2015年12月12日(土) 台中3日間滞在よれよれ日記

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 6時起床。外はまだ薄暗い。バスタブにお湯をためゆっくり朝風呂に入る。風呂上がりに1階まで降りて外でタバコを吸ったが、外はけっこう寒かった。
 8時半に下に降りると、すでに角、東野、白井が待っていた。迎えに来るはずのシンちゃんはまだ来ない。しばらくしてホテルの女性が、ランはちょっと遅れるのでしばらく待てというメッセージを伝えた。ランがやってきたのは8時50分。

さ、朝食に行きましょう

breakfast breakfast
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「わたしは朝早いのが苦手で、ついこんな時間になっちゃったの。さ、朝食に行きましょう」
 ランは「燕笙豆奨」という街角の食堂へわれわれを案内した。陳列棚に並んだ餃子、マントウ、ソーセージ、オムレツ包み、豆乳などを好みで皿にとるスタイルだ。入り口の前では中年女性が薄く伸ばした小麦粉の上に卵をのせて焼いていた。壁にずらっとメニューが並んでいたが、どれもとても安い。
「朝食はすべてこんな感じの店で済ますのがこの辺の習慣ですよ。わたしは料理はしたことないし。これまでのボーイフレンドはみんな料理が上手だったしね」
 勘定を済ませたランがこう申し述べる。

台中国立歌劇院
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 今日は会場に1時に行けばいいのでちょっとした観光ということになった。

operahouse operahouse
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 まず、伊東豊雄設計で話題の台中国立歌劇院へ行った。周辺が超高層のビルで囲まれた区画にあり、遠くからでもすぐに分かるほど特徴的な外観だった。すっきりしたガラスの直線とぐにゃっとした灰色のコンクリートの壁面のコントラストが印象的だ。正面広場の楕円形の浅い凹みにうっすらと水が張ってあり、その水面に外観が反映して美しい。未完成の屋内に入ることができないので、外周を回った。コンクリート壁面の一部やガラス面に汚れが見えた。ランは、本来なら1年前にできているはずが市政方針の変更が続き開館がいつになるかわからないという。イベントの告知ポスターがあったが、よく見ると屋外で開かれるものだった。
「まだ時間があるけど、どこか行きたい場所がある?」とランが尋ねる。観光案内書にあった亜州現代美術館はどうかというと「うーん。あそこは街の反対側にあるので結構時間がかかる」。
「ワダスは明日帰国するのよね」
「ええ、そうだったの。知らなかった」
 主催者が知らないって、それはないだろう。

亜州現代美術館

 結局、それじゃということで亜州現代美術館に向かった。
 工事中の高架鉄道を見上げつつ台中市中心部を抜け南下した。大きな川を越えてしばらくすると、亜州大学が見えてきた。台中国立歌劇院からは1時間近くかかったことになる。
 安藤忠雄設計の現代美術館はその亜州大学構内にある。亜州大学は台湾の有名なデザイナーによって作られた私立大学だ、とラン。Facebook写真
 学生たちのバレーボールの試合を横目で見ながら進むと、美術館が見えてきた。ガラスとコンクリート打ちっぱなしの組み合わせの鋭角的な3階建てのビル。とてもすっきりして非情緒的な、いかにも安藤作品だった。

asia asia
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 天井、床がすべて木壁の三角形の講義室はキリスト教会のように見える。
 ミュージアム・ショップとカフェをぶらぶらする。奈良美智、安藤関連の書籍やグッズもあった。ランはパフォーマンスの審査のために何度もここにきたことがあるという。
 角と東野がカフェの丸テーブルにいた。注文したコーヒーを待っていた。ワダスも座って彼らと喋っていると、若い男の店員がやってきてワダスに言った。
「なにか注文されてますか」
「いや何も」
「注文しないでここに座ることはできませんよ」
 ゆるい傾斜のある芝の前庭にロダンの「考える人」が佇んでいた。世界に20数個あるオリジナルの一つだ。
 建物の真横に大きく高い高圧電線塔が立っていた。ガラスでできた刃物のような外観の美術館に電線の絡んだうるさい構造物が寄り添っていた。
 通りを挟んだところに、中央に丸い尖塔のある重厚な英国ビクトリア朝風の建物が見えた。
 美術館見学を終え大学構内を抜けて田舎風の道をしばらく走った。

台湾式伝統屋敷

 ランが「典型的な台湾式伝統屋敷があるのでそこへ行こう」という。
 平屋や2階建ての民家が農地に点在する風景はどこかベンガルを思わせる。

house house
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 ほどなく目的地に着いた。赤レンガの平屋建ての大きな屋敷だった。「林府」と書かれた門が見えた。両端の反り返った瓦屋根、破風、細かな彫刻のある飾りつきの開口部などのある伝統的な屋敷だった。ちらほらと観光客の姿はあったが、小さな土産物屋は閑散としている。代々この地区の有力者だった林家が建てたお屋敷で、現在も一家が住んでいるという。雲ひとつない快晴で、汗ばむほどの陽気だった。Facebook写真
「わたしはこの辺で生まれ育ったの。フェイフェイが生まれたのもそうよ」
 カーナビに従って行き止まりに鼻を突っ込んでしまったランが町の大通りを走っているとき言った。
「みんな、お腹すいてない。ちょっと行くと、この辺で有名な伝統麺を食べさせる食堂があるんだけど」
「うーむ、さっき食べたばっかりだしなあ」
 と角。ワダスも同様だし、東野、白井もうーんと言うだけだったが、ランはそれを承諾のサインと受け取ったのか、路肩に車を止めた。彼女自身が空腹だったのかもしれない。

伝統麺ランチ

「ここよ。わたし、駐車する場所探してくるから入っていて」
 食堂は、台南発祥のチェーンレストラン「吉里」。かなり広い客席はすでに満員だった。壁のメニューを見ると1杯150円ほどで安い。讃岐うどんの店に入った感じだ。ランが合流したところでそれぞれが麺類を注文した。ワダスだけが汁ビーフンを注文。やってきた汁麺は薄味でなかなかに美味しい。
 40分ほどで台中市中心部のランのマンションに戻り、スタッフの待つ待機所に行った。この時点で集合予定の1時を15分回っていた。

会場へ

venue
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通訳の徐さんとジュニダ

 会場ではスタッフが竹の楽器をきちんとテーブルに並べて用意していた。
 ドリスが「HIROSさん。今日の通訳の徐さんです」と背の高い若い女性を紹介した。マンション管理会社でかつてドリスの同僚だったという。
 徐さんは「学生時代に福岡で1年、会社で2年日本に住んだことがあります」と自然な発音の日本語で自己紹介した。すらっとしていて落ち着いた雰囲気の女性だ。セーターを着ていて暑そうだったのでワダスがランにもらったTシャツを進呈したら喜んで着替えていた。

路上公演第3回目-竹楽器で遊ぶ

 昨日に引き続き、2時にドリスの開始アナウンス、ランの挨拶。それを受けてワダスのワークショップが始まった。
 参加者は昨日よりもずっと多い。子供たち10数人に親が数名で、全体で25人。子供は幼稚園から小学校低学年がほとんどだ。忍者の格好をした少女もいた。
 全員にトンガトンと細竹を全員に配った。トンガトンには音程の高さ順に番号を振り、今回の催しのシールを貼り付けてもらった。
 まず、隣に音を渡して早さを縮めるのを数ラウンド。みなけっこう集中している。慣れたところで、ハンドサインの学習。
 指1本・・・トンガトン
 指2本・・・細竹でトンガトンを叩く
 指3本・・・細竹をトンガトンの中でカタカタと鳴らす
 手のひらを天に向ける・・・声を出す。上に上げるほど音を大きく高くする
 握りこぶし・・・止める
 右手のひらを前に出す・・・立ち上がって飛び跳ねる
 両腕を前に出して手を揺らす・・・ランダムに動き回る
 徐さんの状況判断と良さと通訳が的確なのでやりやすい。
 ワダスの指揮で全員一通りサインを飲み込んだのを確認して、指揮をスタッフの青年シンジに頼んだ。シンジは前日に練習したトンガトンの8分の1拍遅れの演奏を間違いなくできた少ない一人だった。
 彼はサインはしっかりと理解していたようだが、全体の音の流れまで意識できなかったようだ。
 参加者からの指揮者を募ると、小3くらいの男が真っ先に手を挙げた。オドオドしているようにも見えたが、ハンドサインはしっかり把握していた。みなが彼を注視して指示を受ける。なかなかいい感じだ。終わった彼をドリスが紹介し、全員から拍手を受ける。
 活発そうな小5くらいの女の子と別のもっと小さい女の子にも指揮やってもらった。
 40分ほどやって休憩。
 3時に後半開始。6人一組のトンガトンをそれぞれ3セット配り、ジュニタ、シンジなどスタッフにそれぞれのグループで指導してもらう。これがなかなか難しい。やはり8分の1拍ずらして演奏するのには慣れが必要だ。小さな子供達はまったく理解できていない。トンガトン演奏練習はやめて、前半でやったものを繰り返してワークショップを終了した。 Facebook写真  Facebook写真 Facebook写真

路上公演第4回

 待機所で一服したあと、今日最後のステージ。
 陽光の勢いが弱まり、ちょっと肌寒くなってきた。そのせいか参加者の数も減った。今度は全員参加なので角、東野、白井には待機してもらった。
 参加者は、四辺に並べられた敷物に座って中央スペースを囲む。例によってドリスが開始をアナウンスし、そのまま指揮者を担当した。当初、指揮はシンジを考えていたが、音楽的流れの把握に難点があった。ドリスはどうかと徐さんに言うと、ぴったりだと請け合ったので指名したのだった。
 彼女のリードはとてもよかった。ハンドサインもしっかり理解していたし、組み合わせを発展させている。なによりも生き生きと楽しんでいるように見えた。
 ドリスの指示で待機していた角が中央に登場し、竹楽器を持ち動き始める。みなが動きやリズムに合わせて叩く。角が歩道に這いつくばると音が止み、みなじっと彼を見つめる。
 ついで白井を呼び込む。狂言の笑いが観客に伝わりみな一緒に笑い出す。歩道に這い匍匐前進をする。白井のパフォーマンスもなかなかに自然に進む。彼女のパフォーマンスは、自身も長年修行する狂言に着想を得ていて、周辺の環境を演劇的に変化させる。
 そして東野が呼ばれた。彼はいきなりかたつむりの匍匐前進を始めた。立ち上がってかたつむりの歌を始める。角を呼び込み歌を歌いながら動く。ついでワダスが呼ばれたので東野と絡み合う。ワダスが退場すると白井を手招きしかたつむりの歌が終わった。
 ドリスがこのパフォーマンスを引き継いで参加者としばらく演奏し、最後に両手のひらを示したので全員、大声を出して終了した。いい感じの終わり方だった。
 ドリスの時間感覚、状況理解、即断力がいい。最後にわれわれが紹介され、記念撮影になった。竹楽器は参加者それぞれに持ち帰ってもらう。
 日本語を流暢に話す台湾人の若い母親が「こんな楽しいことはなかった。うちの子供もすごい楽しそうでした。ありがとう」といってくれた。これで今日のワークショップとパフォーマンスはすべて終了した。Facebook写真 Facebook写真
 けっこうくたびれたが、昨日よりも参加者も多かったし子供達も喜んでいたのでそれなりに満足だった。
「素晴らしい。子供達もハッピーだね。ところでHIROS、今日は、わたしちょっと疲れたのでみんなと一緒にディナーにいかないで家で休むことにした。ごめんね。明日帰国するあなたとはここでお別れです。ありがとう」
 ランはこう言って姿を消した。
 5時ころシンちゃんの車でホテルに戻った。

台中最大の夜市へ

nightmarket nightmarket
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 6時半にシンちゃんとエミリーが迎えに来た。台中で最も有名な夜市へ連れて行くという。現地までは車で15分といっていたが、ものすごい渋滞と駐車場探しのため車を降りたのは1時間後だった。シンちゃんはそのまま駐車場を求めて運転し続けることになり、われわれ4人とエミリーが夜市の人の流れに合流した。
 今日は土曜日なので混雑も半端ではなかった。前後左右の人に触れながら人々はゆっくりと進んでいた。それぞれ、他人の手や頭を避けながら手にした食べ物を口に運んでいる。
 エミリーが「両側に食べ物の屋台があるからなんでも買ってきて食べてね」というが、屋台にたどり着くのも難しい。
 隣接した逢甲大学構内を抜けて移動し再び人の流れに合流した。
「みんなみたいにやらんと何も食われへんでえ」と東野は人ごみを泳いでエビの串焼きを買ってきた。
 あまりの混雑なので大学入り口の隙間で一休み。
 ドリスが買ってきた臭豆腐とコリアン・チキンをつまんだ。臭豆腐はカリッと揚げているのでとてもおいしい。
 角が臭豆腐なんてあんな臭いやつ食えないと言っていたので、ドリスに「角さんは臭豆腐大好きなんだよ」と言うと「本当。だったらこれ」と角に手渡した。「ええー、ぎゃー」と角。
 チキンをつまんで食べようとしたらエミリーが「これっ」と半透明の使い捨て手袋をくれた。夜市専用ということか。こんなものまであるんだ。
 しばらくして、フェイフェイとボーイフレンドだというクマちゃんが合流。クマちゃんは全体によく肥えて大柄な青年だった。頬の輪郭線沿いにまばらなヒゲを蓄えている。低くハリのある声をしている。
 ワダスが普通の食堂でなにか食べようと提案したので、エミリーとジュニタ、シンジらが相談して台湾で有名なカリー屋に行こうという。白井はあまり食欲が出ないらしく「ええーっ」と否定的につぶやくが、スタッフたちは熱心にルートなどを話し合っている。

結局、食堂でディナー

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フェイフェイとクマちゃん 牛肉麺小
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 人混みを泳いでようやくカリー屋に到着したが行列ができていた。20分待ちだという。じゃあということで隣のガランとした台湾料理屋に入った。
 奥の丸い席に、東野、角、HIROS、エミリー、ジュニタ、白井、クマちゃん、フェイフェイと並んだ。隣の席には、ドリス、無事駐車してから戻ってきたシンちゃん、シンジが座った。
 ワダスと角が牛肉麺小、東野は水餃子、白井が野菜ラーメンみたいなものをとった。テーブル中央にホルモン、豚耳、昆布の炊いたもののつまみが並ぶ。黒いスープに煮込んだ牛肉が3切れ、高菜漬け、白いひら麺の牛肉麺小は味はまあまあだ。具の高菜漬けがおいしい。
 ビールが欲しくなったので近くのファミリーマートに買いに行った。1本32元の缶ビールを3本持って食堂に戻ると、みな帰り支度を始めるところだった。台湾では食事時にビールや酒類を飲む習慣がないんだろうか。
 シンちゃんが車を回す予定の場所までぶらぶらと歩き、ジュニタ、シンジ、ドリスと別れた。

ストロー細工おばば

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ストローおばばと角さん

 電動車椅子に座り、発泡スチロールに突き刺したストロー細工を売るオバサンがいた。普通のストローに別のストローを切ったり曲げたりして作ったトンボや芋虫のような昆虫、龍などをはめ込んだ単純なものだ。誰が買うんだろうと思ったが、たまにお客が来て買っていく。角がどういうわけか一つ150元で買った。売っている女性はオバサンというよりも婆さんにも見えるが、年齢はわれわれくらいかもしれない。彼女はいろいろ質問を受けて機嫌良さそうだ。角とのツーショット記念写真を撮った。彼女が写真を欲しいというので、エミリーにメールで送ってプリントアウトしてもらおう。
 シンちゃんが迎えに来てわれわれはホテルに戻った。10時に近かった。別れ際、エミリーに近くによいマッサージ屋があるか尋ねると、ホテルのスタッフに聞いて小さな地図をもってきていう。「わたしはここがお勧め。1時間600から800元の足マッサージ。有名よ。歩いては無理なのでタクシーでいけばいいわ」
 マッサージに行こうか迷ったが、部屋で日記を書き始める。9時くらいだったらいっても良かったけど、時間が微妙だ。今夜も12時前には寝たい。というわけで、NHKを見ていたら眠くなり11:30ころ意識を失った。

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