2018年8月22日(水) メキシコ3週間よれよれ日記  前の日 次の日


 7時起床。雨が降っている。体調はだいぶ戻ってきたみたいだ。
 雨が止んだので庭に降りてホテル全体の写真を撮った。


 練習後、ブランチのために11時にレストランへ行ったが誰もいない。上のホールに行くと女子三人組が法被の染付作業中だった。「あれっ、12時じゃないの」と言う。
 レセプションから角、象くんの部屋に電話するも応答なし。ノックすると2人は部屋にいた。
「12時って聞いたけど」と同じ答え。
 11時というのは下田の勘違いだったようだ。ともあれ11時過ぎに食堂へ集合。レストランのボーイ、リカルドも「12時」という。コーヒーを飲んで待つことにした。

「モリノ」でブランチ

 12時、モニ・パレデスが現れた。このブランチのスポンサーだ。全体にふくよかで大柄な印象の40代の女性だ。ちょっと英語を話す。現在、タカンバロラジオのディレクターをしている。プエブロ・マヒコ委員会のメンバー。タカンバロには2人の息子も含めた家族でメキシコシティーから3年前に引っ越して来た。日曜市ではステージでスピーチをしていたり、WSにもなんども参加していたが、今日まで名前がわからなかった。


 コンソメスープ、芋の入ったチキンサラダの食事。チキンサラダはほとんどツナサラダの味だった。
 象くんはとても人には言えない悪夢を見たという。深夜3時頃、激しい雷雨で起き、ベランダで撮影していると室内の奥から白い人影が動いたと下田。この話を聞いた怖がりの優希子が泣きそうな顔をする。
 夕紀は、自分の展覧会の最中に父が亡くなったのだが、自分が不在の展覧会に行った霊感のある人がこう言った。「大事な人が見に来てた」。これにも優希子がきゃーっと反応。
 音楽学校でガムランの練習をしていると、奏者がいないはずのゴングが鳴った。そのゴングは、地震の時に真っ二つに割れていたという象くんの話。昨夜、深夜、ガタンと音がしたという角。などなど、コワイ話で盛り上がるが、優希子がその度に大きく反応する。
 そのうちマリナ、ジュディー、ルビも合流。
 最後に、上にチェリーやマンゴーなどの乗ったクリーム色のケーキが出てきた。果物アレルギーの夕紀は食べる部分が少ない。
 そこへ初老の小柄な男が、リッュクとヘッドホンを持って現れた。広場でも一度見かけた人だ。なんと、マリナの叔父だという。マリナよりも背の小さい彼は、彼女の胸に顔を埋めながら抱きつきうっとりとしていた。


 ブランチ後、上のホールで法被の染付作業と盆踊りスペイン語版の練習。手伝いの女の子のドゥルセが上がって来て、下田がスペイン語版を教える。カナダ留学の経験もあるドゥルセは地元バンドのエル・グスト・ポル・エル・ソンで歌っているのだ。オリジナルのキーAmは彼女が歌うには低すぎるので、最終的にEmに落ち着いた。このキーだとソプラニーノは音域が拾えないので、バーンスリーにした。歌いやすいようにスペイン語歌詞を節を調整した。こうして盆踊りの地元歌手を確保した。

エステバンの自宅

 4時、招待されていたエステバンの自宅へ。ある原住部族の儀式に参加するため金土日と出かける予定があり、会うのは今日が最後だからと我々を招待してくれたのだ。
 自宅はプリシリアーノ宅の道路を挟んだ真向かいだ。玄関扉を通ると、白い小さな犬ケナ(5歳)が激しく吠えつつ我々の足元の匂いを嗅ぐ。好奇心が旺盛で誰にでもこうするのだとエステバン。
 外からはうかがえない明るいパティオが目に飛び込んできた。5mほどの幅の奥まで伸びたパティオの両側は緑の植栽で埋められ、上から強い陽光が降り注いでいた。住宅部分のそれぞれの部屋はパティオを挟み込むよう配置されている。玄関から入った右角のソファに座った我々をエステバンと母親ラウラがコーヒーやフルーツなどでもてなしてくれた。ラウラは58歳だという。ときおり、お手伝いらしい女性が出入りしていた。

 


 エステバンが、階段を上がった中二階の壁面に飾ってある大きな絵の説明をしてくれた。家族の歴史を一枚にしたものだという。中央に両親、エステバン、メキシコシティーに近い場所に住み、娘もいる弟が描かれていた。中心の家族から離れた位置に描かれた神父姿の男性が曽祖父だという。曽祖父はこの街で一番大きなファティマ教会を創設した。トラクターに乗った男もいた。アボカド農園を営む叔父だという。
 WS参加予定のウリセに調弦法を教わるつもりで象くんが持って来た象嵌の入った美しいギターのような楽器ビウエラをエステバンに見せた。
 エステバンが「僕もギターを持ってるんだ」と奥から持ってくる。「アリゾナで買ったんだ。テイラーのギターだけど、指が痛いから滅多に弾かない」という。下田と象くんがちょっと弾いてみた。象くんが「アメリカの音だあ」という。
 エステバンは我々の座るソファに近い部屋に案内してくれた。ピアノの練習に使っているという。天井からシャンデリアが下がり、壁面は様々な絵が飾ってあった。
 エステバンがラフマニノフのピアノ曲を2曲を弾いてくれた。かなり技術のいる曲だった。演奏する息子、それを聞く我々の様子を母ラウラが写真を撮っていた。
 このピアノは、かつて駐ドイツメキシコ大使館に勤めていた叔父の一人がドイツから送ったものだという。大使館が購入したのだが使われなくなり、叔父が格安で買った。叔父はその後アフリカへ赴任となり、船便でメキシコへ送ってきた。エステバンが4、5歳の頃だという。
「本当はヤマハのグランドピアノが欲しいんですが」とエステバン。
 ラウラが、辛子色と緑のペーストの入ったガラス容器を持ってきた。辛子色のものはあるフルーツ、緑はアボカドのペーストだった。他に、黒い点々のある真っ赤なサボテンの実、スターフルーツ、煮くずれたジャガイモのようなもの、味が柿のようなものなどのフルーツが出された。
 6時になったので全員で記念写真を撮ってエステバン宅を出た。

盆踊りWS

 広場にはすでに何人かがWS開始を待っていた。次第に人が増え、参加者は約30名ほどになった。ほとんどが見知った顔だ。
 準備する様子を眺めていた青年が話しかけてきた。
「あんたらはどこから来たの。あっ、日本人。へええ。文化交流。なるほど。これは何か宗教団体関係の催しか。違う。あっそう。タカンバロはパツクアロに比べてちょっと汚い。それに凶悪事件もたまにあるんだ。3年前には3人の男が射殺された。マフィアもいるし」などと流暢な英語で話しかけてきた。テキサスのダラスに住んでいたが、タカンバロには3カ月前に移り住んできた。インターネットで衣服関係の仕事を始め、なんとかビジネスは回転していると。年齢は23歳。「一緒に参加する」と聞くと「いや、見るだけにする」という。

 


 マイク、スピーカーの準備が終わりWS開始。まず、角の準備運動。全員輪になって角の動きをなぞる。それをタカンバロテレビのマリオがスマホで撮影。
 スペイン語の歌詞を歌って覚えてもらうのが今日の目的。ほとんどの参加者がそれなりに歌えるようになったところで踊りが加わった。一方が歌い、一方が踊る。なんとなく形が整ってきた。本番でも大丈夫そうだ。相変わらず、多くの人たちから写真をせがまれる。

カルラの自宅

 WSが終了し、マリナとルビに案内されて広場に近いカルラの自宅へ。玄関は飾り付けの最中だったので、歩道でしばらく待機。カルラが現れて家の中に招き入れた。家族や友人が紙しぶきと紙飾りを手に待機していた。最後に玄関から入ってきた優希子が全員から紙しぶきを浴びた。明日33歳になる優希子のサプライズ誕生パーティーだったのだ。スペイン語の誕生日ソングを聞く優希子は顔を赤らめて涙ぐむ。
 入ると正面にキッチン、右横が広い居間だ。壁面には様々な写真や絵が飾られていた。祖父母の若い頃のもの、カルラ母の少女時代のもの、何世代か前の曽祖父の乗馬姿などなど。別の壁には酒の瓶がぎっしりと棚に並んでいた。祖父の趣味なのだという。
 現在78歳になる祖父は証券取引のような仕事をしていたらしい。祖母は角と同じ72歳。
 ぷくっとしたカルラ母(40代中頃)が、カタカナで「ハッピーバースデー」とチョコレートで書いたバースデーケーキとゼリーをサーブしてくれた。皆が優希子に、ケーキをかじれとはやし立てる。最初の一口をかじるのが習慣なのかもしれない。口元に白いクリームをつけた優希子が全員から祝福された。
 皆に配られたケーキを食べ、祖父がテキーラ、メスカル、ビールなどを勧め、どんどん座が盛り上がってきた。祖父母が踊り、それにマリセが加わって踊りだす。
 19日に途中からトラックに乗り込んできたコロンコロンとした30代くらいのマリセはこの家族の関係者だった。かつてカルラの兄と結婚してロサンゼルスに住んでいたが、夫が射殺されて戻って来たのだという。そのマリセのリズムに乗った踊りが実にうまい。そこに我々も加わり、大ダンスパーティの様相になってきた。
 マリナとルビは、ジュディに会うために途中で退席していた。
 若い人たちも何人かいたが名前はわからない。途中からは、近所の床屋のおっさん(と思ったが実は元小学校教師カルメロ氏だった)、湖に案内してくれたタデオなどが現れた。

 


 カルラが家の中を案内してくれる。居間の奥はパティオを挟んで廊下になり奥にある祖父の部屋を見せてくれた。ベッドの頭の棚にはおびただしい人形や小物、奥に専用のバスルーム。祖父が「これいいだろう」と帽子を自慢する。
 カルラの叔父が廊下に脚立を持ち出し紐を張り、そこに紙で作られたくす玉を釣り下げた。ピニャタという伝統的な遊びをやるのだという。マリセが指名し、棒を渡された優希子が、目隠しされ回転させられた。スイカ割りのように棒でくす玉を割るのだ。彼女が終わると、角、下田、ワダス、夕紀、祖父など、ほぼ全員が挑戦した。その度にスペイン語の囃子が入る。最後は若く背の高い男が完全に割り、中からキャンディーお菓子がこぼれ落ち、皆に配られた。
 ダンスは続いた。マリセと胸を密着させて踊った角は「幸せ! 最高!」と吠える。最後はピザで仕上げだった。
 11時頃、カルラ、タデオの2人とともにホテルへ戻った。
 下田はマスクをかけて直ちに寝入り、彼のいびきを聞いているうちに意識を失った。

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