第21回 日本の長唄、モンゴルの長唄

●とき/2002年9月23日(月)4:00pm
●ところ/ジーベックホール(神戸ポートアイランド)
出演/今藤郁子、今藤文子、今藤美佐緒、今藤長一郎、シャルフーヒン:オルティンドー、ハスバートル:ホーミー、アマルバヤル:馬頭琴、エンフバット:リンベ(笛)
●主催/(株)TOA
●後援/兵庫県、神戸市、神戸市教育委員会、神戸市民文化振興財団
●企画制作/ジーベック、天楽企画

プログラム

■第1部 日本の長唄
長唄 ●越後獅子
 越後国西蒲原郡地方から出る子どもが頭に獅子頭をかぶり芸をしながら歩く獅子舞を題材として作られた歌舞伎舞踊曲。歌舞伎七変化「遅桜手爾七字」(おそざくらてにはのななもじ)の中の曲で、地歌の一部をとり入れた曲。浜唄(漁師が浜辺で唄う民謡)、おけさ踊り(越後の柏崎または佐渡相川町から流行した民謡)、布晒し(両手に長い布をもって洗い晒す様を表した舞踊)などをとり入れてある。変化物というのは、一人の役者がすべて踊り分ける物。
 ●五條橋
 京都の五條橋で弁慶と牛若丸と立ち回りの様子を曲にした物。大薩摩(おおざつま=三味線の激しい演奏)をとり入れ、唄は役によって唄い分けられている。三味線の独奏も聞き所。素唄物(すうたもの)として作曲された。
 ●メドレー
  秋の色種(あきのいろくさ)、吉原雀(よしわらすずめ)、勧進帳

■第2部 モンゴルの長唄MOngol
 ●チンギスハーンをたたえる歌
 ●ヘルレン川のほとり(オルティンドー)
 ●オイルト族のメドレー(馬頭琴)
 ●4種類のホーミー(ホーミー)
 ●四季の歌(笛)
 ●太陽の歌(オルティンドー)
 ●優駿(白い馬)(馬頭琴)
 ●モンゴル民謡
 ●ツェツェン皇帝の襲名
 ●アルタイ山をたたえる歌


企画主旨文

 1989年に始まった「アジアの音楽シリーズ」コンサートも今回で21回を数える。
 今回は、モンゴルのオルティン・ドーと日本の長唄である。
 この両者をとりあげた理由は、単に長い歌という連想からである。かたや馬や羊などをともなって美しい草原を移動する遊牧民の生活から生まれた民謡、一方は江戸時代の町民に人気のあった、三味線を伴奏とした室内楽。同じ歌とはいいながら両者の音楽様式はずいぶん違う。なぜこの組み合わせになったのか。
 わたしはまず日本の長唄をじっくり聴いてみたかった。長唄の今藤郁子さんは、わたしとは、エイジアン・ファンタジー・オーケストラの演奏家仲間である。これまで二度同じ舞台に立ち、長唄のもつ粋(イキ)な魅力にとても惹かれた。いつか彼女の長唄をきちんと聴いてみたいとずっと思っていた。そこへモンゴル国立歌舞団が来日公演を予定していることを知った。モンゴルにも長い歌というジャンルがある。せっかくだから、同じ長い歌ということで両方を聴いてみよう、これが、今回の企画が実現した経緯だ。
 モンゴルのオルティン・ドーは、文字通り長い(オルティン)歌(ドー)である。一息を長くのばして歌いあげることからこの名前がある。チメグレルという独特のコブシの入るゆったりとした旋律線は、モンゴルの広大な草原を滑空するようだ。使われている音階やコブシのせいで、われわれ日本人にはどこか懐かしさを感じる響きをもっている。
 オルティン・ドーのような拍節のない歌い方は、モンゴルだけではなく韓国、イラン、トルコ、ウズベキスタン、ハンガリーなどにもある。日本では、追分や馬子唄がそうである。追分や馬子唄がオルティン・ドーにとてもよく似ているので、これらは馬とともにモンゴルからきたという説もあるほどだ。
 いっぽうの長唄は歌舞伎の伴奏音楽として江戸時代に花開いた。日本の長唄の呼び名は、古今集の長歌(ちょうか)に由来していて、必ずしも長い歌を指すわけではないが、時計のような間隔の一定したリズムではなく、曲の途中で伸縮するリズムで演奏される。
 長い歌の連想で企画された今回のコンサートだが、ともに伸縮するリズムをもつということに注目して聴いてみることもできるだろう。
 現代のわれわれは、西洋的なテンポ感のはっきりした音楽に慣れ、歌うことを忘れつつある。長い時間をかけて特有の音楽美を作り上げてきた日本の長唄と、モンゴルの草原で育まれた両者のゆったりとした「唄」の流れは、こうしたわれわれの耳にはとても新鮮に聞こえるだろう。