メキシコよれよれ日記 (2019年4月12日〜9月10日)

7月7日(日) 前日 翌日
 11時前に咲子さん家族が迎えに来た。緑レストランLa Tiendita Verdeで一緒に朝食を取って、その後ウランデンの「パツクアロのネオヒッピーの月一集会Feria Alternativa」でエスパルタとパフォーマンスをするというのが今日の予定だ。エスパルタからはかねがね何か一緒にやろうと言われていたのでいい機会だった。
 緑レストランで朝食というのは咲子さんの提案。このあたりの人は日曜日はゆっくりブランチを取ってリラックスするのだという。それともう一つの理由があった。4月にモレーリアでやったパフォーマンスのギャラをもらえることになったのでそれで咲子さんファミリーにご馳走したいと申し出た。どんなに贅沢にしても一家5人と我々計7人の一回分の食事には十分な金額だった。で結局、緑レストランで朝食ということになった。このレストランは我々の散歩コースの一部になっていてこれまでは外から眺めるだけだった。かねがねスペイン語の先生エリカが薦めていたし、そこでコーヒーを飲みながらレッスンはどうかと何度も言われていた。彼女によれば、有機野菜や清潔な水を使った養魚場、地ビールなど、環境や健康に気を使った店として有名だということだが、表のメニューをみて全体に高そうなので入るのは躊躇していた。
 通りには車が並び、すでに多くの客が食事をしていた。店内のレイアウトは複雑だ。1階はデコボコの床と庭に数組のテーブル、ケーキ棚、奥に様々な「自然食品」や石鹸などの雑貨の棚、2階はよく手入れされた庭を見下ろす3、4組のテーブル。我々は2階へ。シズ、ジゲン、ピンクの浴衣を着たミヤビはテーブルに落ち着く間もなくあたりを動き回る。


 ちょっと見ないうちに子供達の表情や体格は少し変化していた。ジゲンはそれほどだが、シズちゃんはちょっと背が高くなり、ミヤビの顔も前よりも引き締まって見えた。彼らはワークショップで何度か来ているので勝手知った様子だ。
 咲子さん、エスパルタ、久代さんはそれぞれ味の違うチラキレス、ワダスは目玉焼きの朝食セット。セットにはパンとフレッシュジュース、フルーツカクテルに、コーヒーかお茶がつく。皆の頼んだチラキレスをつまみつつ、ワダスのはごく普通の目玉焼きとワカモレの入った小さな籠状のパリパリのトルティーヤ、豆料理。きっと有機野菜や注意深く与えられた餌だけを食べ広い土地で自由に動き回っていた鶏なんだろう、と思うが、ほぼ目玉焼きのみで1000円近いのはかなりコスパが悪い。結局、勘定は1077ペソ。チップ50を加えて1120ペソ(6720円)。
 エスパルタとパフォーマンスの打ち合わせ。彼が地面に伏せている状態で「悲しく美しい」メロディーを吹く。彼の動きが始まるとそれに応じて即興で吹き、雰囲気を明るくして、終わる。それだけだった。実際は現場に行ってみないとなんとも言えないが、なんとかなるだろう。
 26日にカフェ・ハカランダで予定されていたエスパルタとのパフォーマンスはキャンセルしたという。咲子さんがグアナフアトのレオン・デ・ロス・アルダマで開かれる催しの通訳の仕事のために留守になるのが主な理由だ。

 


 1時過ぎにウランデンの「ネオヒッピー月一集会Feria Alternativa」へ。湖に近い岸辺には前回と同じくらいの数十人が屋根の下で食事をしたり、臨時の持ち寄り売店を巡ったりしていた。大きな木の下では、男が何か喋りながら10人ほどの観客に向かってパフォーマンスをしていた。前回来た時も見た男だった。東屋は、売られているケサディーヤやベルギー女性のケーキ、チーズ、生ハム、装飾品などを見たり味わったりする客で賑わっていた。アメリカ人らしい男が生ハムを売っていた。前に立つと「味見だ」と言ってパンの上に乗せたハムを差し出した。なかなかに美味しい。特に必要というわけではなかったがふと買ってしまった。1袋130ペソ(780円)。横にいた赤ら顔の男に話しかけられた。
「どこから? 日本? おお、行ったことあるよ。英語とスペイン語どっちがいい? 英語? OK。ここで何してるの?」
「しばらく滞在してスペイン語を習っているんだ」
「おお、それはすごい。僕は仏教徒なんだ。創価学会だ。創価学会についてどう思う?」彼はインディアナ出身で60歳。27年間アメリカ国境に近いチワワに住んでいるという。こっちには孫がいるので時々訪ねてくるとのこと。
 木の下のハプォーマンスが終わり、エスパルタとワダスの番になったので、木の下で準備。打ち合わせどおり上半身裸になったエスパルタが芝生の上であぐらをかき、上体を前に投げ出して静止しているのを見て祖谷の民謡を吹き始める。長身の見事な体型のエスパルタが動き出し、石の通路に置いていた一本歯下駄を履いて舞踏の動きで踊る。ワダスは笛を吹きながら彼についていく。東屋の人々から「エスパルタ!」と掛け声が上がる。彼は果物屋のザクロをひとつ手に取り頭に当てた。血のような赤い汁が飛び散る。ワダスは短い笛に替えて吹き続ける。彼がそのまま湖畔の石垣で姿を消して終了。このパフォーマンでギャラ150ペソ(900円)いただいた。期待していなかっただけに嬉しい。ギャラは、バチェのところに整体のために時々やってくるタニヤから渡された。彼女はダンサーでもあり、フラメンコも踊るのだという。前にも書いたが、岡山県の児島にいたことがあるという女性だ。


 咲子さん一家は、来場者のほとんとが知り合いであることや、子供達を放置状態にできるのでそのまま会場に残り、我々はいったん帰宅することにした。駐車場から出るところで、エリカと母親のアリシアが着いたところだった。「あらら、もうパフォーマンスは終わったのね。またあなたの演奏聞き逃しちゃったわ」と二人が言う。「ここで売っているジンジャー・ビールが好きなの。飲んだことある?」とエリカ。
 彼らと別れ、ウエコリオの集落に入る手前の家を通りかかると、中に顔見知りの男の顔が見えた。バチェのところに来ていた時に一度あったことがある。家の外に「紙工房&Cafe」とあった。
「あれっ、バチェのところでお会いしたよね」
「そうだよ。よかったら入って?」と英語で答える。
 奥さんと小さな女の子も出てきた。
「ひょっとしてエステバン? そうかなと思ったんだ。ここで紙を作っていると聞いたけど」
「そうなんだ。工房を見せるから来て」と奥の紙すき工房へ案内された。紙の原料はパツクアロ湖の水草なのだという。砕いて攪拌したり、網で漉してプレスする道具などを見せてくれた。


「今、この紙を使ったプロジェクトをしている。いろんな作家の木版画作品もあるよ。この間はシアトルとロサンゼルスでワークショップをしたんだ。9月にまた行くんだ」
「この間、ウルアパンへ行っとき、塗り師のカルロスに会ったけど、彼があなたのことを話していた。有名なんだなあ」
「あーあ、カルロスね。名前は聞いている。会ったことはないけどね」
「ここではノートとかも作って売っている」と木版画が壁に並ぶ部屋で見せてくれた。カフェと書いてあったが、時々開けているだけらしい。
「落ち着いたらきちんと時間を決めて開けるようにしたい。いつでも通りかかったらノックしてくれ」
 こんな風に偶然知り合いに会うのはなかなか楽しい。
 途中、いつも行くウエコリオの小商店で変な果物を見たので購入した。ツナというサボテンの実だった。味見させてもらった。固い種があるみずみずしい果物だ。ビール6本90ペソと合わせて107ペソ(642円)。


 帰宅して一服し、歩いてセントロへ。大広場では二人のミュージシャンがちゃんとしたスピーカーを使って演奏していた。椅子を並べた客席もあった。なかなか上手いギターと歌だった。


 カフェ・ハカランダへ。今日は7時からブータン行きが決まったアナイのコンサートがある。今日の午前にマルタが知らせて誘ってくれていたのだ。
 久代さんが例によってビール、ワダスがサボテン酒のプルケを飲んだ。白濁したプルケは飲み口は良いが結構アルコールがあり酔う。
 コンサート目当ての客が少しずつ増えてきた。さっきウランデンの集会で会った創価学会のデビッドもいた。演奏を聴きにきたのかと思ったら途中で帰った。
 開始時間の7時7分がとうに過ぎたころ、コンサートが始まった。観客は50人ほどか。カフェ・を運営するヒゲのディエゴと奥さん、妹のキッツィアと子供、そして彼らの両親や、咲子さんもやって来た。


 最初はピアノとチェロのデュオ。バロック音楽を中心としたクラシックだった。高速になった時のチェロの音程がじゃっかん不安定だったが、まずまずの演奏だった。
 彼らに続いてピアノ伴奏でアナイが歌う。スペイン語の「ベサメ・ムーチョ」などのほか、イタリア語のクラシック、フランス語のシャンソン、「サマータイム」など。音程を外さない彼女の歌は素晴らしい。


 終わってから、ピアノ伴奏した男と話した。流暢な英語を話した。聞けば、彼がこれまでブータンにいた人だった。彼が帰ったきたので、代わりにアナイがブータンへ行くことになったのだった。
「ブータンへ出発する前にあなた方を家に招待したいの。バチェとマルタにも来て欲しいので、都合を聞いてほしい」とアナイ。


 店を出たのは10時近い。昼と違い夜のパツクアロの町もいい雰囲気だった。小広場へ行ったがコンビの時間帯ではないらしく、タクシーで帰宅。運転手は60ペソといったが、降りる段になって釣りがないというので100ペソ支払った。ま、いいか。
 ちょっと遅いかと思ったが、アナイの伝言をバチェに伝えようと母屋をノックした。疲れ切った顔のバチェが出て来た。「今日は二人とも疲れちゃって帰って来たんだ。今寝るとこだった。アナイの招待?OK考えておくよ」。

---やれやれ日記
チラキレスはおいしかったよ。目玉焼きの選択はまずったかもね。

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