メキシコよれよれ日記 (2019年4月12日〜9月10日)

7月14日(日) 前日 翌日
 今日はエスパルタと咲子さんのお誘いで撮影に付き合った。
 お昼に迎えの車を待っていると、メッセンジャーに「車が動かなくなったので緑食堂のとこで待ち合わせましょう」と連絡が入る。ということで緑食堂まで歩いた。途中の船着場は昨日に続き大賑わい。オートバイの集団もいた。夏休みが本格化してきたのか。


 緑食堂の入り口まで来たところで、向こうからエスパルタ、咲子さん、ミヤビの姿が見えたので合流。エスパルタは頭から足の先まで舞踏のメーキャップだった。
 揃って歩いて撮影場所へ向かった。目的地は船着場No.1に近い廃墟。以前この辺を散歩した時に目にした、倉庫のような屋根のない建物が並んだところだった。咲子さんとエスパルタはかつてこの近くの庭の広い家に住んでいたのだが、家主がそこを売却することになり今の家を紹介されたとのこと。現在、家のあった場所にはホテルが建っていた。


 船着場No.1と書かれた入り口の奥は芝生の綺麗なゴルフ場のようになっている。船着場へ向かう人たちなのか、向かいの空き地には車が多く停まっていた。

 


 その広い緑の空き地の奥に、一部は屋根のない、一戸建てにしては小さな2階建の建物が隣接して立ち並んでいる。宿泊客用のコテージとして作られたものなのか、今は完全に廃屋になっている。それぞれの廃屋の外側には剥き出しの階段があり、2階まで登れるようになっている。
 エスパルタはそのうちの1軒の外部階段を登ってあたりを見回し「ここにしよう」と決定。Tシャツ、半ズボンを脱ぎフンドシ姿になった。咲子さんがデジカメで録画の準備。ミヤビは早速靴を脱ぎ捨て丈の短い草の上を歩いたり、地面を覗き込んだり、走ったりと気ままに動き回る。「放っておくといつまでもその辺を歩き回り迷子になるの」と咲子さん。
 久代さんの白いジーンズに甚平さんを着たワダスは、廃屋の2階の踊り場に座ってエスパルタの動きを見つつ小さな笛で琉球音階の旋律で適当に吹いた。別棟に移ったエスパルタが動き出す。ワダスは2階の、かつては窓のあった開口部に腰を乗せ祭囃子もどきを吹いた。エスパルタからは「ケーナみたいな明るいリズミックな音楽」と言われていたが、イメージが湧かないので琉球音階と祭囃子もどきにしたのだが、あれでよかったのか。ダンサーの音のイメージが想像しにくいのでいつも不安になるのだ。「音を感じながら動きをつくっていくのもプロセスなので、広いところで、鳥の歌のように心地よい笛、よかったと思います」と後で咲子さんが言ってくれたのでちょっと安心。
 来るときは晴れていたのだが、空が暗くなってきた。山の向こうでは稲妻も光った。
 撮影はほぼ1時間で終了した。赤い長靴を履きたがらず裸足で歩くミヤビをたしなめながらエスタシオン方面へ歩いた。途中からエスパルタに肩車をしてもらい嬉しそうだ。


 メイキャップを落とし着替えに戻るエスパルタといったん別れ、ワダスたちはタクシーでツルムタロへ向かった。ツルムタロもかつて彼らが住んでいた町だ。
「トワイライト・ゾーンのような町」と誰かが表現したツルムタロには1ヶ月前に一度来ている。そのときは中心部の広場に人影がなくトワイライト・ゾーンという表現が正しいように思えたが、今日は賑わっているというほどではないにしてもそれなりに人が歩いていた。
 その広場に面した建物に案内された。屋根のある広い中庭にテーブルが並び、すでに先客が食事をしていた。入って右奥が調理場だった。エプロンをつけた女性たちが昔ながらのカマドで薪を焚いて調理していた。その一人が咲子さんを見て挨拶した。
「彼女はドーニャ・ミレジャさん。私がここに住んでた頃、料理を習いに来てた時の先生なの。彼女のいう通りに作ってもいつも何か違うのよね。薪のせいかもしれない。この食堂は、町か州のプロジェクトの一貫で、日曜日しかやってない。あまり宣伝していないので知っている人は少ないけど、どういう伝手で聞き知るのか、モレーリアなんかからも食べにやってくる人がいるの。口コミなのかなあ。あっ、知り合いが来た。あの人たちすごく金持ちなのよ」
 我々の後からも客がやってきたが、中には咲子さんたちの知り合いもいて「やあやあ」になった。合流するエスパルタを待つ間、ビール。ミヤビは裸足のまま他のテーブルへ行ったり、庭に出て何かを見つけたりと独自行動。目を離すとどこにいるか分からなくなる。


 調理場を見せてもらった。「写真撮ってもいい?」と聞くとミレジャさんが大きな声で「いいよ」と言った。数種類の料理が大鍋の中で煮えていた。モレもある。寸胴鍋には牛肉の煮込み、その隣の平鍋には豚肉の入った緑のサルサ、トマトベースの煮込みもある。右手はトルティーヤ製作場。練ったトウモロコシの塊をちぎって丸くした後、手で平たくしてテコのついた鉄板で押して成形し、カマドの上の鉄板で焼く。ちょっと太った背の小さいおばさんたちが黙々と作業に勤しむ。


 客が次々にやってきてなかなかの繁盛ぶりだ。そのうちエスパルタが大駱駝艦のTシャツを着てすっきり顔でやってきたので注文。ミヤビはすでに豆の煮込んだものとご飯で食べ終えて庭で遊んでいる。咲子さんはでかい唐辛子の煮込み料理Preyno de chile poblano de queso、久代さんとエスパルタが牛肉とトウモロコシの入ったスープ風煮込みチュリポChuripo、ワダスは緑色の豚肉煮物Carne de puerco salsa verde、全員用としてモレと豆の煮込み。当然のようにサルサやライム、刻み玉ねぎ、トルティーヤが付いてくる。客は調理場へ行って頼んだものをもらってくる方式だ。


 どの料理もとても美味しい。特にワダスの注文した豚肉の緑サルサ煮込みが抜群の味だった。エスパルタによれば、ここの料理はセントロの高級店スルティドーラのものよりも量が多く安くかつ美味しいという。ただし、いつも同じメニューしかない。久代さんは来週また来ようと言う。
 5人で400いくらかになり、我々は150ペソ支払った。「2年前は一皿45ペソだったけど、やはり値上がりしたみたい。今は一皿70ペソ。物価が上がってるのよね」と咲子さん。
 広場を横切りほとんど人通りのない街路を歩いた。直行する道の真ん中に大きな木があるのが見えた。交通の邪魔になるはずだが、なぜわざわざ残したのだろう。


  でこぼこの石畳の道を歩いてツィンツンツァンやキロガへ向かう幹線沿いのアイスクリーム屋「EREMDIRA」へ行った。ここはセントロのスルティドーラの前にある、常に行列の並ぶ店と同じ経営だ。何十種類ものアイスクリームが食べられるというので、子供づれの客も多かった。久代さんの頼んだメスカル味がとても味わい深い。他にテキーラ味というのもあり、ワダスも頼んでみた。メスカル味の方がいいかも知れない。途中、店の横の線路を長い貨物列車が通過した。


 全員コンビに乗ってボデガ・スーパーまで。家が近い咲子さん家族と別れてスーパーに入り、安ワイン56ペソ(336円)、トイレットペーパー9巻48ペソ(288円)、洋梨とすももを購入。126ペソ(756円)。買い物をしている間に激しい雨になった。
 タクシーで帰宅。50ペソ(300円)。5時半頃だった。それからずっと雨が降り続いている。
 バチェとマルタが7時過ぎにギャラリーから戻ってきた。「今日はどうでしたか? 撮影? ああ、あの廃屋ね、知ってるよ。我々もこれで今週の出勤は終わり。水曜日までゆっくりできる。20日には今の展覧会のクロージング・パーティがあるけど、あなたたちも来ない? そうそう、その日は熱紙風船の日カントーヤがあるんだったね。パーティーが終わったらみんな一緒に行ってもいいし」と二人が言う。
 さて、明日からレッスンだ。久代さんは「ビデオを見て作文せよ」という宿題をやっているが、ワダスはこれを書くのに忙しい。

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