2017年9月8日(金) ネパール2週間よれよれ日記

 よれよれ日記もくじ 前の日 次の日


 4時に目覚め、またうつらうつらしているうちに5時40分になっていた。
 6時30分、ミナ・ディディ茶店で定番朝食後、みんなでいつもと違うコースを散歩した。ヴィシャールのよく買う小さな八百屋へ行った。八百屋の小さな娘も彼らに音楽を習っている。娘は今年交通事故にあったと言っていた。

ラメーシュ、ヴィシャールのレッスン

 井上・ヴィシャール部屋に戻り、音出し。
 8時40分、一昨日初めて来たヴィシャールB(29歳)とラメーシュがレッスンにやってきた。ロングトーン、アランカール、アーラープ。ラメーシュは音程と呼吸は安定してきたが、一昨日教えたターンを忘れていた。
 カトマンズの北に住むヴィシャールBは時折り咳をしていたが音感はなかなかしっかりしていた。彼はハリジーのレコードを聞いて笛をやりたいと思い、楽器を買ってなんとなく練習を始めた。町の本屋で見た「7日間でフルートを吹く」みたいな本で独学で練習していたが、1年半前に、エスラージを弾く先生について本格的に習い始めたという。10時30分、レッスン終了。

ヴィシャールB、ラメーシュ


 井上・ヴィシャールはこれから会場へ行き、舞台などの確認をするという。ワダスはマガル家の部屋に戻り、休憩。
 隣で練習していたエヴァがノックした。
「今ヴィシャールから電話があった。1時には帰るので一緒にランチよ」というのでエヴァと共に井上・ヴィシャール部屋へ行ったが、部屋には誰もいなかった。エヴァがキッチンに行って、すでに調理されていたランチを温めた。ほどなく帰宅した井上・ビシャールと、ご飯、ダール、キムチ、冬瓜のサブジーというランチだった。

コンサート会場へ

 2時30分、プラモードのタクシーに乗って会場のアリアンセ・フランセーズへ向かった。

 会場のアリアンセ・フランセーズは狭い路地の奥にある青い4階建の建物だった。各階にフランス語教室があり、一部では授業が進行中だった。コンサート会場は中庭を挟んだ奥の平屋の縦長の建物で、普段は何もない長方形の細長い空間に舞台、客席が整えられていた。
 外でタバコを吸っていると、ここのネパール人スタッフがやって来たので話を聞いた。アリアンセ・フランセーズ・ネパールには35人のスタッフが働いている。うちフランス人は12名。約250人がフランス語を習いに来るという。
 予定では3時からサウンドチェックのはずだった。が、スタッフが来ていない。ナゲンドラもまだ姿を見せない。
 母屋の4階のカフェでコーヒー。しばらくしてナゲンドラ、ミレーシュ、エヴァも上がって来た。空は快晴に近い。ただ、北方の山々の上に雲がかかり、相変わらずヒマラヤは顔を見せない。

ジーワン

 カトマンズ大学教授で、ほとんどのバーンスリー学習者が彼に習っているというジーワンと会場近くで立ち話。ナゲンドラのグルである。小柄な眼鏡をかけたジーワンは50歳という。ワダスとはひと世代違う。チベット・モンゴル系なので日本にもいそうな顔つきだった。
「ナゲンドラの先生なんですよね。ネパールでバーンスリーのグルといったらあなたのことだと聞きました」
 ワダスがこう言うと彼は控えめな笑声で応えた。
「ははは。大したことないですよ。今日は、あなたのようなちゃんとした古典音楽家の演奏を楽しみにしていますよ」

2回目のコンサート

 開演時間の4時頃から人が集まりだした。
 ヴィシャールの村の出身で手伝いに来たサンジャイ、スンダル(ヴィシャールのいとこ)、受付を担当する近所の女の子たち、毎日レッスンにやって来るラメーシュ、マスクをしたサンデーシュなどなど、名前はわからないが見知った顔も多い。
 司会のサクリティが出演者を紹介し、ナゲンドラ、ミレシーュ、ワダス、ヴィシャールが舞台に上がった。ジーワン氏、ラーム・クマール・パーンデー氏(Ram Kumar Pandey、詩人)からそれぞれカターをかけてもらい、花束を受け取った。
 ラーガ・キールヴァーニーの演奏が始まった。これまでの3回の練習で、デュオだから互いに隙間を作って対話するように演奏しようと打ち合わせていた。しかし、聴衆を意識してか、ナゲンドラは自分だけのメロディーに突っ走る。デュオにならない。タブラーとの合奏部分ガットに入っても同じだった。彼の旋律は大きな構想に欠け、聴衆に速さを印象付けようとして複雑になる。ワダスは入り込む余地を見つけるのが難しい。ちょっとイライラしながら彼のソロが終わるのを待つしかなかった。また、ワダスがキューを出すまではソロはなしと確認していたミレーシュも走り出し、なかなか止まらない。ナゲンドラと同じように聴衆にスピードを印象付けようとする演奏だった。このままいくと長時間の演奏になりそうなので、無理やりエンディングに向かって誘導せざるを得なかった。とはいえ、聴衆は十分に楽しんでいるように見えた。
 約70分のキールヴァーニーの後、ナゲンドラによる民謡。ターラはディプチャンディー(14拍子、Dipchandi)。彼の演奏は土地の音楽感覚に溢れ素晴らしかった。
 彼の後を受け、秋田長持唄をバーンスリーと歌で披露した。終わった後、後ろでタンブーラーを弾いていたヴィシャールが歌詞を翻訳した。
 最後はバティヤーリー。時計を見るとちょうど7時。ノンストップで2時間のコンサートになっていた。
 舞台から降りると多くの人たちが近づいて来た。在住の日本人数人にいろいろと聞かれた。「私もバーンスリーを習っている」という女性もいた。黄色の袈裟をつけた日本山妙法寺の僧侶は「秋田出身なので、長持唄を聞いて思わず涙が出ました」と言ってくれた。ネパールでは有名な作家だという、演奏前にカターをかけてくれたラーム・クマール・パーンデー氏と人形作家であるアミタ夫人(Amita Pandey)からは「ぜひ食事にいらしてください」と招待を受けた。他に、バーンスリーを作っているというビジャヤ(Bijaya)、ミトラ小学校や障害者学級の音楽授業でタブラーを演奏してくれたムケーシュと彼の友人のニメーシュ、ジーワン氏など、多くの人との立ち話が続いた。

日本料理店「だんらん」で打ち上げ

エヴァ、サンジャイ ジュンコさん

 会場の後片付けをした後、近くの日本料理店「だんらん」へ行った。井上くん、ヴィシャール、エヴァ、サンジャイ、ほぼ専属タクシー運転手のプラモードの6人。久しぶりのビールが美味しい。ヴィシャールと同じ村出身のサンジャイは、きりっとしたハンサムで、なかなかに面白い男だった。彼は国立のトゥリブバン大学、バンガロールの大学院で勉強してMBAを取得し、今は別の大学で会計学を教えている。音楽も好きで機会があれば井上・ヴィシャールに声楽を習っているという。ワダスのジョークにも即座に反応する、ジョークマインド溢れる青年だった。
 店主のジュンコさんが挨拶に来たので記念写真を撮った。「ネパール移住前の日本では料理はしたことがなかったのよ。それがこんなふうになってしまって」とジュンコさんは話した。店を出る時、日本人のご主人と見送ってくれた。
 マガル・ガンウに着いたのは10時近かった。コンサートに来ていたマガル家のスニータとご主人のアルスが、ケーキを持って出迎えてくれた。
 11時就寝。

 よれよれ日記もくじ 前の日 次の日