メキシコよれよれ日記 (2019年4月12日〜9月10日)

5月14日(火)  前日  翌日
 今日は完全に何もない日。近所をぶらぶらと散歩するしかない。
 お昼過ぎ、船着場方面Muelle generalへ。日差しは相変わらず強いが、ポカポカする道を歩くと実に幸福な気分になる。
 ここで島へ渡る船賃を聞いてみた。一番近いハニツィオ島までは往復70ペソ(420円)、バチェが「自然が楽しめるいい島だよ」と言っていたパカンダ島へはなんと一人往復300ペソ(1800円)もすることが判明。パカンダ島は、人口は2000人ほどの有名な観光地であるハニツィオ島より距離があり、面積としてはずっと大きいのに400人しか住んでいない。需要が少ないという理由があるのか、それにしても船賃が高い。4000円近くかけて行く価値があるのか考えてしまう。

CREFAL。右へ行くとドン・チュチョの店がある


 船着場からドン・チュチョのある辺りへ歩く。地域の文化活動施設CREFAL(前大統領ラサロ・カルデナスの別荘だった)のある道を直進し、エスパルタが「この辺では一番うまい」と言っていたタコス屋に行った。馴染みのドン・チュチョのすぐ横にある。
 店を切り盛りしていたのは、気の優しそうな中年女性。営業攻勢をするでもなく必要最小限のことしか話さない。傍で若い女性一人が手伝っていた。
「タコスはあるの?」
「ないよ」
「カルニタスは?」
「ないよ。カルニタスだったら向こうの店だ」とCREFAL方面を指差す。
 カルニタスとは豚肉料理のこと。久代さんもキロガで食べて気に入ったものだ。
 エスパルタは一番うまいタコス屋だと言っていたが肝心のタコスは扱っていない。ひょっとして彼は隣の店を指していたのかもしれない。ま、この辺には何軒もタコス屋が並んでいるのでしらみつぶしに入ってみるしかないか。
「ケサディーヤはできる?」
「できるよ。チョリソー、味付け唐辛子、マッシュルルームとか」と具の入ったタッパーを見せてくれる。
「チョリソー入りとマッシュルルーム入りケサディーヤを」というとおばさんが隣のタコス屋からトルティーヤの生地をもらってきて鉄板に敷いた。
 彼女が焼いている間、ドン・チュチョでビール2本30ペソ(180円)を買って飲みつつ仕上がりを待つ。
 2つともなかなかに美味しかった。特にトルティーヤがもちもちしている。
 取り放題の薬味類は、刻んだ玉ねぎ、黄色のちょっと辛いピーマンを刻んだもの、ライム、ラー油のようなサルサしかない。どうやら、エスパルタの言っていた店とは違うようだ。とはいえ、悪くない味で好感の持てる店だった。


 帰宅し、チョリソーとレタス炒めを追いランチとして食べ、ソファに寝っ転がってインド音楽を聞いた。久代さんは相変わらずスペイン語の勉強。「ただ教科書を読む進めているだけ」というが、ワダスはそこまでのモチベーションはない。
 6時頃、再び散歩に出た。ドン・ペドリト船着場だ。ここはいつも静かで、ぼんやりと湖を眺めるのにいい。突端の船着場で数人の若い人たちが船に乗り込んでいた。グループのようだ。待ち人に聞けばユヌエン島Yunuénへ行く船だという。
「なんぼするの?」と聞くと、杖を持った老人と一緒にいた若い女性が「あそこの切符売り場Taquillaで訊いて」というので行ってみた。
 切符売り場の窓口の横に料金表があった。相乗りと貸切があるようだ。ユヌエン島まで貸切船賃が1650ペソ(ほぼ1万円)とある。15人の団体だと一人600円くらいになる。相乗りだと一人70ペソ(420円)。さっきの乗客はきっと貸切なんだろう。ここの発着場では、ある程度人数がまとまらないと船は出ないのかもしれない。


 日差しが弱くなってきた道を引き返す。道すがら、今回のメキシコ滞在について二人で話した。
 外国のどこにいようと、我々はこれまで名所旧跡を訪ね歩くような旅はしていない。大抵はそこに知り合いの誰かがいて、飲んで食って会話し、新しい知り合いを増やし、ブラブラして過ごす、というような旅が多かった。リゾート観光案内パンフレットの写真のように、浜辺に座って海を見ながらカクテルを飲み、たまにプールで泳ぎ、夜はバーかなんかで酒を飲み、有名レストランで食事をする、なんという旅もほとんどしていない。土産物をわんさか買うことも、免税店で高価な品物を買うこともしない。ま、基本的に我々は常にビンボー旅行者なのだ。
 仕事と関係のない外国旅行とは何か。観光とは何か。なぜ人は名所旧跡や大自然の風景や動物を見にお金と時間をかけて出向くのか。普段の退屈な日常生活から逃れ、異なった環境に一時的に身を置くことに魅了されるのはなぜか。それまでにない思考や視野を広げるという意味だけではなく、そこに自分がいたことの証明のために写真を撮るのはなぜか。それを見せられた人々が羨ましがるのはなぜか。今やインターネットの時代。地球上のほとんど場所を写真や映像でディスプレイを通して見ることができるが、その空間に実際に身を置くという体験は何にとって貴重なんだろうか。人生が豊かになる?「豊か」というのはどんな状態なのか。今回のように、飛行機の狭い座席に長時間縛り付けられ、長々とバスで移動してやってきて、必要最小限の仮住まいで毎日を過ごすというのはどういうことか、などなど。ぼんやりとメキシコで生活をしてみると、色々と考えることが多い。
 帰宅してAmazonプレミアムの「マネーロンダリング」を追った番組を見た。Amazonプレミアムの見放題映像は日本でもちょくちょく見たが、どういうわけかここではほとんどの映画が「この地域では視聴できません」と出てくる。持ってきたMacBookAirの設定は日本にいる時と変わっていないのにどうしたわけか。どうやらこのMacBookAirが今メキシコにいると認識されているようだ。
 久代さんは2時くらいまで起きていたらしいが、ワダスは乾燥した葉っぱをタバコに混ぜて吸ったら、クラクラっときてベッドに入った。9時半頃だった。乾燥した葉っぱの威力はすごい。

---やれやれ日記
やれやれ。

前日  翌日