2015年12月11日(金) 台中3日間滞在よれよれ日記
7時に起床。備え付けのインスタントコーヒー2杯飲み、エレベーターで1階に降り外に出てタバコを吸う。ホテル全体が禁煙なので、タバコを吸うためにはいちいちこうしなければならないのだ。外はわずかに涼しいが、天気は快晴。
8時30分にエミリーとシンちゃんが迎えに来た。会場近くの茶店での朝食をとることになっていた。ホテルからは昨晩見えた先端が三角錐の高層ビルが見えていたので会場までは歩ける距離だった。
茶店で朝食後、会場へ
遊歩道のある商店街の端にあった茶店の2階で朝食。ワダスは激辛炸醤麺、角、東野、白井はおかゆ定食。炸醤麺は、ま、普通の味だった。
われわれが食べていると、ドリス、車を駐車場に入れてきたシンちゃん、エミリー、チェン(以下一休さん)、フェイフェイなども加わった。定食を食べ終わるころ大根もちとシュウマイも出てきたのでそれも食べた。かなりがっつりの朝食でお腹いっぱいだ。
朝食を終えて遊歩道の一角にあるパフォーマンスの会場をチェックした。控え室のあるビルの対面に、出来上がっていたはずのFantasy Kidsの看板が見えた。その入り口から地下に降りると施設に通じる予定なのだ。
東野は周辺をあちこち移動して声の通りのよい場所を探していた。
待機所で準備
待機所で明日のワークショップ用の竹のトゥンガトンを見せてもらった。おおむね注文通りのサイズで数も十分だが、長さの調整が必要だった。6本1セットで4組作成し、それぞれの組に黒いテープでマーキングをした。ついでにカリンガ族の演奏方法をスタッフに指導した。英語のできる若い女性スタッフのジェニンダがすぐに飲み込んだので明日の指導助手に任命。
角は床で柔軟準備体操を始めた。それを見ていた白井がいう。
「それって、毎日するんですよね」
「おおう、そうだよお。こうやってボディーを慣らす。でないと意思とボディーのリレーションができない。こうやって徐々にパフォーマンスのフォーカシングしていくのよね」
シンちゃんと一休さんがアンプつきスピーカーセットを持ってきた。
「これ、昨日買ったんです。これで大丈夫ですよね」
入力がマイク1本とCDプレーしかない。スピーカー背面のアンプには、iPodの音源を入力するチャンネルがないのを確認したワダスは、「うーむ、どうかな」と否定的に申し述べた。
これにエミリーは「これは最新式ですよ。問題ないと思いますが」と対応した。最新式かどうかの問題ではないんだけどなあ。
一休さんやドリスがあれこれいじっているうちに、ドローン用のiPodはブルートゥースで接続できることが分かった。とはいえ、本番でどうなるのかちと不安だ。
遊歩道の会場へスピーカーを持ち出して試してみた。バーンスリーの歌口に近い端にワイヤレスマイクのクリップを挟んで音を出したら、まあまあちゃんと拡声されることは分かった。とはいえ、遊歩道にはときおり強い風が吹き通るのでバーンスリーの音がかすれてしまうのが問題だ。
路上公演第1回目
そうこうしているうちに本番の2時になった。晴れているがときおり強い風が通りを吹き抜ける。
ドリスがマイクをもって開始を告げた。客席には3組の親子連れが椅子に座っていた。その周辺に選任カメラマン3名も含め10人ほどのスタッフが取り巻く。かなり寂しい状況だが、やるっきゃない。
ドリスの後にランが登場しわれわれを紹介した。それに応えて東野がわれわれを代表して挨拶し、われわれの最初のパフォーマンスが始まった。
まず、ワダスの祖谷の民謡と最上川舟唄。そこへ白井のパフォーマンスが加わる。客席の子供に顔をぐっと近づけたり、スペース内を狂言の仕草で歩く。さらに角がじわっと中央に進みそこでダンス。子供達は何が起きたのかというように見る。
角の後は東野さんの紙芝居「頭山」。例によって子供達のつかみがいい。通訳として、1年ほど亀岡の大学で日本語を習ったという台北からの青年呉さんがついていたが、東野の語りが理解できなかったのか、単に見ているだけだった。
本来なら2時間弱の予定だったが1時間でわれわれの第1回目のパフォーマンスを終わらせた。
「こんなんでいいのかねえ」などと話しながらわれわれは待機所に戻った。
路上公演第2回目
そうこうしているうちに次のステージ出番の4時になった。
客はほとんどいないし、風もさきほどよりも強い。それに夕闇で薄暗くなり肌寒い。さらに商店街のBGMがいろんな方角から聞こえてくる。
今度の出番はワダスと角。念のためスピーカーのチェックをしてみた。iPodがブルートゥース経由では繋がらない。iPodをスピーカーに直に置くと繋がった。ところが、バーンスリーを吹くとiPodからのドローンが消えてしまう。さらには途中でバーンスリーの音もスピーカーから聞こえてこなくなった。一休さんやエミリー、ドリスがスピーカー周辺をいろいろいじっているのだが一向に改善しない。ドリスが申し訳なさそうに言った。
「バッテリー切れです。今、電源につなぐよう手配してます」
彼らの修復作業を待っている間、ランがワダスにこう言って姿を消した。
「申し訳ないけど、歯医者に行く約束なのよ。虫歯なの。あなたの演奏を聴けないのは残念だわ」
うーむ。彼女は主催側の責任者だ。どうも彼女にとってわれわれの存在は、われわれが何をするかではなく、わざわざ外国から招待した「芸術家」のプレゼンスだけに意味があるとしか思えない。
屋内へ移動
スピーカーがようやく息を吹き返し、ドリスが数少ない客席に向かってアナウンスを始めた。しかし、あまりに条件が悪い。ワダスは控室に使っている2階でやろうと提案した。スタッフたちが大忙しで会場を整えた。お客さんは10名ほどだろうか。
チベット仏教で使う小さなベルを鳴らし、黒い布で目を覆った角が登場し動き始める。ワダスは壁際の敷物に座り瞑目して座った。角がワダスの近くに来た。ワダスの持参したスピーカにiPodをつなぎドローンを流し、Raga Multaniのアーラープを演奏し始めた。演奏の間、角が踊る。45分くらいの長いアーラープを終えて終了。
これで今日のわれわれの仕事も終わった。渡航前に予想していたとはいえ、われわれには満足したパフォーマンスとはとても言えない。東野は「まあ、しゃーないな。こんなもんやろ。はははは」と申し述べる。
街の食堂
ホテルに帰ってすぐさま町の食堂に移動。高いビルの少ないごちゃごちゃした通りにあった。通りに面して揚げ物などの食品を売っている。ガラス越しに調理人たちが動き回るのが見えた。
われわれは奥の丸テーブルに座った。エミリーが勝手に冷蔵庫から出してきたビールとお茶で乾杯。ラン、フェイフェイ、一休さん、シンちゃん、もう一人青年シンジが加わった。カキフライ、蒸しレモンフィッシュ、麻婆豆腐、地元野菜の炒め、焼き飯、牛スープ、ゴーヤ炒めなどなどがテーブルに並んだ。どれもとてもおいしい。
東野は野菜をちょっとつまむだけだ。あまり食が進まないようだ。
シンちゃんとエミリー | フェイフェイとラン |
東野さんと白井さん | 奥がチェン、手前が角さん |
ラン、シンちゃん、エミリー | エミリー、シンジ、チェン |
「胃の痛みを感じてからあまり食べてへんねん。見た目はそんなではないけど、これで6キロくらい体重落ちたんよ」
角は、今日体を動かしたからか、昨日よりもよくしゃべる。白井はずっと落ち着いた表情で隣のエミリーと喋っていた。ワダスは、相変わらず膨満感はあるものの、けっこうな量を食べた。
食事が終わり、白井が「台湾の有機野菜を見たいのでどこかスーパーへ行きたい」というので、ランは自分の車で彼女を連れて行った。角、東野、ワダスの60代おっさんトリオは、エミリーとシンちゃんの車でホテルに戻った。
夜の台中を散歩する3人のオッサン
まだ8時前なので、3人で台中の目抜通り散歩。SOGOなどの大商店、高層のホテルや商業ビルを眺めつつ歩く。
途中に仏教と道教が混ざったお社があった。100元の模造札束を見た東野が「これ、おもろいなあ。なんか作品にできそうだ」と言って代金の入れ場所を探したが、見当たらない。そこへ偶然現れたおっさんに聞くと本尊を祀った社の正面の賽銭箱を指差した。
「結構歩いてるよね。ちょっとしんどおい。休みませんか」
膝の故障から回復したばかりの角が申し述べたので、途中のスターバックスで一服しホテルに戻った。9時30分だった。
ベッドに入ってリモコンをいじり、正面の壁に取り付けられた大型テレビを見ているうちに意識を失った。