1950年代から今日までのディスコグラフィーおよび文献情報からみたヒンドゥスターニー音楽のラーガの実態

10.DHKM、IDiscの出現頻度によるラーガ・ランキング

 1950年から1984年までのDHKMと2004年のIDiscは、ほぼ半世紀間のデータである。もちろんこれらからヒンドゥスターニー音楽全体の、特にラーガの傾向を明確にすることはできない。しかし、ヒンドゥスターニー音楽においてどういうラーガが好んで演奏され、レコードとして記録されて商品として流通してきたのかはある程度推測できる。
 表22は、異なった名称のラーガがすべて単独の自立したラーガとした場合の順位表である。この表からでもある程度の傾向を知ることは可能だが、より実態に近いのは、前項のようにミシュラのついたもの、同じラーガでも異なった名前でリストアップされたと思われるものを統合した順位表(表23)である。表20の上位50位を抜粋したものが表24(下記)。演奏家によって多少の違いはあるだろうが、「1人の音楽家がそれなりの自信を持って演奏できるのは50くらい」(B.C.デーヴァ)という場合の参考になるだろう。

順位

ラーガ

頻度

順位

ラーガ

頻度

1

Bhairavi

405

26

Bhupali

64

2

Pilu

238

27

Puriya Dhanasri

64

3

Khamaj

187

28

Puriya Kalyan

63

4

Darbari Kanhra

183

29

Kedar

61

5

Des

170

30

Miyan Ki Malhar

60

6

Pahadi

148

31

Candra Kauns

59

7

Malkauns

141

32

Durga

58

8

Miyan Ki Todi

131

33

Basant

53

9

Bagesri

117

34

Multani

52

10

Yaman

113

35

Nat Bhairav

52

11

Bihag

105

36

Gurjari Todi

51

12

Lalit

104

37

Suddh Sarang

50

13

Ahir Bhairav

103

38

Bhairav

49

14

Kafi

96

39

Mand

49

15

Jaijaivanti

95

40

Purvi

49

16

Marva

86

41

Sivranjani

48

17

Kirvani

77

42

Bilaskhani Todi

47

18

Ragesvari

75

43

Jaunpuri

47

19

Jog

74

44

Puriya

42

20

Maru Bihag

74

45

Sri

42

21

Bhimpalasi

72

46

Gara

41

22

Madhuvanti

67

47

Kalavati

40

23

Tilak Kamod

67

48

Tilang

39

24

Hamsdhvani

66

49

Sankara

38

25

Jhinjhoti

66

50

Bahar

37

表24
 リストアップされたラーガ名や順位は、ヒンドゥスターニー音楽に親しんでいる人ならうなづけるのではないか。それにしてもバイラヴィーは他のラーガを圧倒して突出している。インド人が最も好むラーガとしてもいいかもしれない。
 上記ラーガの音階構成については、それぞれのラーガ名のクリックによってPDFファイルを表示するので参照してほしい。インド音楽ではA=440サイクルのような絶対音の考え方はなく、かつ音階の始まりの音(西洋音楽の長音階ではドレミのド)がC音(ハ音)である必要はないが、理解しやすいようにすべての音階はCスケールで五線譜に示している。ただし、インドの音階は平均律には基づかないので、近似的な目安である。
 いっぽう、まれにしか演奏されないラーガが相当数あることも分かる。表23は2回以上録音されたラーガを示していて、その数は281である。DHKMとIDiscに出現するラーガ総数は表11のように626なので、差し引きすると1度しか録音されなかったラーガは345であった。