1950年代から今日までのディスコグラフィーおよび文献情報からみたヒンドゥスターニー音楽のラーガの実態

14.ジャーティーJatiによる分類

 ヒンドゥスターニー音楽のラーガは、含まれる音数に応じて一般に下記の3種類のジャーティー(タイプ)に分類される(ただし、非常にまれだが4音のチャトゥスヴァリーChatusvari・ジャーティーも加える場合がある)。
 アウダヴAudav(5音音階=ペンタトニック)
 シャーダヴァShadav(6音音階=ヘクサトニック)
 サンプールナSampurna(7音音階=ヘプタトニック)
 下記は上の分類の典型的なラーガの例である。
 
アウダヴ・ジャーティー・ラーガ
ラーガ・ブーパーリーBhupali
  上行 Sa(C) Ri(D) Ga(E) Pa(G) Dha(A) Sa'(C')
  下行 Sa'(C') Dha(A) Pa(G)  Ga(E) Ri(D) Sa(C)
シャーダヴ・ジャーティー・ラーガ
ラーガ・シュブ・カルヤーン Shubh Kalyan
上行 Sa(C) Ri(D) Ga(E) Pa(G), Dha(A) ni(B♭) Sa'(C')
下行 Sa'(C') ni(B♭) Dha(A) Pa(G) Ga(E) Ri(D) Sa(C)
サンプールナ・ジャーティー・ラーガ
ラーガ・ビラーヴァルBilaval
上行 Sa(C) Ri(D) Ga(E) Ma(F) Pa(G) Dha(A) Ni(B) Sa'(C')
下行 Sa'(C') Ni(B) Dha(A) Pa(G) Ma(F) Ga(E) Ri(D) Sa(C)

 上記の例のように音列が上行(アーローハAroha)、下行(アヴァローハAvaroha)とも直線的に並ぶラーガもあるが、下記のように上行で5音、下行で7音のラーガもある。
ラーガ・ビーンパラースィーBhimpalasi
上行 Sa(C) ga(E♭) Ma(F) Pa(G) ni(B♭) Sa'(C')
下行 Sa'(C') ni(B♭) Dha(A) Pa(G) Ma(F) ga(E♭) Ri(D) Sa(C)

 このように、ラーガは、西洋音楽の「音を高さの順に階段状に配列したもの」と定義されるような音階とは単純にいえない性格をもっている。
 表34(下記)は、表7のデータのジャーティーからみたラーガの分布を表す。それぞれのラーガ名は表35を参照。Jatiの数字は上行の音数と下行の音数を表している。たとえば、5-6であれば、上行で5音、下行で6音ということである。

Jati
上行-下行

ラーガ数

4-4

1

4-5

5

4-6

1

4-7

1

5-5

97

5-6

52

5-7

86

6-5

3

6-6

74

6-7

61

7-7

172

合計

553

表34

 単純に使用音の数でみた場合、4音のみを使ったラーガは1、5音のみは102、6音は130、7音は320になる。7音を使うラーガは全体の約6割、5音と6音がそれぞれ2割という分布である。
 表7の全データ581のうちジャーティーが特定できたのは553なので、29のラーガはジャーティーの特定が難しいことを意味する。
 ラーガが成立する要素としてDevaは「最小音数は5、最大は9である」としていたが、上の表にあるように例外がある。
 下記は4音だけを使った唯一のラーガである。
 ラーガ・バワーニーBhavani
 Sa(C) Ri(D) Ma(F) Dha(A) Sa'(C')
 また、極めて珍しい3音のラーガ、ジャルダル・サーラングJardhar SarangがRAGANIDHIで紹介されている。
    Sa(C) Ri(D) ni(B♭) Sa'(C')
 いっぽう、たとえばミシュラ・バイラヴィーのようにまれに1オクターブ12音すべて使われる場合があることを考えると、厳密なジャーティーによるラーガの分類は難しい。