メキシコよれよれ日記 (2019年4月12日〜9月10日)

6月8日(土)  前日  翌日
 咲子さんが「地元の料理が食べられるレストランがあるので一度お連れしたい」と言っていたツルムタロへ歩いて行ってきた。この町というか村はパツクアロとモレーリアを結ぶ幹線道路沿いにある。また民芸品で有名なキロガやプレペチャ遺跡のあるツィンツンツァンやイウアツィオへ向かう分岐点にもなっている。ネットで見たツルムタロに関する記事では「誰も一度も住んでいなかったかのように見える "トワイライトゾーン"のような町。 広場でさえ正午に無人だった」などとあった。旅行者にとっては観光地としての目玉もない、単なる通過する集落で、伝統的な料理を食べさせるレストランが何軒かあるという程度の情報しかない。その「トワイライト・ゾーンのような町」と「地元の料理が食べられるレストラン」いうのに惹かれて行ってみようとなった。


 交通量の多い幹線道路を歩いた。歩行者用のスペースがほとんどない道路なので猛スピードで行き交う車に気をつけながら歩く必要がある。陽は照っているが風があるのでそれほど暑くはなかった。我が家から1時間弱で、ネットで見つけた「有名」な「Camino Real」という名のレストランに着いた。周辺にほとんど人家のない街道沿いのよくあるガソリンスタンドの奥にあった。ファミレスのようで、想像していた鄙びた風情とは違っていた。屋内外とも結構な客が食事をしていた。


 見えるのはガソリンスタンドと駐車した車、街道を行き交う車だけという屋外のテーブルに座って注文した。ワダスがモレソースのチキン定食、久代さんがビフテキ定食。パンとトルティーヤが別につく。唐辛子、ナッツ、チョコレートなどを使ったメキシコ料理の傑作というモレだが、味は特に特徴があるとは思えない。見た目は味噌カツのソースに似ている。骨つきチキンをソースに絡めて食べるが、すごくうまいというほどでもなかった。ビフテキをちょっとつまんだ。メキシコでは標準的なちょっと硬めの薄い肉だ。味は普通。一匹の犬がテーブルに近づいてきて恨めしそうな目を見る。トルティーヤの切れっ端を放ると尻尾を振りながら食べ終え、また恨めしそうな目でこちらを見る。
 勘定はビール1本つきで155ペソ。これにチップを入れて二人で170ペソ(1020円)。高いとも安いとも言えない値段だ。エリカに「レストランで勘定を払うときは、チップが入っているかどうか確認すべし」と言われたのでウェイターに質問すると、「入ってない」という意味のことを早口で言ったと思う。というわけで15ペソのチップをあげた。


 そのレストランからしばらく歩いてツルムタロの集落に出た。バイパスのようになっている幹線道路は相変わらず交通量は多かったが、分岐点で集落の方向へ向かうと途端に静かになった。人はほとんど見かけない。「トワイライト・ゾーンのような町」とはよく言ったものだ。なんとなく、奈良から吉野へ向かう街道筋の平屋の続く田舎町のような雰囲気だった。


 教会のある広場に出た。まばらにしか樹木がないため日陰が少ない。鐘楼のような東屋、放射状に作られた遊歩道は、人がいないので寂しそうに見える。周りには鉄製のベンチがところどころ設置されているが、ほんの数人が腰かけているだけだ。広場ではたいてい見かけるタコス屋も見当たらない。地元料理のレストランというのもどこかにあるはずだが「目抜き通り」に当たる広場には面していないようだ。


 教会の横に「博物館」の表示があったので入った。一人のおばさんと娘らしい女が椅子に座ってテレビを見ていた。我々を見ると「あら、いらっしゃい。自由にどうぞ。そっちからよ」と言う。狭い中庭を囲むように壁画、農機具、生活用具、メキシコ革命の頃の写真やその説明板が展示されていた。民俗学的に特に重要なものが展示されているわけではない。壁画のある部屋にはブラウン管テレビが置いてあり、おばさんと娘が熱心に見ていた。見ていたのはハリウッド版「ゴジラ」だった。
 ツィンツンツァン方面への分岐点の街道筋に出てコンビを待った。広場付近は人気がなかったが、分岐点には立派なレストランや自動車用品の店などがあった。それなりに人通りもあった。


 程なくやってきたコンビでエスタシオンまで戻り、船着場へ行ってみた。人出はそこそこでミュージシャンたちが演奏していたが、賑わっているというほどでもなかった。東屋の奥に広げた敷物に裸足で立っていた女性が片付けをしていた。敷物の上には大小の真鍮のボール、それらを叩くバチ、竹の中に砂を詰めた楽器や親指ピアノなどが置いてあった。花輪を頭に巻いた女性に声をかけると英語で返答が帰ってきた。「音楽セラピーをやってたの。でも、ここはうるさいから店じまいよ。興味があったらここに連絡して」と名刺を差し出し「これ持って帰ってね」とプラスチックのカップに入れた花をくれた。
 4時頃、帰宅。パパイヤを食べて横になり音楽を聴いたりビデオ・ニュースを聞いたりして過ごす。なんということもなくこうして1日が過ぎていく。

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