「真の文化交流に期待」-在マルセイユ日本国総領事館 前総領事 天野之弥

 天野之弥氏(現IAEA事務局長)にはアクト・コウベ設立当初から、その活動にご理解をいただき、つねに温かいご支援をいただいております。ご多忙の中、ニュースレター創刊に際してご寄稿いただきました。心より感謝申し上げます。
 1995年1月17日、阪神淡路大震災のニュースを聞いていち早く行動した芸術家がいました。その名はバール・フィリップス(Barre PHILLIPS)。彼はマルセイユを中心に、欧州はもちろん、北米、日本で活躍するベース奏者です。彼は震災を受けた神戸の芸術家を支援するため、4月6日、マルセイユ市の芸術家組織であるフリッシュ・ベル・ド・メに共同でチャリティー・コンサートを行うことを呼びかけました。彼の企画には多くの彫刻家、音楽家、写真家、画家、映像作家などが賛同しました。震災一年後には、マルセイユ、神戸のアーティスト達が、日仏共同の創作の場としての「アクト・コウベ」という団体を設立し、神戸ジーベック・ホールで活動の記録展示とオールナイトのコンサートを行い、多くの日仏市民に感動と共感を呼びマスコミにも注目されました。
 マルセイユ市と神戸市は1961年に姉妹提携を行い、市や市議会、港湾関係者レベルでの相互交流が行われてきました。しかし、実質的な市民交流は、大地震の被災の苦しみから生まれたような気がします。
 在マルセイユ総領事館は「アクト・コウベ」の設立当初からバール・フィリップス氏の活動を支援してきました。例えば1997年の「フランスにおける日本年」事業として当館が主催した「日本週間」では、田中秀樹・在ミラノ神戸市事務所長による講演会「神戸の復興」とバール・フィリップス氏による「神戸復興写真展」を開催しました。98年1月には神戸のアーティストから送られた写真や技術作品の展示会がマルセイユ市内で行われ、在マルセイユ総領事館員がオープニングスピーチを行い「芸術活動を通じた市民交流の重要性」を強調しました。
 そして今年1月には日本から7名の芸術家がマルセイユを訪れアルハンブラ劇場等でワークショップやパフォーマンスを披露しました、私も日本側と仏側の参加者一同を公邸にお招きし、夕食会をアレンジさせていただきましたが、そこでも日仏即興芸術が披露され今でも楽しい思い出となっています。
 旧来の文化交流はどうしても政府や地方自治体といった官中心でありましたが、最近はアクト・コウベの活動に見られる芸術家間交流のように、真の意味での市民交流が進んでいることを嬉しく思います。しかもそれらの中には、一過性でなく、息の長い、年とともに交流形態の深まりや多様性を帯びるものが増えつつあり、手伝う我々にも年に一度会う喜びを提供してくれています。来年1月には国際交流基金の支援を受けた交流事業が企画されたと承知していますが、どのような新しい日仏共同パフォーマンスが行われるか今から楽しみにしています。
 21世紀に向け、アクト・コウベの活動が他の日本の文化交流団体にも刺激となり、新しい文化の創造が行われることを願ってやみません。