メキシコよれよれ日記 (2019年4月12日〜9月10日)

8月28日(水) 前日 翌日
 昨日と違い、分厚い雲が垂れ込み、今にも雨が来そうな空だった。
  練習後、日記を書くために近くのカフェ・パロキアGran Café de la Parroquia(パロキアの意味は「教区」とある)に入った。パツクアロにいるときエリカの宿題で何度もビデオで見た有名なカフェだ。繁華街にあると思っていたが、案外寂れた感じの通りの一角を占める2階建の建物の1階だった。


  大きな店名と1808年創業という文字だけのある平凡なビルだ。昨日の晩に見たときはほぼ満員だったが、11時前という時間からか店内は閑散としていた。客がスプーンでグラスを叩くと、ヤカンを持った男がやって来て、高い位置からコーヒーにミルクを注ぐ。インドにもあったなあ、こんなのが。コーヒーの味がなかなかにいい。とはいえ、チップ込みで2杯で100ペソは安くはない。日本円にすると1杯300円だが。

 


 曇っていた空に青空が見えてきたので、海岸の村へでも行こうかとなった。交通整理の警官に海岸行きのバス停を尋ねると「2ブロック行った右側だ」と教えてくれた。
 とりあえず目的の海岸はボカ・デ・リオBoca de rio(河口)。バスはすぐにやって来た。一人9ペソ払い車内へ。急発車、急停車、強引な割り込みと運転が無茶苦茶に荒い。バスは海岸沿いの道を乱暴に飛ばす。岬の方に高層ビルが建っているのが見えた。途中、道沿いに藁葺き屋根の食堂らしい建物が何軒か並んでいた。海水浴場のようになっているが、泳いでいる人は少ない。広い川にかかる橋を過ぎると、街道の両側はアメリカ風の名前のホテルや大きな店の入るビル群が続き、海辺に来た感じがしない。いかにも海水浴場とか掘っ建て小屋の食堂なんかが並んでいる場所に来たらバスを降りようと思っていたが、運転手が「ボカ・デ・リオはとっくに過ぎたけど、どこまで行くんだ? 料金が違うんだ」と尋ねてきた。運転手が何度も言うし、この先に我々の想像するような場所があるかどうかは分からないので、ガソリンスタンドのところで追加分(20ペソくらいか)を支払って降りた。辺りはガソリンスタンドと数軒の建物が付属しているだけで、商店も食堂らしい建物も見えない。広い通りの向かいは高級住宅になっていて海岸に気軽に行けないようになっていた。
 通りを横切り向かいのバス停でしばらく待っているとセントロ行きのバスが来たので飛び乗る。地名はボカ・デ・リオしか知らないのでそう告げて20ペソ払い、切符をもらった。このバスの運転も荒かった。ボカ・デ・リオを通り越したところで運転手が「ここからは料金が違う。どこまで行くんだ?」と聞いてきた。こちらは地名が分からないので「んー」とごまかしていると「降りるときに精算しろ」みたいなことを言った。藁葺き屋根の食堂らしい建物の並ぶ界隈に来たのでバスを降りた。追加料金16ペソを払う。


 バスを降りると即座にメニューを手に持った呼び込みの女性が近づいてきた。どの料理も結構な値段だ。若い女性が誘ってきた店に入る。藁葺きのレストランを通り越すと、砂浜に日覆いのあるテーブルが並んでいた。そこに腰を下ろし、灯台のある沖合の小島や、弧状に広がる浜辺を眺めた。日覆いのあるテーブルには数組の客が食事をしていた。海水に足をつけてみた。大西洋の海は生ぬるかった。


 頼んだのは大瓶のビール72ペソ、ワダスが魚のカツにチーズを乗せたものFilete Gratinado(135ペソ)、久代さんがCamarones al ajillo(135ペソ)。どちらもまずくはないがコスパはあまり良くない。こちらがレストランの食事をしているというのに、バケツに茹でたエビを入れて売りに来るおっさんや、風呂敷包みを背負いブラウスを売りつけようとする先住民の少女、偽物の時計やサングラス、イヤリング、ポテトチップス、果物などの物売り、アルパとギターを持ったミュージシャンなどがひっきりなしに近づいてくる。海岸の安い食堂でゆっくり日記を書くつもりだったが無理だった。
 チップ込みで食事代420ペソを払い、バスでセントロに戻る。バス代は18ペソ。しばらくホテルで休む。部屋の照明が暗いので日記を書いていると目がしばしばしてくる。
 7時前、広場へ散歩。途中の海軍の建物が重々しい。広場では舞台が作られ、生演奏の準備中だった。舞台の前には白いプラスチックの椅子が並べられ、年配の男女が座っていた。我々も2列目の椅子に座って準備作業を眺めた。久代さんはパン屋で買ってきたパンをかじりつつOXXOで買ったビールを飲む。


 トランペット、トロンボーン2本、サックス、ドラムス、ボンゴ、ギター2本、キーボード、エレキベース、ボーカルの11人編成のバンドだった。バンド名はオルケスタ・ウパヴOrquesta Upav。Upavはベラクルス自治大学の略。ギターを持った小柄な男が歌い始めた。なかなか上手い。典型的なラテン音楽だ。昔ライブで聞いたオルケスタ・デラ・ルスの響きを思い出した。音楽に合わせて最前列に座っていた老人カップルが踊り始めた。足を変な風に上げて踊る男がおかしい。ルンバのようなリズムの曲に変わり、客席の横で一人で踊る女性もいた。音楽隊は若者が多いが、踊るのは老人だけだ。
 舞台での演奏は約1時間。なかなかにハッピーな気分になった。8時に終わり、中年のバンドマスターが主催者らしい女性から記念か何かの賞状をもらっていた。暑苦しく寂れたベラクルスの町だが、こうした音楽が毎日演奏されるのであれば悪くはない。
 レストランのテーブルでも何組かのミュージシャンが演奏していた。マリンバとドラム、アルパとギター、ベース、バイオリンとコントラバスの組など。OXXOでビールとミルク、明日の朝食用のパンを買ってホテルに戻る。

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