日記の前に

 2004年についで4回目の七聲会イギリスツアーだった。プロモーターは2000年のツアー以来つきあいのあるマーク・リングウッドだ。
 今回のマークのツアー準備も2004年同様、綿密さを欠いていた。彼からツアー意思の有無を問うメールが来たのは1月だった。そのときは、ある程度の収益が見込めれば行ってもよいと返事した。2004年10月のツアーでは、休みなしの連日公演にも関わらず日本での事務経費をわずかにカバーできただけだったからだ。前回のようになっては困る。ワダスの返答に対してマークは「こことここは確実、あそこではいくらいくらのギャラも期待できるからきみを失望させることはないであろう」といってきた。七聲会メンバーとも相談し前向きに考えようと返答した。そのうち、彼からは「あそこも確実だ、多分、あそこもいける。ギャラはあそこは○○ポンドは間違いない」などとしきりにメールが届いた。彼の情報をもとに予算を組み立ててみると、なんとかいけそうだったので七聲会と相談しOKの返事をした。ところが、こちらが最終的な意思表示をしてから、「どこそこのギャラは確定ではなかった。ミニバスと運転手を雇うと採算がとれるかどうかなんともいえないので、自分たちで運転するということにしてはどうか。主催者提供以外のホテル予約は現金がないので、そちらでやってほしい」などといってきた。こちらは、ツアー成立をあてこんで航空券を購入していたし、ロンドン在住の日本文化紹介プロモーションをしている柳沢晶子さんが笹川財団から今回のツアーの助成金を獲得してくれていたこともあるので後には引けない状況になっていた。
 ということで、結局、ホテル予約もこちらでやらざるを得ないことになった。予算から考えて、前払いだと格安になるホテルを探した。予約したホテルは、イギリス各地にチェーン展開しているTravelodge。前払いだと通常の半額で1人当たり3000円くらいになる。ただし、キャンセルしても払い込んだ代金は戻ってこないというシステムだ。この時点で1ポンド=217円。インターネット予約・購入は思ったほど難しくはなかった。
 出発2週間程前に、PDFファイルのレンタカー契約書とともにマークからこんなメールがきた。

予定のレンタ・ミニバス

「ミニバスは自分の名前で予約した。あとは誰が行っても借りることができる。支払いはクレジットカードでやってほしい。カーナビも、借りる当日に申し出れば90ポンドほどで借りられる。当初予定の1000ポンドよりずっと安く、500ちょっとでいける。ヒースローの近くに事務所があるので借りるのも戻すのも簡単だ。これでちょっとは経費の節約になるであろう」

uk08 どんな車だろうとレンタカー会社のサイトで見てみると、LDV Convoy Minibusという車だった。16人乗りのけっこうでかい車だ。普通の乗用車でもイギリスの道路を自分たちで運転して走ることに不安だったが、あんなでかい車ではどうなるんだろうと不安が増した。とはいえ選択肢はない。なんとかなるだろうと覚悟を決めた。

 公演地の全容が最終的にはっきりしたのが約1ヶ月前。それまで穴のあった日程がほとんど詰まっていた。マークもぎりぎりまで各地主催者と交渉していたようだ。結局、公演のない日は1日だ。

アッチャコッチャの大移動

 その公演地リストを地図に書き込んでみた。えっ、最初のブラックネルはヒースローに近いからいいとして、次のケンブリッジのあと思いっきり西走してユーレイ、ほんでもってケンブリッジに近いノリッチに東走してからぐっと北のヨークだって? でそのヨークからまた南下してカンタベリー? カンタベリーもケンブリッジに近い街ではないか。それで西走してロンドンに寄り、ロンドンには泊まらずそのまま南端のブライトンに移動? で、そこからまた北上してノッティンガムだと? なんという計画なんだ。これじゃあ、イングランド右往左往の旅ではないか。サイコロの出目によって思い切りジャンプしたり戻ったりする双六のような移動だ。


 10月8日(水)関空→ロンドン
 10月9日(木) South Hill Park Arts Centre, Bracknell
 10月10日(金) Cambridge Buddhist Centre、Cambridge
 10月11日(土) Prema Arts Centre、Uley
 10月12日(日) Norwich Arts Centre、Norwich
 10月13日(月) 移動のみ
 10月14日(火) National Centre for Early Music、York
 10月15日(水) The Gulbenkian Theatre、Canterbury
 10月16日(木) St. Luke’s Church、London
 10月17日(金) Brighton Festival of World Sacred Music (St. George’s Church)、Brighton
 10月18日(土) The Djanogly Recital Hall、Nottingham
 10月19日(日)ロンドン・ヒースローから帰国
 10月20日(月)21時関空着

 結局、マークが組み立てたスケジュールに沿って移動することになった。後でレンタカーの走行距離を見ると、1,398.8マイルだった。2,238キロである。鹿児島から青森までくらいの距離だ。

為替変動に翻弄されて

 そして1ヶ月後、銀行から電話でマークからギャラが送金されてきたことが分かった。そのときのレートは1ポンド152円だという。このレートで日本円にするとワダスとしては大赤字になってしまう。仕方なく外貨預金口座を作ってポンドのまま保管することにした。塩漬けである。ツアーの採算が取れるためには1ポンド200円以上でなければならない。いつになったらそうなるのだろうか。イギリスが大躍進してポンド価を高めてくれることを祈るしかない日々なのだ。

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