1950年代から今日までのディスコグラフィーおよび文献情報からみたヒンドゥスターニー音楽のラーガの実態

8.DHKM のラーガ出現頻度


順位

ラーガ(器楽)

頻度

ラーガ(声楽)

頻度

1

Bhairavi

79

Bhairavi

68

2

Pilu

58

Malkauns

35

3

Des

50

Darbari Kanhra

33

4

Pahadi

42

Lalit

26

5

Malkauns

36

Pahadi

22

6

Sindhu Bhairavi

36

Jaijaivanti

21

7

Khamaj

35

Pilu

17

8

Bihag

31

Bagesri

16

9

Misra Pilu

31

Des

16

10

Bagesri

30

Kafi

15

11

Kirvani

30

Yaman

15

12

Yaman

29

Khamaj

14

13

Ahir Bhairav

27

Tilak Kamod

13

14

Todi

27

Misra Khamaj

12

15

Maru Bihag

26

Multani

12

16

Marva

26

Bihag

11

17

Misra Khamaj

25

Desi Todi

11

18

Nat Bhairav

24

Marva

11

19

Jaijaivanti

21

Todi

11

20

Jhinjhoti

21

Bhimpalasi

10

21

Lalit

21

Kedar

10

22

Puriya Kalyan

21

Miyan Ki Malhar

10

23

Bhupali

20

Puriya Dhanasri

10

24

Jog

20

Adana

9

25

Madhuvanti

20

Gurjari Todi

9

26

Hamsdhvani

19

Jaunpuri

9

27

Bhimpalasi

18

Purvi

9

28

Candrakauns

17

Bhatiyar

8

29

Darbari Kanhra

17

Gaud Malhar

8

30

Durga

17

Kamod

8

表12
 表12は、DHKMデータの器楽、声楽での出現頻度によるラーガ順位30位までを抜粋したものである。2回以上現れるラーガの総合順位は表13(器楽)、表14(声楽)に掲載した。
 それぞれ上記30位までのラーガは、演奏会でもよく聴かれるポピュラーなものがほとんどである。
 30位までのラーガのうち、器楽のみに現れるものは14、器楽のみが13、共通が16、合計43である。
 表12でも明らかなように、突出して出現頻度の高いのがバイラヴィーBhairaviである。
 一般にバイラヴィーは、指定音のみが忠実に使われる場合は純粋なという意味のSuddh(シュッド=純粋な)をあえて冠して演奏されるほど、「自由度」の高いラーガで、まれに12音すべてを使う場合もある。もっとも基本になるラーガで、筆者がグルから最初に教わったのがこのラーガであった。
 いつからそういう習慣になったかは不明だが、このラーガは「しめ」の曲として演奏会の最後にたいてい演奏される。しかも、軽古典と称されるトゥムリー、民謡、宗教歌謡バジャンといった短めの「歌」で比較的自由に演奏される場合が多い。インドの聴衆は、長時間の重々しいラーガ表現の後に演奏されるこのラーガに開放感と喜びを感じるのであろう。レコードの場合もこうした習慣が意識されて付け加えられた結果、出現頻度が高くなったのではないかと考えられる。
 器楽の順位では同系のスィンドゥー・バイラビィーSindhu Bhairaviが第6番目にきているが、自由度の高いバイラビィーとほぼ同一とみなしてもよい。このスィンドゥー・バイラビィーを加えると、バイラヴィーの出現頻度は他のラーガを圧倒する。
 ついで多いのがピールーPilu。このラーガも、バイラヴィーと同じように自由度が高い。「特にトゥムリー, ダードラー, タッパーなどの軽古典でよく使われる」(Rag-Bodh)といった注釈があるように、比較的「軽く短め」の演奏がほとんどである。短調から長調への解放が交互に現れ、ロマンティックかつ明るい雰囲気を醸し出す。器楽では9番目にミシュラ・ピールーMisra Piluが出てくるが、これも自由度の高いピールーである。ミシュラとは「ミックスした」という意味である。一般にラーガの表現では本来の使用音以外の音を使うのはタブーであるが、効果的に別の音が付加されると一種の驚きの効果を与える。バイラヴィーと同じように、このラーガも長い1曲の後に付け加えられることが多いことから、出現頻度が高いと考えられる。
 ちなみにバートカンデーはLakshya Sangeetのなかで、「あまり音楽を知らない人の間でも最も知られたラーガ」としてこのバイラヴィーとピールーの2つを挙げている。
 器楽と声楽に分けない出現頻度からランキングは表15に示しているが、うち上位30位までは以下の表16に示した。
 表15で2回以上出現するラーガの数は184であった。DHKMのラーガ総数は表11で示しているように418なので、1度しか録音されなかったラーガは234である。つまり半数以上はまれにしか演奏されない(あるいは録音されない)ラーガということになる。


順位

ラーガ

頻度

順位

ラーガ

頻度

1

Bhairavi

188

16

Ahir Bhairav

34

2

Pilu

110

17

Maru Bihag

31

3

Darbari Kanhra

95

18

Kafi

30

4

Khamaj

86

19

Tilak Kamod

28

5

Malkauns

74

20

Nat Bhairav

28

6

Des

66

21

Bhimpalasi

28

7

Pahadi

64

22

Kedar

27

8

Lalit

47

23

Jog

27

9

Bagesri

46

24

Bhupali

27

10

Yaman

44

25

Puriya Kalyan

26

11

Jaijaivanti

42

26

Jhinjhoti

26

12

Bihag

42

27

Hamsdhvani

24

13

Todi

38

28

Multani

23

14

Marva

37

29

Miyan Ki Malhar

22

15

Kirvani

35

30

Madhuvanti

22

表16
 

 なおこの表では、バイラヴィーとスィンドゥー・バイラヴィー、ミシュラを冠するピールーとカマージKhamajは同一ラーガとして扱った。この表16が、1950年から1984年までの間にLPレコード、カセットに録音されたヒンドゥスターニー音楽のラーガ・ベスト30ということになる。