1950年代から今日までのディスコグラフィーおよび文献情報からみたヒンドゥスターニー音楽のラーガの実態

13.タートThatによる分類

 タートというのは、1オクターブのなかのどの音が使われているかに基づいて分類する場合の元になる音階のことである。バートカンデーは、下記の10種類のタートによってラーガを分類した。ラーガの分類法は他にもあるが、この方法は現在でも一般的である。

 1.ビラーワルBilaval/Sa Ri Ga Ma Pa Dha Ni Sa' (C D E F G A B C')
 2.カマージKhamaj/Sa Ri Ga Ma Pa Dha ni Sa' (C D E F G A B♭ C')
 3.カーフィーKafi/Sa Ri ga Ma Pa Dha ni Sa' ( C D E♭ F G A B♭ C')
 4.アーサーワリーAsavari/Sa Rig a Ma Pa dha ni Sa' (C D E♭ F G A♭ B♭ C')
 5.バイラヴBhairav/Sa ri Ga Ma Pa dha Ni Sa' (C D♭ E F G A♭ B C')
 6.バイラヴィーBhairavi/Sa ri ga Ma Pa dha ni Sa' (C D♭ E♭ F G A♭ B♭ C')
 7.カルヤーンKalyan/Sa Ri Ga ma Pa Dha Ni Sa' (C D E F# G A B C')
 8.マールワーMarva/Sa ri Ga ma Pa Dha Ni Sa' (C D♭ E F# G A B C')
 9.プールヴィーPurvi/Sa ri Ga ma Pa dha Ni Sa' (C D♭ E F# G A♭ B C')
 10.トーディーTodi/Sa rig a ma Pa dha Ni Sa' (C D♭ E♭ F# G A♭ B C')

 表7に現れるラーガがそれぞれどのタートに分類されているかを調べてみた。表32(下記)はタートに分類されたラーガの数、表33はそのラーガ名を示す。


タート

ラーガ数

Bilaval

71

Khamaj

59

Kafi

131

Asavari

39

Bhairav

63

Bhairavi

14

Kalyan

56

Marva

23

Purvi

27

Todi

11

 合計

494

表32
 表7で示されているラーガの総数は581であったが、表32の合計は494である。87のラーガはどのタートにも分類されていない。このことは、すべてのラーガが必ずどれかのタートに分類される訳ではないことを示している。また、ビハーグBihag(Bilaval, Kalyan)、ガウル・マルハールGaud Malhar(Khamaj, Kafi)、ガウル・ビラーヴァルGaud Bilaval(Bilaval, Khamaj)、シュッド・サーラングSuddh Sarang(Kafi, Kalyan)など、()内に2つのタートが示されているように、どちらのタートにも分類されうるラーガが32ある。タート分類法はこのようにすべてのラーガを分類できないため、ジャイラズボイJayrazbhoyなどは別の方法を提案している(The Ragas of Northern Indian Music)。使用音によって厳密に分類される南インド古典音楽の72メーラカルターと比較すると曖昧さのある分類法といえる。
 表32からは、カーフィー・タートに分類されるラーガ数(131)が最も多いいっぽう、トーディー・タートやバイラヴィー・タートは非常に少ないことが分かる。また、バイラヴィー、マールワー、プールヴィー、トーディーそれぞれのタートに分類されるラーガ数は75であり、全体の15パーセントほどである。これらの音階は、3つの半音が連続するという共通点がある。しかもその組み合わせは以下の2種類だけである。
    Ni Sa ri (B C D♭)
    ma Pa dha (F# G A♭)
 このように3つの半音が連続する音階は、かなり特徴的な限定された雰囲気を持っている。ラーガの数が相対的に少ないのは、その雰囲気や、正確な音程を保持する難しさのせいかも知れない。