第14回 即興の芸術2

●とき/1994年8月21日(日)4:00 pm~7:00pm
●ところ/ジーベックホール(神戸ポートアイランド)
●出演/ラシッド・カーン:声楽、アミット・ロイ:シタール、タンモーイ・ボース:タブラー、デーバプラサード・デーイ:ハールモーニヤム、岸下しょうこ+田中峰彦+田中理子+寺原太郎:タンブーラー
●主催/ジーベック
●共催/(株)オーディネット
●協賛/(株)TOA
●後援/インド大使館、兵庫県、神戸市、神戸市教育委員会、神戸国際交流協会、神戸市民文化振興財団
●企画制作/天楽企画

プログラム

■シタールによるヒンドゥスターニー音楽
■声楽によるヒンドゥスターニー音楽

プログラム解説文

 インド音楽は長い歴史と伝統をもつ音楽だが、今日では単なる民族音楽という範疇を越え、世界中で演奏されている。
 インド音楽は、日本ではまだまだ「珍しい」音楽と思われている。しかし、和音(ハーモニー)をもたず、ある基礎になる音(核音)を中心に旋律が上下する構造は、仏教の「お経」の唱え方などと音楽的に共通しているため、日本の音楽文化を考える上でも重要な存在といえる。
 インド古典音楽には、北インドのヒンドゥスターニー音楽と南インドのカルナータカ音楽という大きな2つの流れがある。本公演は、北インドの古典声楽、特にハヤールという様式の音楽である。
 インドの音楽は、和声を基礎とする西洋音楽と異なり、ある特定の音階型(ラーガ)の制約の中で、いかに変化に富んだ旋律を創造するかを目指した音楽である。その多様な旋律創造の基礎となるのがラーガである。何百とあるラーガには、それぞれに名前がつけられ、固有の音階、主要音、アクセント、特徴的な旋律単位、演奏すべき時間帯、季節、要求される感情表現などがある。演奏家は、これらの要素をすべて踏まえた上で、ラーガという音楽の種子を、もてる技術を駆使し、花と果実のある大樹へ育て上げるのである。
 演奏は、タブラー(打楽器)伴奏のない全くのソロの部分(アーラープ)からスタートする。続いて、タブラー伴奏を伴ったガットと言われる部分へ進んでいく。ガットでは、テーマになるメロディーが一定のリズムサイクル(ターラ)の中で即興的に変奏される。初めはゆっくりとしたテンンポだが、次第にテンポは加速される。そして、その速度がピークに達したとき、全体の演奏が終了する。
 今回の主奏者であるラシッド・カーンの最大の聴きどころは、正確な音程を保ちつつさまざまな装飾技法を伴い、矢継ぎ早に旋律を紡いでいく名人芸と、一貫して流れる平安な感情表現である。