メキシコよれよれ日記 (2019年4月12日〜9月10日)

5月16日(木)  前日  翌日
 久しぶりに小旅行。1時半頃家を出て、ほとんど毎日の散歩コースになっている船着場に行くと、バスのようなレチャ(ボート)がちょうど出るところだったので飛び乗った。ハニツィオ島往復で一人70ペソ(420円)。


 レチャの対面式のベンチには50人ほど座っていた。年取った白衣の尼僧、派手な刺繍のスカートはいた老女が刺繍針を休みなく動かす隣の女と話している。外国人は我々だけのようだが、明らかに観光客のようなグループもいた。スマホをのぞいている若者も結構いる。真ん中の通路には仕入れた民芸品材料の詰まった袋や買い物類などが置かれている。後部の出入り口には自転車もあった。丸いハンドルを握る操舵手は小太りのアンチャン。
 いつも遠くに見えていたハニツィオ島が次第に近づいてきた。伏せたお椀のような形の島の斜面に建物がぎっしりと頂上まで続き、てっぺんに白いコンクリート像が空を指差していた。メキシコ独立の英雄モレーロスの像だ。禿山の島裾に数件の建物のある隣のテクエナ島も見えた。


 30分ほどで島に着いた。桟橋を渡った広い場所にはレストランや土産物屋が密集していた。入り組んだ坂道の両側に土産物屋兼レストランがずらっと並ぶ。扱っている商品はどれも似たようなものだ。フリーダ・カーロの絵だらけの店もあった。
 観光客はそれほどいないのでこれで商売が成り立っているのか心配になるが、死者の日にはものすごい人出になるのだろう。平地のないこの島の唯一の産業は土産物と食堂と漁業だけだろうから、死者の日に一気に稼ぐんだろうなあ。道道で出会う島民はスペイン人との混血は見かけない。ほとんどはタラスコ族の末裔かもしれない。
 結構急な坂道の階段を登っていると足がガクガクしてくる。止まって休んでいると、近くの土産物屋や食堂のオバハンから営業攻勢をかけられる。


 島のてっぺんは広場になっていて、入場料一人10ペソ払って入る。やはりレストランや土産物屋が広場を囲んでいる。観光客も少なく、どの店も閑散としていた。広場を一周した。眼下に山々に囲まれたパツクアロ湖のほぼ全景が広がる。

 


 広場の中心に立つモレーロスの像の中に入った。英雄モレーロスの生涯や戦いを表す壁画が回り階段の階層ごとに最上階まで続いていた。最上階の細い螺旋階段を登りきると、四、五人も入れば満員になる狭い展望台だった。高い位置にある窓から眼下の風景を見下ろす。狭い突端にいるのを意識して尻のあたりがむず痒くなる。すでに親子連れががいて、さらに下から別の親子連れも上がってきたので、我々は早々と降りた。
 登ってきた時とは別の坂道階段を降りて墓地のあるところに出た。思ったよりも広くはない墓地だった。ここが死者の日にはすごい人出になるのか。


 十字架の並ぶ墓地を横切り、教会に出た。入り口に一人ポツンと座る女性に黙礼して中に入った。これまでに見た教会と同じ作りだが、全体がグッと素朴に見えた。
 途中の土産物屋で紫に着色された陶製のパイプを75ペソで購入。タバコの葉を入れる部分は骸骨顔のデザイン。
 船着場に並ぶ食堂の1つに入ってランチ。ものすごい音量のBGMが流れていた。店員のアンチャンに行ってボリュームを下げてもらう。


 頼んだのは、ワダスが魚のスープCaldo de pescada、久代さんがエビのスープCaldo de camarónとビール。これに青灰色のトルティーヤが数枚つく。全部で195ペソ(1170円)だった。どれも悪くない味だが、高いなあ。パツクアロの食堂街だったら半分以下の値段で同じものが食べられたはずだ。観光地だから仕方がないか。
 食堂の下では老人踊りをやっていたが、客がいないためかほどなく終わってしまった。ステージのようになったところにBOSEのスピーカーを発見。


 桟橋を渡り帰りのレチャに乗り込む。すでに乗客が10人以上待っていた。数人の団体客が冗談を言い合い大笑いしていた。風が出てきたためか細長いレチャが左右に揺れ、その度に団体客たちが「おおっ」「わあー」と声をあげた。


 30分ほどでMuelle generalに到着。足がまだガクガクするので、ゆっくりと歩いて帰宅。5時だった。観光はなかなかに疲れるし、ゼニもかかるなあ。
 冷凍してあった菜っ葉の煮物とサラミで追いランチ。テキーラと乾燥葉の効果で9時半過ぎにベッドへ。久代さんはビールを飲みつつ相変わらずスペイン語の教科書を「解読」していた。彼女は記憶や実践よりも解読を優先する勉強法なのだ。

---やれやれ日記
本日の観光の要点メモ。観光とは、
1: 高いところに上る。
特に、よって立つべきものを確信できない上昇における不安と筋肉疲労。
周囲の空間を埋め尽くす壁画をじっくり見ることも、階段の段数を数える (ここは突っ込みどころ) こともできず、ただ上った。島の急坂も休み休み、ただ上った。
2: 水平移動。
30分程度の渡船なのに、旅情があった。近づき、遠去かる島と、水しぶき。
3: 人の観察。
同船者や島に暮らす人々。観察し、観察される。…お墓のある教会で、舗石にするのか、石を打って形を整えていた青年。少し先で、1個1個、石を路面に埋めて作業していた別の青年。ここはサグラダファミリア? 30年以上も前に出会った光景を思い出した。

前日  翌日