メキシコよれよれ日記 (2019年4月12日〜9月10日)

4月25日(木)  前日  翌日
 6時半起床。まだ真っ暗で寒い。
 マーガリン、ジャムのトースト2枚、コーヒーの朝食、メールチェック、日記、ウェブへのアップロード、練習という定番作業で午前が過ぎ、12時のレッスンが始まる。
 室内は寒いので表の芝生に座ってレッスン。単語がどんどん増えて覚えるのが追いつかない。まず色を表す単語、こっちとあっち、強い、弱い、定冠詞と不定冠詞、あれとこれ、植物、名詞の女性形と男性形について、買い物会話、右と左などなど。途中からテキストブックを使った練習。


 エリカの話を色々聞く。生まれたのはメキシコシティ、小さい頃にパツクアロへ来て中学校までいた。その後メキシコシティの大学で心理学を学んだ後、シティで仕事をした。当時はまだあった鉄道でよく往復したという。今も鉄道はあるものの貨物列車だけになっている。昔の駅舎は我々の住んでいるところから近いところにある。パツクアロに3年前に定住したが心理学関係の仕事がないので、英語とスペイン語の教師、人形製作などをする。90歳になる祖母はピアニスト、画家。現在はカンクンに住んでいる。
「今日、あなたたちをコミダに招待したいと母が言ってるけど、どうですか」とエリカ。特にやることはないので一緒にエリカの家へ行くことにした。
 咲子さん宅のあるグロリエタの手前でコンビを降り、山側へ向かう道を右に折れた場所に建つ平屋建ての古い家。彼女が少女時代にいた頃は周辺にはほとんど家がなく、羊飼いがときおり通っていたという。


 母親アリシアと手伝いの女性エリカが台所でランチの準備をしていた。エリカが家の中を案内してくれた。どの部屋の壁にも様々な絵や写真がかかっている。広い居間に薪をくべる暖炉があった。ここの冬(11月から2月)は、氷点下になることもあり、かなり寒いとのこと。客用の部屋には祖母の絵がたくさん立てかけてあった。シュールな絵が多い。絵のモチーフのほとんどはガルシア・マルケスの小説だという。各部屋に薄型液晶テレビもあった。


 ちょっと雑然とした広い庭には、アボカド、みかん、スモモなどの木があり、周りにはサボテン、ハーブなどが植えられていた。
「昨日このサボテンの花が咲いたけど、今日はもうしおれちゃったみたい」とエリカ。
 途中からやってきたアリシアの友人リナと共に、魚フライ、ご飯、アボカド、レタスと果物のサラダをご馳走になった。魚のフライもご飯も塩味が絶妙でとても美味しい。
「アリシアは料理上手なのよ」と、メガネをかけた50代後半に見えるリナ。メキシコシティ出身の彼女はパツクアロ市内で、親がいなかったり路上で生活している恵まれない子供達に食事を提供する活動をやっているという。


 いつも笑顔で明るいアリシアが話しかけ、それをエリカが通訳する。この家を買ったのは30年ほど前。それぞれの部屋は未完成の状態だったが手直しをし続け現在のようになった。「台所も大きくしたのよ。主婦にとっては大事でしょ」とアリシア。
 教師の給料は公立よりは良いが、引退した後の年金などはほんのわずかだし、健康保険なども不十分だという。
 アリシアが明日はパツクアロの博物館に行こうと誘ったので、応じることにした。
 途中で父親のパブロが合流した。細い顔、もみあげから鼻とあごに続くひげ、月の写真の黒いTシャツにジーンズ。1953年生まれというので我々よりも年下だ。バイク修理の仕事をしている。昔は銀行で会計をやっていた。
「銀行ではネクタイをしてたのよ」アリシア。
「わしらの世代はビートルズだね。ローリングストーンズも聞いた」。Here comes the Sunを口ずさんだら、おお、てな感じで反応しメロディーをなぞった。エリカもビートルズが好きだという。

アリシア、パブロ、エリカ


「息子が生まれてたら絶対にビートルズ好きになってたはずだ」
 ランチのお礼ということで秋田長持唄と五木の子守唄を吹いた。先日あげたCDの演奏を聴くと安らいだ気分になり気功の動きをしてしまう、とアリシア。
 アリシアが、先日モレリアで披露したという芋虫のコスチュームをつけて見せた。段々のふくらみのある緑色の衣装だ。この姿からちょうちょに変身するのだという。

左からリノ、HIROS、久代、エリカ、パブロ


 6時近く、エリカに街道まで見送られ、歩いて帰宅。
 「千と千尋の神隠し」の歌「いつも何度でも」をユーチューブを聴きながら練習。譜面にしようと書き出したがなかなかに難しい。ウェブで楽譜を探したら、あった。ネットはすごい。27日のイベントで演奏するのも悪くない。紙芝居の入場時がいいかもしれない。
 ケソ・チワワを肴にメスカルを飲み、10時頃ベッドに入る。

----やれやれ日記
夜、ベッドに入ってすぐには眠れずにいると、花火のような音が何度か響いた。死者が出ると花火を上げるのだという話をタカンバラで聞いたとイロスが言っていたが、それなんだろうか。夜は列車の汽笛の音も聞こえる。2時間おきくらいに何度も。

私たちが借りているこの家はドールハウスみたいだ。ままごとキッチンには、オーブンのついたコンロ台。冷蔵庫。コーヒーメーカー。木のしゃくしに、陶製のお鍋と器。居間には木の重いテーブルと椅子。ここで食事し、スペイン語のレッスンも受ける。テーブル、ソファ、寝室のベッドには、ハンドクラフトのぶ厚いクロスやカバーがかかっていて、どれもたっぷりとして色調も美しい。 余計なものは何もなく、すがすがしい。

子供のころ、ロビンソンクルーソーの漫画が大好きだった。 孤島に流れ着いて、何もないところから小屋を建て、暮らし始める。それに比べれば、このドールハウスは豊かすぎる。水まわりのもろもろ仕事やゴミ捨て、買い物や食事など、生活のリズムもできてきて、うれしい。  

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