第17回 アジアのスーパーフルーティスト3

●とき/1998年10月4日(日)4:00pm
●ところ/ジーベックホール(神戸ポートアイランド)
出演/ハリプラサード・チャウラースィヤー:バーンスリー、アヌラーダー・パール:タブラー、福原寛:笛、仙波清彦:打ちもの、カミニ+寺原太郎:タンブーラー、HIROS:バーンスリー
●主催/ジーベック
●協賛/(株)TOA
●後援/インド大使館、国際交流基金、神戸国際交流協会
●企画制作/天楽企画、アリオン音楽財団

プログラム

■篠笛と歌舞伎音楽
■タブラーソロとセッション
■バーンスリーによるヒンドゥスターニー音楽

プログラム掲載文

「バーンスリー、単純だけに難しい」

 バーンスリーはインドでは古くからポピュラーな楽器である。13世紀の音楽理論書『サンギータ・ラトナーカラ』にもさまざまな種類の笛について記されている。しかし、ヒンドゥスターニー音楽の主奏楽器として、近年になるまでほとんど使われてこなかった。どうも古典音楽にふさわしい楽器とはみなされていなかったようである。民謡などの大衆音楽で使われていたためか、口に直接触れる楽器ということで不浄とみなされ、楽器カーストとしては低い地位にあったのか、あるいは古典の精妙な表現は無理だと思われていたためか、古典音楽で認知されたのは、おそらく1930年代ころからだと思われる。
 インドの楽器は、どれも修得するには難しいが、一見単純に見えるバーンスリーも例外ではない。とくに厳密な音程と微妙な動きの表現が要求される古典音楽の場合、バーンスリーは機能の限られた単純な構造だけに、むしろ構造のしっかりした弦楽器などよりもずっと難しい楽器といえるかもしれない。ハリプラサード・チャウラースィヤー師(以下ハリジー)は、ボンベイの自宅でレッスン中、わたしにこんなことを言ったことがある。
「バーンスリーは、弦楽器のように調弦がなくていいねと言われるが、とんでもない。いったん調弦すればそのまま演奏に集中できる弦楽器なんかよりはずっと難しい。指穴のあいている位置もいい加減だし、吹き加減や指の押さえ加減によって音程も変わる。だから、どんなに速い旋律でも常に正確な音をきちんと出すには、かなり大変なんだ」。
 たしかにバーンスリーで、正確な音程を維持するのは難しい。指穴は6つしかないのに、半音を含むあらゆる音階に対応しなければならない。バーンスリーでは、半音は、リコーダーや西洋フルートのように換え指を使わず、指穴を半分ずらした加減で出す。したがって、半音の多いラーガだと、穴のふさぎ加減と吐息の調整を常に行いながら旋律を奏することになる。どの楽器も声楽を模す技術が要求されるため、インド音楽では、グリッサンドやポルタメントが多用される。正確な音程でいかになめらかに声楽のような効果を出すか。これが、西洋のフルートなどと大きく異なる、バーンスリーの演奏技術の難しさである。
 本日の主奏者ハリジーは、このような「難しい」楽器を苦もなく流麗に操る。ハリジーは、ヒンドゥスターニー音楽界一の人気を誇り、欧米で「フルートのショパン」と称されているが、バーンスリーという、この単純であるが故に難しい楽器の演奏技術に費やされた時間と根気と集中力は並大抵ではなかったはずである。


 今回参加させていただきます、仙波清彦です。
 
えー、太鼓叩きでございます。いろいろな打楽器を洋邦問わず、ジャンルも問わず二足三足のワラジをはいて世渡りをしておりますが、一応ルーツは歌舞伎囃子ということになっております。この度は、中川博志さんとのご縁で日本の音楽の(まあ一部ではありますが)紹介をさせていただくことになりました。
 日本の音楽といっても、ジャンルは多く、古くは雅楽から神楽、民族芸能、能等々、その中で私は、歌舞伎音楽を代々継承しております。歌舞伎は、皆さんご存じと思いますが、昔のエンタテインメント、いわば庶民のものでございますので、その内容によって囃子(打楽器)も使い分けがなされております。武士の題材では能を、町人ものであれば神楽や祭囃子等々、それぞれのおいしいところを取り上げて、エンタテインメントにしていくわけですから、私たちも能や神楽の専門家の師匠につきまして、習うわけで、いわば音楽のフュージョン状態ともうしましょうか。特にオリジナルとしては、大太鼓のサウンドエフェクト、雨、風、雪等々それらを大太鼓一つで表現するという、なかなか興味深い演奏もございます。今回は、福原寛さんにお手伝いいただいて、すべてというわけには参りませんが、それらの一部をお見せできることと思います。是非、お楽しみ下さい。

(文:仙波清彦)