七聲会、ロンドンへ 

2000年7月5日~7月17日

7日(金)/Sacred Voice Festival, London/Union Chapel
8日(土)、9日(日)
/Sacred Voice Festival, London/Richmond Riverside
10日(月)/City of London Festival, London/Richmond Riverside
12日(水)/The Shed, Brawby, N. Yorkshire
13日(木)/Brewery Arts Centre, Kendal
14日(金)/Tower Arts Centre,Winchester
15日(土)、16日(日)/Sacred Voice Festival, London/Greenwich Park

渡航メンバー

池上良生(いけがみ よしお)善導寺(大阪) ・・・聲明、雅楽
伊藤真浄(いとう しんじょう)法雲寺(京都) ・・・聲明
清水秀浩(しみず しゅうこう)法楽寺(大阪) ・・・聲明
永田眞弘(ながた しんこう)天福寺(福岡) ・・・聲明
橋本知之(はしもと ちし)西蓮寺(大名古屋) ・・・聲明、雅楽
南忠信(みなみ ちゅうしん)大光寺(京都) ・・・聲明/代表
和田文剛(わだ ぶんごう)観音寺(京都) ・・・聲明

中川博志(なかがわ ひろし) ・・・出演管理、通訳、舞台監督

七聲会、ロンドンへ・・・新聞各社へ送付したツアー概要と意義

 この7月、国際交流基金の助成を受け、七聲会(しちせいかい)がイギリス各地で公演を行うことになった。

七聲会とは

 七聲会とは、浄土宗総本山知恩院の式衆(儀式や聲明を専門とする僧侶)を中心に、1993年に結成された聲明グループである。僧侶でも、聲明の専門家でもないインド音楽演奏家のわたしは、あるコンサートの企画がきっかけで設立当初から関わり、彼らの聲明とインド音楽の合奏の試みなどを行ってきた。これまで、神戸、大阪、名古屋、滋賀などのホールで舞台公演を行っている。天台聲明や真言聲明は、内外でたびたび紹介されてきたが、浄土宗僧侶による聲明の海外公演は今回が初めてである。

 男声による単声合唱、聲明

 聲明は、本来、仏教儀式で唱えられる音楽である。しかし、近年は日本の伝統芸能としてだけでなく、音楽表現の一つとして世界的に認知され、現代音楽の作曲家にも注目されてきている。現に、日本だけでなく、欧米の作曲家によって聲明のための作品が作られている。呼び名も、Shomyoとして広く認知されている。
 聲明は、男声(まれに女声)による単声合唱といえる。ただ、一般の音楽のような興奮や劇的な要素は少ない。しかし、単声合唱とはいえ、鍛えられた僧侶によって歌われると、何重にもたちのぼる倍音によって独特の濃密で美しい音楽空間を作り出す。聲明に限らず、キリスト教のグレゴリオ聖歌など、本来は宗教儀式のための音楽が注目されてきたのは、巷にあふれる自己主張の強い音楽に対するアンチテーゼという時代的特性もあるが、その静謐な音楽的美しさが再認識されたからであろう。

シティー・オブ・ロンドン・フェスティバル

 さて、イギリス公演旅行のきっかけになったのは、シティー・オブ・ロンドン・フェスティバルのプロデューサー、マイケル・マクロード氏のフェスティバル出演依頼である。彼は、昨年、国際交流基金の招聘で来日したおり、七聲会に興味をいだいたらしい。そのマクロード氏から昨年12月に「今年のフェスティバルにShomyoグループとして是非出演して欲しい」と正式な申し出を受けた。
 この国際フェスティバルは、ロンドンの金融街シティーを中心に約20日間にわたって繰り広げられる大規模なものである。今年は特に、新千年紀を記念する意味もあり、多数の会場で同時並行して行われる。したがってプログラムは、とてもここで全部を紹介できないほど多い。主なものだけを紹介する。「20世紀の宝物」と題された宝飾工芸品展、建築展、「ベートーベン・ラッシュ・アワー」、バッハ没後250年にちなんだ「バッハ・カンタータの旅」シリーズなどのクラシック・コンサートの他、ジャズ、演劇、民族音楽など。シタールで有名なラヴィ・シャンカルのコンサートもある。

紀元1000年の世界の文化

 われわれの公演は、フェスティバルの「ワールド・アット・ワン」と題されたイベントに含まれる。このイベントのコンセプトは、今から1000年前の人類の文化はどのようなものであったのかを再考してみる、ということである。紀元1000年当時のシティーやイギリスの記録資料展、ヘブライ語聖書の公開、インカ帝国時代のペルーやベネズエラの音楽、バイキング侵入時の戦いの再現、ガーナの打楽器アンサンブル、シルクロード音楽の旅、キルギスの声楽などが様々な会場で紹介される。日本仏教の聲明も、1000年前の音楽文化、という位置づけである。
 現代まで伝わっている聲明(しょうみょう)は、実際は、仏教発生のころからすでに存在していたといわれているので、その歴史は1000年を遙かにさかのぼる。しかし、真言聲明の事実上の創始者といわれる寛朝が活躍したのはちょうど今から1000年前である。また天台宗の寂源や良忍が、仏教音楽院ともいうべき勝林院(1014年)、来迎院(1098年)を大原に開いたのは、ほぼ今から1000年前なので、主催者の位置づけは間違いとはいえない。

イギリス各地で公演

 七聲会は、上記のシティー・オブ・ロンドン・フェスティバルの他に、セイクリッド・ヴォイス・フェスティバルや、ケンダル、ヨーク、ウィンチェスター各都市での公演にも出演することになっている。公演日程は、7月7日、8日、9日セイクリッド・ヴォイス・フェスティバル、10日シティー・オブ・ロンドン・フェスティバル、12日ヨーク、13日ケンダル、14日ウィンチェスター、15日、16日セイクリッド・ヴォイス・フェスティバル。フェスティバル以外は、単独公演である。公演回数の一番多いセイクリッド・ヴォイス・フェスティバルの詳細はまだ届いていないが、ホームページには世界12カ国から300人以上の宗教音楽家、声楽家が参加すると書いてあるので、これもかなり大規模な国際音楽祭のようである。
 今回の七聲会イギリス公演は、各公演とも出演経費がかなり低いため渡航前の準備費すらおぼつかない状況だが、すぐれた日本の伝統音楽文化の一つである聲明の音楽的美しさを数多くの人々に知ってもらうまたとない機会なので、今から楽しみにしている。「声相清雅にして諸人の耳を悦ばしめ音体哀温にして衆類の心を快からしむ」(『声明源流記』凝然大徳[1321年没])聲明が、イギリス各地で響き渡るのはもうすぐである。

七聲会プロデューサー
中川博志(京都市立芸術大学非常勤講師)