メキシコよれよれ日記 (2019年4月12日〜9月10日)

6月21日(金)  前日  翌日
 10時すぎ、マルタが「10分後にギャラリーに行くわよ」と誘いにきた。今日はスペイン語のレッスンがないので、明日のギャラリーのオープニングの手伝いをしたいと言っていたのだ。バチェはすでに出かけていた。お手伝いさんのフアナと車に乗り込み、ギャラリーへ。
 ギャラリーにはすでに招待作家の作品が壁に掛けられていて、いかにもギャリーらしい雰囲気になっていた。作品にはタイトルと値段を表示したプレートもつけられていた。


 我々に課せられたのはまず別室に展示されている彫刻作品の台にタイトルと値段のついたプレートを両面テープで貼り付ける作業。テープをハサミで切ってタグの後ろに貼り付け、それを台座につける。ついで扉と床の掃除。フアナの床掃除は手際がいい。作業中バチェはYoutubeにあったバーンスリーのソロを流していた。誰の演奏かはわからないが、ラーガはバイラヴだった。マルタは掃除道具を用意したり、掃除すべき場所を示したり、展示の仕方を考え場所を動かしたりと忙しい。
 雲行きが怪しくなり、激しい雨が降ってきた。まだ雨漏りが完全に修理されていなかった。壁に貼り付けていた案内板が雨漏りで剥がれてしまった。天井や壁の一部に漏水による爆裂が二、三箇所あった。屋根と明かり採りのガラスの接合がうまくいってないようだ。それにしても、ここまで準備するのは大変だったに違いない。


 事務室でしばらく歓談。音楽はなんでも好きでよく聴く。最近好んで聴くのは弦楽器とスイングだという。昔はビートルズ、ピンク・フロイド、ローリングストーンズなどもよく聴いたという。明日は50人ほど客が来るはずと言ってダンボールに入ったワインの箱をキッチンに運ぶ。グアダラハラに住むマルタの妹、メキシコシティに近いトルカに住むその娘、つまり姪の夫婦も明日やって来て、ギャラリーの隣にあるアパートに寝泊まりする予定という。彼らは廃屋だった頃に見ただけなので明日来たらびっくりするだろう、とバチェ。
 一通り掃除が終わり、フアナを帰した後で、バチェが「セントロの昔よく行った小さなレストランへ行こう」と言った。「昔はとても大きい店だったが、家主から追い出されて今の場所に小さな店を作ったんだ。料理は美味いよ」


 案内されたのは大広場に面したレストラン「El Asadero」だった。4人がけテーブルが6組あるだけの小さな店だ。1組の客が食事をしていた。店内の白い壁には老人踊りやハチドリの壁画。奥のケースにはバットに入った料理が並べてあり、客はそれを見て注文する。
 バチェは「ちょっと寒い」と言って店を出てフードのついた長袖の黒い上着を買って着てきた。「100ペソだよ」
 バチェと久代さんは豚肉とご飯と野菜、マルタが詰め物をしたでかいピーマンのチレ、ワダスはチキンのモレソース添えとご飯。「ここは安くて美味しいから君たちも来たらいいよ」とバチェ。彼が払ったので値段はわからなかったが、美味しいというのは間違いなかった。ちょっと甘いモレがなかなかに好ましい。甘めのとんかつソースのような感じだ。モレはもともとオアハカあたりが中心の伝統料理だが、今では全土に広がっているとマルタ。ミチョアカン特有の料理としてはポソレ、ウチェポス、コルンダスなどがあるという。まだ食べていないので覚えておこう。


 食事後、近くのカフェでコーヒー。ギャラリーの準備をこなしてきたマルタに「まるで秘書みたいだね」と言うと「実は秘書をしたことがあるのよ。17歳の時事故で両親を亡くした後、父の友人が秘書の仕事を与えてくれたの。でもタイプも知らなかったので大変。タイプ打ちにまごまごしていたらその人が自分で打ってたわ」
「ギャラリーにはバチェの作品がなかったけど」
「今の展覧会が終わったら展示するよ。僕の作品はこの辺の人じゃ買えない値段だしね。かつては文化センターで展覧会をやったけど、今の館長になってからはやっていない。彼は管理することは知っているけど、美術については何も知らない」


 こんなことを話していると、物売りの女性がやって来た。トルティーヤを売っている顔色の濃い老女だった。バチェは10枚購入し30ペソ払った。彼女の要求は15ペソだったので2倍支払ったことになる。彼女は両肩に重いトルティーヤを持ってこんなふうに売っているんだろうが、利益もあまり出ないし大変だと思う。さらに別の女性が木製の小さな椅子を売りにきた。80ペソだと言う。マルタがそれを購入した。この女性も背中に椅子を背負って町の人たちに売るのだ。
 カフェを後にして広場を歩いた。雨は上がっていた。靴べらを買うためレストランSurtidoraの横にある靴屋に行き、女性店員に聞いた。「靴べら? ないですよ。どこにもないんじゃないかなあ」とのこと。しかし近くの別の靴屋へ行ったらあった。35ペソで購入。この辺の人は靴べらとか使わないのかなあ。


 広場を歩きながらバチェが「この広場は昔はタイル貼りで感じが良かったけど、今の灰色の敷石はちょっとねえ」と申し述べる。そして「チョコレート食べる?」と角の専門店へ我々を促した。シェリー酒の入ったチョコレートを一つずつ食べた。食べながらバチェが角の建物を指差し「あそこを買おうと思ってたんだ。中庭がたくさんあっていい感じなんだ。ところが家主は400万米ドルだと言うんだ。信じられない値段だった。近年アメリカ人が家を買い漁るもんだからどんどん値段が上がってしまった。400万米ドルなんてとてもないから諦めたけど、それにしても信じがたい値段だ。それでも結局買った人がいたんだけどね。メキシコ市の人らしい」


 小雨の降る中、車でギャラリーに戻った。ついた頃にはほとんど雨は上がっていた。我々はそこから歩いて帰宅。途中のガソリンスタンド付属のOXXOでタバコ48ペソを購入。ボデガスーパーから新しい道を通ってドン・チュチョ付近へ。明日の食事用にまた豚肉でも買おうかと考えていた肉屋は閉まっていた。
 帰宅してちょこっと練習したり、宿題をやっているうちに10時を過ぎた。ぼちぼち寝よう。

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