10月11日(土)

 7時起床。起床時間が確実に1時間遅くなってきた。時差ぼけはもうおさまったのかもしれない。河合はまだ寝ている。スティック状ネスカフェを2本費やしてタバコを吸いに外に出た。遺跡の庭の向こうに見えるまばらな木々が霧にかすんでいた。かなり寒い。
 

スコットランド女性

 

 タバコ場には先客がいた。小太りの30代後半に見える女性だった。煙を吐きながら遠くを見ていた。「寒いね」と声をかけるとワダスを見ていった。

「まったくね。でも、わたしんとこはこんなもんじゃないのよ。冷たい雨がいつも降ってるしね。どこかって? グラスゴーなんです。そうそう、スコットランド。昨日車でここまで来たの。うんざり。どういうとこかって? イングランドもしょっちゅう雨が降ってじめっとしてるけど、スコットランドは湿気に加えて寒いのが難点なのよ。あなたは? どこから来たの? へええ、日本ですか。遠いとこらから来たのね。飛行機でも何時間もかかるんでしょう? 12時間? まあ、遠いわね。もっともわたしも9時間かかったけどね」

「で、スコットランドからは何の用事でこちらへ?」

「姪の結婚式なのよ。夫、2人の娘も一緒に来たの。一族が揃うので来ないわけにもいかないしね。あなたは? へええ、そうなの。仏教のお坊さん。コンサートですか。今晩はどちらでですか? ユーレイ? 知らないね、そんな名前の町は。あっ、そう小さい村なんですか。じゃあ、知らなくて当たり前だよね。ま、できたらあなた方のコンサートに行ってみたいけど、頑張ってね。朝ご飯? そうね、この宿にはないから向こうのレストランへ行くわ。え? リトル・シェフはどうかって? だーめ、あそこは。まずい。じゃあ」

 こんな話をしつつ彼女の部屋の前で別れた。隣の部屋から娘らしい若い女性が顔を見せた。

 

リトル・シェフで朝食

 

 

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 8時に全員集合し朝食をとるためにホテルのすぐ隣のリトル・シェフへ。スコットランド女性が、まずい、といっていた全国チェーンのレストランである。国道沿いによく見かける、日本でいえば「ガスト」とか「ロイヤル・ホスト」みたいなものだ。

 店内にあまり客はいなかった。われわれが席に着くと、短い黒髪の小柄な若い女性店員が注文をとりにきた。宍戸は彼女をすっかり気に入ってしまった。聞けば彼女はスペイン人で、1年前にサラゴサからここに来て働いているとのこと。

「ボーイフレンドはいるの?」

 ワダスがこう聞くと、

「あーら、いるわよ。ほら、あそこのキッチンで働いてるの。彼はバルセロナからよ。でももうすぐ2人で帰るの」

 宍戸は残念という顔をした。後で河合に聞くと、彼はいきなり彼女に「I love you」とささやいたそうだ。もちろん真偽のほどは分からない。

「ところで、皆さんは何をご注文ですか? あなたは? オリンピック朝食ね、OK。あなたは? 満英朝食。OK。コーラだけ? いいわよ、はあい」
 積極的にまずいというわけではないが、大感動するほどの味ではなかった。

 

ストーンヘンジ観光へ

 

 10時にホテルを出た。橋本・佐野・宍戸がSHARAN、河合・和田・HIROSがPoloという組み合わせは昨日と同じ。この日以後は全行程をSHARANが橋本、Poloが河合の運転になった。今日の移動距離は昨日の約2倍だ。ナビーは、今日のホテルのあるスウィンドン到着時間が12:35であると示していた。チェックイン前に着いてしまうとどこかで時間をつぶさなければならない。そこで和田や河合の見ていないストーンヘンジに行こうということになった。

 

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昨日からマニュアルを見ながら使い方を研究していた携帯電話にもだいぶ慣れてきた。マークから預かったときにいろいろと説明を受けていのだが、よく理解できていなかった。この電話はプリペイド式で、借りた当初は25ポンド分使えることになっていた。#1345#にダイヤルすると残額が表示される。1回の通話で1ポンドくらいはすぐになくなることに気がついた。けっこう割高なようだ。もっとも、日本の携帯を使うよりはずっと安い。お坊さんたちは日本の携帯電話をもってきていて、けっこう頻繁に電話していたが多額の請求書が来るかもしれない。

 昨日通ったM11から再びロンドン大環状線M25に入る。直接スウィンドンへ行くにはヒースローあたりでM4を通るのだが、ソールズベリー近郊のストーンヘンジへはM3を通る。真っ青の空が延々と続く高速道路を順調に走った。SHARANを運転する橋本、Poloの河合もイギリスの道路を運転するのはすっかり慣れてきた。いきなりワイパーを動かすこともない。河合はもってきたiPodをFMトランスミッターでカーラジオのFMに飛ばして鳴らした。そうか。FMトランスミッターがあればワダスのiPodも車で使えるわけだ。どこかで買おう。意外なことに30代前半の河合はビートルズがいっちゃん好きだという。

 緩やかにうねる牧草地や麦畑が続く道の向こうに、巨石の立ち並ぶストーンヘンジが見えてきた。ハンドルを握る河合は興奮していった。

「やったあー。ストーンヘンジやあ。前回は素通りしただけでしたからね。ずっと来たかったっんすよ。よかったあ」

 七聲会のツアーは移動と公演が連日で一般的な観光をするヒマがない。だからこうしたちょっとした観光は新鮮なのだ。

 七聲会が初めてストーンヘンジを訪れたのは2003年ツアーのときだった。そのときは、橋本、宍戸、佐野も参加している。その次の2004年は雨のためにすぐそばを通過しただけだった。したがって、5年ぶりの訪問ということになる。

 以前よりも大幅に拡張された駐車場は観光客の車でほぼ満車に近かった。

「うーむ、わしはええわあ」という橋本を残したわれわれは受付で入場料5.9ポンドを支払いトンネルを抜けて敷地に入った。受付ですでに興奮している河合は「これっ、七聲会の経費にしまあす」と宣言。

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 平野にぽつんと立つ巨石の列柱。どんな人々が何の理由で配置したのかはまだはっきり分からない謎の古代遺跡である。日本の観光地にありがちな無意味な立て看板やがさつな土産物屋などがないのが好ましいが、ものすごい数の観光客でざわついていて、古代遺跡に対面して静かに当時を想う、などということは難しい。携帯電話のような各国語対応音声解説器が貸し出されていたのは前回も同じだ。観光客はこの音声解説器をときどき耳に当てて聞きながらゆっくり周囲を歩く。インド人の新婚カップルが巨石を背景に交互に写真を撮っていた。中国人の若者たちが股のあいだに巨石群がくるようなポーズをとっている。東欧系の人々も多かった。

 途中で1人になったワダスは、人でごった返す土産屋をさっと眺めて外に出た。売店で買ったチーズサンドイッチをかじりながら車のところに戻った。駐車場の垣根を越えた牧草地でインド人家族が敷物を敷いて歓談していた。駐車場からそこへは行けないようになっている。どうやって入ったんだろう。数人の中年女性団体がそれを見て「あれ、どこから入るんだろう」とつぶやいていた。

 

スウィンドンのホテル

 

 ストーンヘンジからスウィンドンへは高速道路がないので曲がりくねった細い地道を走り、3時過ぎにスウィンドンの町に入った。

 スウィンドンはこれといった特徴のある町ではない。古い建物なども見当たらず、中低層のビルが立ち並んでいるだけだ。われわれがこの町に来たのは、マークがここにホテルを予約したからだった。ナビーは市中心部にあるHoliday Inn Expressに正確に誘導したのだが、一方通行の加減でストレートにアプローチできなかった。数階建てのその大きな建物は見えている。しかし、細い市街地をぐるっと回っても接近方法がつかめない。われわれは倉庫前の積み荷コーナーのような場所にいったん車を停めた。和田とワダスが徒歩で接近することにして残りの人はそこで待機してもらうことにした。両サイドにレストランやバーなどの立ち並ぶ歩行者道路をしばらく行くとようやくホテル入り口にたどり着いた。どう見てもホテル専用の駐車場はない。ビルの壁面に駐車場の位置の表示があったが、分かりにくい地図だった。

 エントランスのインターフォンに「今晩予約している」と申し述べるとジッという音がしてガラス扉のロックが解除された。エントランスにはエレベーター以外何もない。レセプションのある3階に上った。若い女性2人がいた。

 Tashaという名札をつけた小太りの若い女性に予約の旨を告げた。

「はい、たしかにあなたの名前で予約は入ってます。お支払いはクレジットカードのみですが、よろしいですか。はい? そうです。現金は受け付けていません。ではクレジットカードをお願いします。ええと、ふんふんふんふん、OK。ではこの読み取り機に暗証番号を入力して下さい」

「えっ、暗証番号ですか。覚えていないなあ。どうしたらいい? 普通はサインするだけでしょう?」

「サインじゃだめなんです。全然思い出せませんか? まったく? 困りましたね。どうしましょう」

「他に支払い方法はないんですか。現金だったら今すぐ払えるけど」

「現金は一切取り扱っていないの。当社の規定ではクレジットカードしか受け付けていないんです」

「じゃあ、予約もしてカードももっているのに泊まれないと」

「うーん、そうなりますかね」

 同じ制服を着た隣の細目の女の子が不審者を見るような表情でワダスを見ていた。

 ふと、これでいけるかなという番号を打ち込んでみた。違ったようだ。じゃあこれではどうだろう。だめか。しゃーない、これでどうだ。Tashaが笑みを浮かべていった。

「はあい、これで大丈夫です。皆様は何名ですか? あっ、荷物ですか? まずお車をここの真下までもってきて下さい。そこで荷物をおろして車は所定の場所に駐車して下さい。歩いて5分です。駐車場は中心商店街共通です。北、西どちらでもいいです。空いている場所に停めて下さい。それと、これがお部屋のカードキーです。1階の入り口もこれで開きますよ」

 こうしてようやくチェックインできた。駐車場の正確な位置と駐車方法などを確認して下で待っている和田と合流し皆の待機場所へ戻った。運転手を雇っていればこうした面倒なことはしなくていいのだが仕方がない。荷物を運び上げた後、橋本と河合、ワダスとで駐車場へ行った。Farnby StreetのBrunel North駐車場。商店街にある4階建ての大きな駐車場だった。日本の立体大型駐車場と同じシステムで、出庫ゲートにクーポンを差し入れるとバーが上がる。われわれは2階の空いたスペースに停めた。盗難防止のため必ず電源コードと一緒にナビーを車から取り出す。

 部屋割りは、119号が和田・宍戸、120号が橋本・佐野、118号がワダスと河合だ。ツインベッドの広い部屋だった。これまでのホテルは、ベッド1つにソファベッドのTravelodgeなので、こうした普通のツインベッドは新鮮だった。

 散歩に出てみた。ホテルのあるあたりは町の中心部にあった。レンガ敷き歩行者道路の両側にはクラブ、バー、レストランなどが多い。真向かいにはインド料理店や中華料理店もあった。橋本は、「今晩の打ち上げ会場はあっこの中華にしました。もう、予約しましたよ」という。

 レセプションのターシャにユーレイまでどれくらいかかるか聞いた。

「ユーレイ? それってどこ?」

「この近くの村なんですが」

「ええーっ、聞いたことない。でも近くの村だったらかかっても30分くらいで着くんじゃない?」

 

ユーレイ

 

 頼りない返答だ。部屋に戻り、ナビーに今夜の会場のポストコードを入力すると、45分かかるとの表示。薄暗くなりつつある5時30分にホテルを出た。SHARANに全員乗る。夕闇が次第に迫りくる細い道を走った。夜道にぽつんと宿屋兼食堂があった。こんな宿屋は誰が利用するんだろうか。

 あたりは次第に暗くなる。こうなると、目的地に着けるかどうかは完全にナビー頼りである。ナビーが静かに告げた。

「After 3.5 miles, turn to left」

「ええっ、ほんまかいなあ。こおーんなとこ入るんかあ?」

 ハンドルを握る橋本がつぶやく。

 もちろん、ナビーの返答はない。彼女はこれから向かう道を示すだけだ。

 ナビーはどんどんと細い道に誘導していく。あたりが完全に真っ暗闇になるころ、車1台分の幅しかない未舗装の下り坂になった。対向車が来ても絶対にすれ違うことができない。全員が、本当にこの道でよいのか、とい不安が高まった。ナビーへの不信感がピークを迎えたとき、いきなり人家が現れた。

「Turn to right」

 ナビーは、われわれの不安などまったく意に介さず淡々と告げる。そしてまもなく彼女がこう宣言。

「We arrived at the destination(目的地に着いたでえ)」

 

Prem Arts Center

 

 建物の明かりで照らされた薄暗い駐車場や六角形の建物を見て思い出した。間違いない。やはりナビーは正しかったのだ。

 会場のPrem Arts Centerに来るのは実は3度目である。2003年、2004年に訪れている。2004年のときは、坂道を5分ほど上がったヒル・トップ・ゲストハウスに泊まった。今回なぜ同じ宿をマークに予約させなかったのかとあとでスコットに聞くと、「あそこは汚いからさ。ほら、豚飼ってただろう。だめ、ああいうとこは」という。

 この日はほとんど真っ暗闇に着いたので会場の外観を見ることはできなかったが、六角形の灰色れんが造りの2階建てになっている。1階がバー、2階がホールである。さっそくわれわれは荷物を抱えて事務所入り口から中へ入った。見慣れた風景だ。まもなく、スキンヘッド黒ぶちメガネ小太りの担当者、スコット・ゴードンが現れ「やあやあ、また来たね。4年ぶりかなあ」と声をかけてきた。4歳老けているはずなのに外見はちっとも変わっていないように見えた。近所の役所に勤めているという30代の女性、ヘレンの案内で1階の見慣れた控え室へ。暗唱コードを入力してドアを開けるのも変わっていない。紫色の壁、無造作に置かれたイスや譜面台、控え室の半分を占めているグランドピアノも同じだ。前回はここで掛け軸紛失事件が起きた。宿の女主人がネコババしたに違いないなどという疑惑もあったが、実はこのピアノの上に置き忘れていたことが後で分かり、後に日本まで送り返してもらった。

 2階のホールでは公演準備の最中だった。イスを並べているゴードンに掛け軸を吊るしてもらう。簡単なPAも準備されていたので、マイクとiPod接続の調整を行う。PAの調整を手伝ってもらったのはどこかよわよわしい感じのメガネ男、フィルだ。

 開演時間が近づいたころ、入り口のタバコ場の石のベンチに座って空を見上げた。夜空がくっきりと澄んでいて星のまたたきもはっきり見えた。客もばらばらと集まり出し、タバコ場を囲む。田舎の村にしては人品卑しからぬ服装の中年男女が多い。

 

ユーレイ公演

 

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上左・・・スコット・ゴードン
上右・・・ヘレン中左・・・フィル
中右・・・楽屋
下左・・・舞台

 開演は8時だ。昨晩と同じように宍戸が香を捧げもち舞台へ向かう。左右のイスに座っていた聴衆の話し声がおさまり、木の床を進む雪駄の足音だけが響く。聴衆は70人ほどか。宍戸が戻ってきたのを確認したワダスが舞台中央の座布団に座り、挨拶と簡単な内容説明を行った後、Kaishiki Ranjaniを30分ほど演奏。

 ソロ演奏を終えたワダスは座布団とマイクスタンドを舞台袖にもって移動し、お坊さんたちを待つ。佐野が笏をひと打ちした後、朗々とした声で「なーあーむーあーみーいー、だーあーぶーうー」と唱えると、残りの坊さんが唱和しつつゆっくりと舞台へ向かってきた。それぞれが座布団の位置につき、昨晩と同じように和田先導の「甲念仏」、河合先導の「散華」、宍戸先導の「回向文」、橋本先導の「大懺悔」と続く。瞑目しつつ胡座をかいて彼らの演奏をじっと聞いていたワダスは「大懺悔」の終わりを確認すると手元のiPodのプレイを押してドローンを流し、短いソロのイントロダクションを演奏。ワダスの旋律の終わりの合図である平調(E)のロングトーンを確認した橋本が「阿弥陀経」を唱え始め全員がそれに唱和する。彼らの読経を聞きつつワダスはバーンスリーの音をふわふわと漂わせた。七聲会だけのパフォーマンスでは「散華」と「回向文」に少し乱れがあった。

 演奏後の質問コーナー。今日は佐野に残ってもらった。昨日と同じような質問が途切れなく続いた。「大乗と小乗の違いとはいかに」などという専門的な質問もあった。これだから油断がならない。「お坊さんの袖の下にある長い腕輪は何ですか」という質問に「汗で衣装を汚さないためのものです」と応えると笑いが起きた。長い腕輪というのは藤製汗除腕抜(あせよけうでぬき)のことだ。「君の師匠はハリプラサード・チャウラースィヤーだろう。聞いていて分かったよ」などというコメントもあった。グルの名前がこんな田舎にも知られているのがうれしい。

 CDの宣伝は止めた。一昨日と昨日、紹介したとたんに売り切れたので、もっと大きな会場用にとって置くことにしたのだ。

 外でタバコを吸った帰りに1階のバーで飲み物を売っていたフィルが「お坊さんもよかったけど、あんたの笛、最高。むっちゃ、気に入った」と声をかけてくれた。そこへスコットが現れ、ちょっとちょっと、と手招きし封筒を手渡した。

「今晩のギャラだ。492ポンドある。数えてくれ」

 ワダスは紙幣の束を封筒から取り出して数えた。

「OK? 演奏よかったよ。また今度な」

 ワダスの肩を軽く叩いたスコットは後片付けのため慌ただしく上階へ上がって行った。本当は彼のような主催者とじっくり話すことができればいいのだが、たいていこんな感じになってしまう。まあ、彼にすればわれわれはこの会場に来る数多い「バンド」の一つに過ぎないのだろうが。

 10時ころに会場を出た。あたりには濃い霧が立ちこめていた。会場を出た広い道に入ったので、ナビーは来た時の細い山道とは違うルートを示した。夜道を走り45分でスウィンドンのホテルに着いた。

 

スウィンドンのばか騒ぎ

 

 いったんホテルに戻ったわれわれは、軽い夕食を取るために街に出た。「僕はいいっす」という宍戸は部屋に残った。橋本が予約したという中華料理店は閉店に近かったので断念し、軽食の出るパブを探した。ところがどこも人でいっぱいだった。

 ホテル周辺はコスプレ風の若者たちで溢れ大変な騒ぎだったのだ。まだ未成年のように見える少年たちが肩を組みながら怪しげな足取りで歩き、青やら紫やらさまざまな色に染めた髪、極端に短いスカート、網タイツ、ブーツの若い女の子たち。まるで渋谷とかアキバの雰囲気だ。ベースを聞かせたディスコ音楽がどすんどすんと響く飲み屋は若者たちでごった返していた。拳銃をもった警察官もところどころに立っていた。われわれはいきなりお祭りの騒ぎに巻き込まれた気分になった。これがこの町の夜の通常の状態なんだろうか。

 2人連れの若者に「これは何事なの?」と聞いた。2人はきょとんとした後へらへら笑いながらワダスの坊主頭をなでた。これにはむっときた。空手上人の池上良慶さんなんかがいればたちどころに一発かましたかもしれない。こんなとこで悶着を起こしても得るところは少ないのでワダスはむっ感を押さえ相手にしないことにした。

 酒でも買ってホテルで飲もうかとコンビニに入る。ところが酒類の販売は10時までだという。1人の警官に、どこか静かに軽食を取れるところを知らないかと訊ねると、ちょっと行ったところにまだ開いているインド料理店があると教えてくれた。われわれはそこでタンドーリ・チキンとビール、ワインで腹ごなしをした。タンドーリ・チキンはとてもおいしかった。5人で25.9ポンド。1人当たり1000円程度だったので思ったよりも安かった。

 部屋に戻り、車と部屋割りの組み合わせをちょっと話をした。団体行動からはずれる宍戸に対する橋本のプレッシャーがかかっているなどという話題。まもなく就寝。

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