この日の結果はまだ出ていないのに、こんなに叱られるとは思ってもいなかった。ですが、今回の検査のデータは前回よりはずっとよくなり、ビョウキではなくその一歩手前だということが判明したのでした。肺がん、前立腺がんもなし。
 ただ、タバコのせいかCOPD(肺気腫や慢性気管支炎も合わせた、慢性閉塞性肺疾患)の傾向ありとのこと。後日、データを手にマンション1階のクリニックへ行くと、若い兄ちゃん風の医者が「吸引薬を処方しますので1日1回吸引してください」と言われてしまった。COPDは加齢によって悪化するだけで完全治癒は難しく、吸引薬はひどくなるのを遅らせる効果しかないらしい。
 もうどんどん年寄りっぽくなりつつあることを自覚した1日でありました。

◉7月30日(土)/カレー制作
 翌日のAKJ披露宴のため、約40人分のカレーを海外移住と文化の交流センター5階のキッチンで仕込みました。昔はこの建物でよくカレーを作りましたが、今回は実に久しぶりでした。
 助手は買い物までやってもらったTOMOさんこと杉山知子さん。そして包丁やお玉、炊飯器などの調理道具を無償で提供してくれた川崎義博殿のおかげもあり、実にスムーズに行ったのでした。
 そのTOMOさんは、息子のソウタくんちのおめでたで、7番目の孫ができたと翌日の本番は欠席でした。

◉7月31日(日)14:00~20:00/AKJ披露宴/海外移住と文化の交流センター5階講堂、神戸/出演/稲見淳、岩淵拓郎、ウィヤンタリ、江崎将史、川崎義博、C.A.P. (山下和也+柴山水咲+山村祥子)、佐久間新、下田展久、吉田ひろみ、角正之、中川真、Hiros、松原臨(sax
 3月20日のアクト・コウベ・トークセッションの打ち上げでやることになった披露宴でした。  披露宴とはアクト・コウベ(以下AK)のメンバーがそれぞれの家に集まりそれぞれの分野を披露する目的で始めたもの。一般的な有料公演と違い、ギャラは当然ゼロ、パフォーマンスで参加するものも、それを見るものもお金を出し合って行うイベントです。
 モニターには日仏で繰り広げられたかつてのAK活動のビデオ、2017年1月に70歳で亡くなった東野健一さんのビデオが流れ、キッチンでは飯炊き担当の森信子さんとときどきワダスがカレー、味噌まんじゅう、その横で角さんが本格的コーヒーを販売する中、長時間セッションが始まる。
 パフォーマンスを出演順に以下、書いておきます。
 1.AKジャパン元代表HIROS挨拶
 2.HIROSによるバーンスリー・ソロ、最上川舟唄即興曲
 3.吉田ひろみソロパフォーマンス  
 今や農業従事者となった旧姓白井ひろみさんの動きは少ないが存在感のあるパフォーマンスでした。
 4.松原臨(sax)+石上和也(コンピュータ)
 路上生活者的雰囲気を漂わす松原氏は、AK運動のきっかけとなったコントラバス奏者バール・フィリップスを神戸市役所に連れてきてくれた音楽家。ノイズミュージック分野では知る人ぞ知る石上さんとのパフォーマンスは、それぞれの年季が感じられ、とても良かった。

 5.佐久間新+ウィヤンタリ  
 二人ともジャワ古典舞踊家ですが、この日は即興舞踊を披露。
 6.岩淵拓郎の朗読
 彼が最近出版した『なんだこれ?!のつくりかた 』の一部を朗読。1999年に最初にフランスに行った時は26歳と最若手のメンバーだった。その彼も今や49歳です。
 7.正直者@Idiot(角正之+川崎義博+稲見淳)  
 川崎+稲見の大爆音を聞きつつ、角さんの即興舞踊。メッセージの書かれた小さな紙切れを時々口に入れ、何やら呟きつつの角流の動きでした。かつての強烈シンセサイザー青年、稲見さんも今や立派な農業従事者。久しぶりでした。やや後頭部が薄くなるも狂気を孕んだような音は健在でした。
 8.中川真の「AK音頭」盆踊り指導  
 たまごこと中川真さんはAKのメンバーではないのですが、「ガムランを救え」運動の主宰者でAKと何かと交流があり、3月のトークセッションの時はモデレーターをしてもらったのでした。今回は「盆踊りやりたい。歌詞は3番まで考えた。HIROSさん、作曲して」と1週間前に連絡あり。音頭作曲家HIROSは翌日には作曲完了。
 真さんは和太鼓を持ち込み、自作の20番までもある「AK音頭」を指導。振り付けをウィヤンタリに頼みいきなりみんなで踊る。バックバンドは、下田展久のギター、Q2ペリカンズの宮本玲のバイオリン、HIROSのバーンスリーでした。なかなかに楽しいので来年もできたらいいなあ。
 9.破墨:山下和也(日本画・破墨)+柴山水咲+山村祥子  
 3人はCAPのメンバー。3人のうちの一人が演台に立ち、あるキーワードの書かれたカードを観客の一人に引いてもらう。その観客は書かれたキーワードに従って無言でパフォーマンスをするというなかなか面白い趣向。ワダスも当てられました。引いたカードはたしか「キッチン、歩く」。というわけでワダスはキッチンへ向かって歩き再び中央に戻ってきて、次の候補者を指名します。その間、二人が透明な衝立に何かを書く。観客にはキーワードの内容が不明なので推測するしかない。
 10.江崎将史(音小さめパフォーマンス)  
 江崎さんもAKではなく、トランペットを使った即興演奏で知られた人ですが、この日はちょっと不思議なパフォーマンスを披露。
  まず炭酸水を注いだトレーを数カ所に配置。プチプチというかすかな音を聞く。ついで薄いビニール袋をすぼませそこにスプレーで水素か窒素のような空気より軽い気体を注入する。袋はふわっと浮上し天井に「着地」し揺れる様子を観客がじっと見つめる。緊張感と遊びがあってなかなか良かった。
 11.下田展久とQ2ペリカンズ(下田展久:ギター、歌/岩本象一:パーカッション/宮本玲:バイオリン/丁友美子:歌、クラリネット、リコーダー)
 全員集まるのは3年ぶりという下田展久バンドの演奏でした。下田さんが途中のMCで「なあーんか、すごく普通ですよね」と苦笑い。これまでの「普通」ではないパフォーマンスに比べると確かにとても「普通」ですが、何かほっとする普通のバンドの演奏はいつもながら心地よい。子供が出来ちゃったという丁(よろ)さんの「ナイチンゲール」にはグッときました。
 12.全員でのコレクティブ  
 AKパフォーマンスの代名詞といえるルールなしのセッション。最後はそれなりにまとまり快い大団円になったのでした。AKコレクティブはいつも楽しい。
 こうして2時から8時までの長時間セッションが終了し、最後は全員で記念撮影。全くゼニはならない披露宴ですが、年に1回くらいやってもいいなと感じたのでした。

 

◉8月4日(木)/第4回ワクチン接種
◉8月22日(月)/夫婦対抗麻雀/木村家

===この間に読んだ本===
(*読んで損はない、**けっこういけてる、***とてもよい)

◉『見せびらかすイルカ、おいしそうなアリ』』*((パット・センソン/田村源二訳、飛鳥新社、2011)
いろいろな生き物の生き延びる方法としてとられる生態は人間から見ればかなりへんちくりんだが、少なくともこれまで生き延びてきたということはそれが合理的だったということかな。ま、生物学というよりトリビアに近い読み物でした。

◉『ニッポンの音楽批評150年・100冊』』*(大谷能生+栗原裕一郎、立春舎、2021)
 音楽雑誌や書籍を通して明治から今日までの音楽事情を概観し、音楽における批評の役割とは何か、日本で音楽批評はどう生まれどう死んでいったかを軽い文体で綴った本。最後の第5章は共通に語られることがないほど拡散してしまった今日の音楽状況についての焦点が定まらないままの対談で締め括られている。

◉『歌うカタツムリ』*(千葉聡、岩波書店、2017)
 環境適応による自然選択なのか、突発的な遺伝子の変異なのか。カタツムリの進化に関する議論の流れが面白い。同じ種がいつどのように何故分化していくのかを調べるのに適したカタツムリは世界中どこにでもいて、捕まえやすいし、実験対象として実に都合の良い生物のようだ。

◉『夢を見ているとき脳は』*(アントニオ・ザドラ+ロバート・スティックゴールド/藤井留美訳、紀伊国屋書店、2021)
 夢の科学的研究は進んでいるという。誰でも夢を見るが主観的なので、できることは周辺情報と類推だけのようだ。この本で夢は「睡眠に依存する記憶処理の一形式」というモデルを紹介している。夢を見ていることを意識する夢は明晰夢というらしいが、では意識している主体はいったい誰なんだろう。夢の中では本人が奇妙な体験をするけど、ではその本人を意識する本人というのは? 訓練すれば明晰夢を見れるようになるらしい。まあまあ面白い本でした。

◉『ラマヌジャン探検』(黒川信重、岩波書店、2017)
 ラマヌジャンの名前に惹かれて借りてきたのでした。全編、全く理解不能のほぼ数式のみの薄い本でした。「数式」と名付け「数式」を挿入します。その上で「数式」が「数式」というオイラー積表示を「数式」と「数式」とし、2次式「数式」の判別式は「数式」です。よって「数式」・・・・という感じで、ページのほとんどが数式でその合間に接続詞が入る。というわけで一応最後まで眺めて読了。これって読了と言えるのか。

『ウサギ狩り人』**上下(ラーシュ・ケプレル/古賀紅美訳、扶桑社ミステリー、2021)
 故スティーグ・ラーソン『ミレニアム』に次ぐなかなかに面白いスエーデン犯罪ミステリー。読むのが止められず半徹夜で読了。

◉『動物になって生きてみた』***(チャールズ・フォスター/西田美緒子訳、河出書房新社、2017)
 アナグマのように森の穴倉にもぐり、カワウソのように川に身を沈め、狐のように都市のゴミ箱を漁り、アカシカのように狩猟犬に追われ、アマツバメの飛翔と一生に思いを寄せる著者の、一般的な動物生態学の本とは違う、ユニークな体験と深い思索が印象的でした。

◉『オクトーバー・リスト』*(ジェフリー・ディーヴァー/土屋晃訳、文春文庫、2021)
「逆向きに語られる長編小説」ということだが、物語を追うのがちと面倒。

◉『自白』**上下*(ジョン・グリシャム/白石朗訳、新潮文庫、2010)
 アメリカの小さな街で起きた黒人青年の冤罪事件をめぐるサスペンス。グリシャムらしいなかなかの語り口で一気に読んでしまった。

◉『サピエンス異変』**(ヴァイヴァー・クリガン=リード/水谷淳+鍛原多恵子訳、飛鳥新社、2018)
 人新世に始まった人類の身体の変化に警鐘を鳴らす。学校教育は子供たちを長時間座らせる訓練だとか、元々動き回るようにできている我々の身体は、座ったきりで動かなくなることで様々な異変と障害が発生する。世界の医療費の85パーセントは「世界中の政府が運動不足と肥満に取り組む」ことで節約できるという著者の提言は説得力がある。

◉『狙われた楽園』**(ジョン・グリシャム/星野真里訳、中央公論社、2021)
グリシャムの法廷ものとは異なるミステリー。面白い。一気に読んでしまった。この本の前編もあるそうで、なんと村上春樹の翻訳だと。ぜひ読まなきゃ。

◉『性食考』(赤坂憲雄、岩波書店、2017)
  生殖と食、生と死などを民俗学的アプローチで考察したもの。生命誌、進化論、人類学、哲学などからの引用も多数あるが、全体にまとまりがない印象。印象に残ったのは、中村桂子の『生命誌とは何か』にある「生あるところに必ず死があるという常識は、私たちが二倍体細胞からできた多細胞だからです。本来、生には死は伴っていなかった。性との組み合わせで登場したのが死なのです」。

◉『騎士団長殺し』1、2**(村上春樹、2017、新潮社)
 最後まで一気に読ませるが、すごい文学作品を読んだという気分にはならなかった。人物であれなんであれ、絵を描くときの画家の観察や思考の流れの描写は素晴らしい。2部の中盤あたり、現実にはあり得ない漆黒の地下世界に降り入り口とは異なる地上の穴に戻るあたりから全体の構成が緩んでしまったような読後感でした。村上春樹の小説には音楽や料理などがよく出てくるけど、そのどれも日本ではなく欧米のもの。これって欧米の読者を意識しているのか、日本の伝統音楽、世俗音楽も、肉じゃがも寿司も嫌いなのだろうか。インド音楽をはじめとしたいわゆるワールド・ミュージックも一度も出てこない。彼の頭はオーベイ一辺倒なのか。

◉『半沢直樹 アルルカンと道化師』**(池井戸潤、講談社、2020)
 いわゆる半沢直樹シリーズ。私利私欲を優先する銀行員のせめぎ合いの末、まっとうで正しい銀行員である半沢直樹が最終的に彼らをやり込める。頭を休めるのにちょうど良い、軽く読める小説だが、それだけにストーリーはすぐに忘れそうだ。

◉『地球に住めなくなる日』**(デイビッド・ウォレス・ウェルズ/藤井留美訳、NHK出版、2020)
 なかなかに気が滅入る内容でした。今世界で起きている様々な現象や、科学者たちが集めた情報を総合すると、どうやら我々の環境は後戻りできないほどひどいことになっているらしい。科学者がどれだけ警告しようが、個人も社会も危機の迫っていることを知りつつもこれまでの日常を変えられない。資本主義の限界が見えているのに、いまだに「成長」を唱える政府や大企業の姿勢は変わらない。
  ま、72歳の我々にはせいぜい30年間の生存環境が持続すれば生涯を全うできるわけで、後は知ったこっちゃないと思わないわけではないが、これから生きていく若い人々を思うと気が気でない。本書末尾の「完全なる脱炭素化までに残された猶予は30年。それにまにあわないと、恐怖の気候崩壊が始まる。だが、これほど大規模な危機に対して、解決策はまだ道なかばですらない」が単なる警告に終わらないことを願うばかり。

◉『まなざしの地獄』(見田宗介、河出書房新社、2008)
 連続射殺事件で死刑になった永山則夫の社会的、個人的背景の分析から戦後日本社会の構造的な変化を読み解いていく。著者の短い論文「新しい望郷の歌」が併載された新書並みの本ですが、読み応えがあった。当時、田舎から上京する中卒の青年たちは「金の卵」と呼ばれていた。この言葉は、卵である青年たちに輝かしい金の未来があるという意味ではなく、卵の雇用主にとって金であっただけだという記述が印象的。

◉『不祥事』*(池井戸潤、実業之日本社、2014)
 箸休めの軽い小説でした。

◉『アキラとあきら』*(池井戸潤、徳間文庫、2017)
 箸休めにしては1000枚の小説は長いけど、一気に読んでしまった。とはいえ、こうした箸休め小説はやはり箸休めの役割でしかなく、読むことで何か新しい発見があるというよりも、ただただ時間を潰すことのような気がする。

◉『グレート・ギャツビーを追え』**(ジョン・グリシャム/村上春樹訳、中央公論社、2020)
 前掲のグリシャムの『狙われた楽園』の前編です。村上春樹の訳でとても読みやすい。箸休めの中編小説でした。
 厳重に保管された図書館からフィッツジェラルドの手書き原稿が盗まれる。犯人の一部はすぐに捕まるが、原稿そのものの行方が分からない。保険会社の依頼で、ある作家がそこにあるかもしれないと思われる書店のオーナーに近づき探っていく。手書き原稿、初版本などの稀覯本のマーケット、小説家が世に出るまでのプロセスといった話題が興味深い。

==これからの出来事==

◉8月28日(日)14:00~/ひろしま国際平和文化祭/アステールプラザ広島中ホール、広島市/出演:外川セツ:マニプリ舞踊、野中ミキ: オリッスィー、中尾幸介:タブラー、HIROS:バーンスリー

◉9月10日(土)18:00~/じっくりとラーガを歌ってみる#3/Musehouse、神戸/ HIROS: プレゼンター/ご予約・お問い合わせ:info@musehouse.ne